KHBC

KHBC







 (それは)おだやかさに包まれてるんだ。
 そう、Keaukahaのまちのね。
 (そこに)KHBCができる……。
 Peleの住むこの土地に(ラジオ局)だなんて(まったく驚きだよね)。

 Aia i ka la'i, 'u*lala e ho*
 O Keaukaha la 'u*lala e ho*
 KHBC 'u*lala e ho*
 Ka home a'o Pele 'u*lala e ho*

 繰り返される「'u*lala e ho*」の響きから、なにか特別な喜びとか晴れやかな気分が表現されているように思われる『KHBC』。いきなりな感じで登場する「KHBC」ですが、その昔、ハワイ島HiloはKeaukahaの町にできた、ラジオの放送局のことが歌われているようです。そう、この歌のお祭り気分に満ちたウキウキ感は、ラジオ放送によせる期待感そのものなんですね。
 歌のにぎやかな感じとは対照的に、KHBCをそのおだやかさで包んでいる(aia i ka la'i o~)とされるKeaukahaは、行政の政策によってできたハワイ人のための居住地(Hawai'ian homestead)のひとつで、ハワイのネイティブのひとびとが多く暮らしてきたエリアです*。というわけで、派手な近代化の舞台というよりは、むしろハワイの伝統文化を守るとりでのような場所だったのではないかと思われるのですが、そんなおだやかな日常そのものである町にできた放送局は、地域のひとびとにとっては、まるで、突如現れた彗星のような存在だったのではないか……と思ったりします。というか、歓喜に満ちた「'u*lala e ho*」には、そんな町の空気まで伝えているような勢いがあるように思うんですね。あるいは、「Peleの住むところ」(ka home a'o Pele)という表現は、むき出しの大地に広がり始めた電波に対する、素朴な驚きみたいなものを象徴しているのではないかとも……。
 ちなみに、KHBCができたのは1936年のこと。サンフランシスコからエンジニアやディレクターを招いての立ち上げだったようですが、パーソナリティーは地元からも募集され、オーディション的なことも行われたようです。なかには、未来のラジオスターを夢見るひとだっていたかもしれませんね。ともかく、メディアがまだ黎明期にあった時代ですから、相当、エキサイティングな出来事だったに違いありません**。

 (それはエネルギーに満ちて)光輝いている。
 (なんでも)電磁波(というものらしいよ)。
 (だから)離れてても大丈夫なんだって。
 電気ってすごいよね。
 
 Ka 'anapa nei 'u*lala e ho*
 Ka 'uwila ma*ke*neki 'u*lala e ho*
 Mea 'ole ia loa 'u*lala e ho*
 I ka hana ka 'uwila'u*lala e ho*

 (そう)電気によって運ばれるのさ。
 (たとえば)歌声とかさ……。
 さぁ、きみたちも耳を傾けてみて。

 Na ka 'uwila 'u*lala e ho*
 E hali nei 'u*lala e ho*
 Ka leo mele 'u*lala e ho*
 A* lohe 'oukou 'u*lala e ho*
 
 (それは)呼びかけたりとか、歌ったりとかするんだ。
 さぁ、きみたちも耳をすませて……。
 ほうら、聞こえてくるよね。

 Ka*hea nei 'u*lala e ho*
 Ke mele nei 'u*lala e ho*
 'Auhea 'oukou 'u*lala e ho*
 E ho'olohe mai 'u*lala e ho*

 この喜びが伝わったかな。
 歌に込めたこの思いが……。
 (だって)KHBCができるんだよ。
 Peleの住むこの土地に(ラジオ局)だなんてびっくりさ。

 Ha'ina ka puana 'u*lala e ho*
 Ua mele 'ia 'u*lala e ho*
 KHBC 'u*lala e ho*
 Ka home a'o Pele 'u*lala e ho*

 う~ん、なんというか、はじめてのラジオ体験に胸ときめかせながらじっと耳を傾けている……そんなひとびとの様子が目に浮かぶようです。もしかすると、ラジオ自体が貴重だったかもしれず、だとすると、一台のラジオを家族で、あるいは近所のひとたちで囲んだのかもしれないなんてことも思ってみたり……ともかく、ラジオからの呼びかけ(ka*hea)や歌(mele)は、みんな('oukou)***に届けられるものなんですね。そう、ラジオ放送がはじまることは、町をあげての一大事であり、喜びでもあったのです。
 見知らぬものに向かうハワイのひとびとの好奇心というか、目新しいものに対する素直な反応が、聴くほうにもビンビン響いてくる『KHBC』。文字ではなく語り継ぐことで大切なことを伝えてきたハワイのひとびとは、太古の昔から、驚きや感動をこんなふうに生き生きとことばにし、後世に伝えてきたのかもしれません。

by Vickie I'i Rodrigues

*:「Hawai'ian homestead」は、1920年に制定された法令に基づいて進められた、ハワイのネイティブのひとびとのためのコミュニティ作りによってできた居住地区。
**:KHBCは、当時の新聞記事でも話題になったようです。
 http://nupepa-hawaii.com/tag/khbc/
***:3人以上のあなた方(you)を表すことば。
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コメント

tikiroa

このうきうき感は、こういう歌だったのか。ちゃんと訳しておかないとダメですね。反省。
イプを使う曲、今習ってます。簡単そうに見えてたけど、イプをたたきながら踊るの難しいですね。

tikiroaさん(りりー)

実は、なんか調子のいい歌やけど、なんだろな……と長いこと気になってたんです。ちゃんと読んでみてビックリです。

イプ、私も近々習えそうなんですけど、まず手に入れないといけないんですよね~tikiroaさん、もう習ってるんだ!また話聞かせてくださいね。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。