He Ma'i No Ka Lani

He Ma'i No Ka Lani








 王のみなぎる力を祈念するこの歌を(ha'u ha'u e)
 その名も偉大なKaho*'anoku*に捧げます(ha'u ha'u e)

 He mai no ka lani, ha’u ha’u e
 No Kaho*’anoku*, ha’u ha’u e

 「ha'u ha'u」の繰り返しが印象的な『He Ma'i No Ka Lani』。この歌は、タイトルにもあるように「he mele ma'i」と呼ばれるもので、ずばり、王の「ma'i」(生殖器)を讃えています*。そう、王族の血筋が未来永劫続くことを祈りつつ、われらが王の偉大な「それ」について、公の場で声高らかに歌われるmele ma'i……日本ではちょっと考えられないことですが、ハワイでは古代から受け継がれてきたoli(朗詠)における重要なテーマのひとつだったりします。それにしても、そのものずばりを歌うなんて……と思ってしまいますが、日本語でも「ことだま(言霊)」といわれるように、そのものが実際にどうかということよりも、それについて積極的にことばにしていくこと自体が重要なのかもしれません*。

 未来を担うその力の源は(ha'u ha'u e)
 ムクムクと盛り上がり、鼓舞されるままに踊る(ha'u ha'u e)

 Ka pai na* ‘olo, ha’u ha’u e
 Na* ‘olo o ke kuhi, ha’u ha’u e

 ここでは、王の「ma'i」の動きが表現されているのではないかと思われます。だとすると、繰り返し歌われる「ha'u ha'u」が、まさに王のそれがムクムクっと立ち上がってくる感じではないかと……**。ちなみに、「'olo」は「睾丸」を意味するハワイ語だったりするのですが、それが「踊っている(o ke kuhi)」と形容されるなんてすごすぎる……というか、そういいたくなるような勢いで続けられるわけですね。そう、「ha'u ha'u」という動作が……。
 
 上へ、さらに上へと向かうあなた(ha'u ha'u e)
 そう、ずっと遠い上のところまで(ha'u ha'u e)

 下へ、さらに下の方へと向かうあなた(ha'u ha'u e)
 そう、ずっと遠い下の方まで(ha'u ha'u e)

 I luna a’e ‘oe, ha’u ha’u e
 I luna loa ‘oe, ha’u ha’u e

 I lalo iho ‘oe, ha’u ha’u e
 I lalo loa ‘oe, ha’u ha’u e

 上りきったら次ぎは降りるしかないのがモノの道理ですが、「上へ」「下へ」と歌われる内容が、はたして「ma’i」の動きを表わすものなのかどうかは、この歌詞だけでは判然としません。ですが、「I luna a’e ‘oe」「I lalo iho ‘oe」という同じフレーズが、Liliuokalani女王のma’iが歌われている『’Anapau』にもあることからすると、男性器特有の動きを表わしているというよりは、生殖にまつわる行為のはじまりと終わりを暗示しているのかもしれない……と思ったりします。

 未来を生み出す王の力に捧げるこの歌(ha'u ha'u e)
 その力の源である「ma'i」の、そのりっぱなすがたを讃えて(ha'u ha'u e)

 Ha’ina kou ma’i, ha’u ha’u e
 Ma’i nui o ka lani, ha’u ha’u e

 この歌に表現されている「ma'i」の持ち主である王、「Kaho'anoku*」は、カメハメハ王直系の人物のようです。彼にまつわる具体的なエピソードが見つかれば、歌のイメージをもっとふくらませることができるかも……と思って調べてみたのですが、残念ながら、彼のひととなりがうかがえる記述は、文献にもみつかりませんでした***。もっとも、王族の血筋を伝え守るものとして「ka lani」****と呼ばれた彼は、おそらく、彼個人としての人生を歩む以前に、王として生きることを運命づけられていたわけで、観念的にはひとではなく神的なものとして存在していたのではないかと思われます*****。だとすると、彼の「ma'i」を語るmele、あるいはそのもとになったoliを構成することばは、相当、吟味したうえで慎重に選ばれているはずだと思う……そのあたりを感じ取るために、まずは私たちのなかにある思いこみや常識をリセットする必要があるかもしれませんね。ことばで言うほど簡単ではありませんが……。そんなことを思いながら、歌詞のエキセントリックな印象についまどわされてしまう自分を反省させられた、『He Ma'i No Ka Lani』なのでした。


*:「mele ma’i」は、その人の子ども時代に作られるものであることから、その内容は願望や予言的なことがらであったようです。また、文献2の著者であるMary Kawena Pukuiによると、古代のハワイのひとびとは、性器について記述する際も、特別に構えることなく、目や髪の毛といった身体のほかの部位と同じように意識していたとされます。
**:息を吐いたり風が吹く様子から蒸気機関車の煙まで、勢いをともなってなにかがはきだされる様子を表現するときに用いられるのが「ha'u ha'u」です。フラソングでも、このことばのニュアンスを残しつつ、リフレインの部分で歌われることが多いようです。
***:参考にした本は『Ruling chiefs of Hawaii』という、王族の系譜をたどった歴史書です。500頁超の大著ですが、そんな研究書があるあたりにも、ハワイ文化における王族の重要性がうかがえるように思います。
****:「天(空)」という意味を持つ「ka lani」は、比喩的には人の上に立つひとから人間を超えた神的存在までをあらわすハワイ語。
*****:その血筋をできるだけ濃い状態で次世代につなぐという目的のもと、王族たちの間では、一般人とは異なるルールのもとで縁組みが行われていたようです。そこで、いとこや兄弟姉妹といった近い関係での婚姻も、王族に関していえば特別なものではなかったようです。
ハワイの王族たちの血筋が、神聖なものとして守られた事情を、ハワイで「mana」と呼ばれてきたものから探ってみた『ハワイ語のはなし』。http://archive.mag2.com/0001252276/20121219090000000.html

参考文献
1)Kamakau SM: Ruling chiefs of Hawaii. Honolulu, Kamehameha Schools press, 1992, p127
2)Pukui MK et al: Nana I Ke Kumu (Look to the Source) Vo2. 1, Honolulu, The Queen Lili'uokalani Children's Center, 1979, pp84-87
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コメント

tikiroa

歌詞にまどわされてはいけませんね。神聖なメレなんですね。
しかし、動画、すごいです。

隙間のりりー

コメントありがとうございます!
tikiroaさん


先日はリクエストありがとうございました。
コンテンポラリーにアレンジされてる時点で,神聖な意味はずいぶん薄れているのかもしれませんが,もともとどういう思いで歌われたものだったのかを考えると,ハワイの精神的な文化を知るうえで重要な歌なのだと思います。

それにしても,この動画,すごいですよね。。。。載せるかどうか迷いました(笑)。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。