E Ho'i I Ka Pili

E Ho'i I Ka Pili





Keali'i Reichel



 こっちへおいで、そしてギュッとしよう。
 大切な恋人よ……。
 さぁ、近くへ、そしてまったり過ごそう……。
 愛しいあなた。
 ふたりで愛し合うんだ……。

 E ho'i i ka pili
 E ku'u ipo
 E nene'e mai, e nanea mai
 E ke aloha
 E ho'onipo ka*ua

 両腕を大きく開き、こっちへおいでと誘う誰かの満面の笑みがイメージされる『E Ho'i I Ka Pili』。ふたりして「ka pili」*になる感じを出したくて、ためしに「ギュッ」と訳してみました。それにしても、ひととひとの距離って不思議ですね。視界に入ってくるだけでイライラするひとがいる一方で、これ以上近づけないところまで近づきたいひともいたりする……これって、理屈では測れない動物的な感覚なのかもしれませんね。そんな、恋人同士だけにゆるされる動きというか仕草が、さらっと、でもとびきりおしゃれに表現されているのが、「E nene'e mai, e nanea mai」。熱いはずなのにクールに韻を踏んでいるあたりにグッときます。

 あたなは美しいレイのようなひと。
 私のからだをまるごと包んでくれる。
 そのかぐわしさは、まるでこの胸に重なるレイのよう(にうっとりさせる)。
 愛しいあなた。
 さぁ、ふたりしていまこの瞬間を感じ合おう……。

 He lei wehi 'oe
 No ku'u nui kino
 Lei 'ala ho'o*naona lua i ka poli
 E ke aloha
 E hanu lipo ka*ua

 ハワイ語のmeleでは、恋人をレイにたとえるのがお決まりな感じですが、ここに見られるレイの表現は、なんというかとびきり官能的……そう、単にその美しい姿をながめたり、花の香りにその気配を感じているのではなく、「ku'u nui kino」(私のからだ全体)がまるごと包まれているんですね。その魅力的なお花の連なりに……そういえば、腕を首のあたりにからませたり、相手をハグするときに両腕がまるくつながる感じも、なんとなくレイを連想させるように思います。そして、その香りが充満する空気をふたりして深く呼吸する(hanu lipo)……つまり、愛し合うふたりをつつむ甘い香りを、胸いっぱいに吸い込みながら、いま、このときをめいっぱい楽しむ、みたいな感じでしょうか。お互いの呼吸を感じあうような、そんな愛の交わし方が目に見えるようです**。

 海のざわめき。それはKahakuloaの海からやってくる。
 波は高く、なんども、なんども水しぶきを上げてはふくれ上がる……。
 愛しいあなた。
 さぁ、(こうして)ふたり、どこまでも行くんだね(はてしない愛の海を……)。

 Ka nehe a ke kai
 O Kahakuloa
 Kai ko'o ha*ku'i,pi'i i ka pali
 E ke aloha
 Pulupe* iho ka*ua

 ざわめく海、ふくれあがる波、そして、絶え間なく舞い上がる水しぶき……嵐を思わせるこれらの表現は、おそらく、ふたりだけの世界に没頭する恋人たちの、喜びと痛みが紙一重であるような、ぎりぎりの表現ではないかと思います。身もこころも大きく揺さぶられながら、この私も含めて世界がどんどん輪郭を失っていくときの……。
 一方、この海の描写に続く「pulupe*」には、「びしょぬれになる(drenched)」「水浸しになる(soaked)」といった意味があります。日本語や英語の語感のままだと、なんだか悲惨な印象しかありませんが、恋人たちの喜びが最高潮に達しているであろうことを思うとなんだかしっくりこない……というわけで、ここは思い切って、ハワイ語の世界にある豊かな海のイメージを思い起こしてみました。そう、ハワイの創世神話『Kumulipo』に登場する、闇(po*)とイコールであるような「はじまりの海」を―生命はもちろんのこと、この世界さえそこからはじまったと語られるpo*の世界は、その営みでもって命を未来へつないでいく恋人たちにこそふさわしいのではないかと思う……そんなこんなで、赤裸々な愛の行為のなかに、深い生命の記憶がみえてくるようにも思われた、『E Ho'i I Ka Pili』なのでした。

*:結びつくという動詞の「pili」に定冠詞がつくことで動名詞的に用いいられています。
**:ハワイの伝統的な風習に、呼吸あるいは吐息こそが、そのひとの生そのものであり、ときにマナ(そのひとに備わった力)であるとする考え方があるようです1)。

Composed by Keali’I Reichel(1990s)

参考文献
1)Pukui MK et al: Nana I Ke Kumu (Look to the Source) Vol. 1, Honolulu, The Queen Lili'uokalani Children's Center, p151, 2002
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。