Hinale*

Hinale*





 Hinale*たち、あのHinale*たちがね、
 二人してHina*leaのおさかなになっちゃった!

 Hinale* ma* Hinale* ma*
 Lilo la*ua i mau Hina*lea la

 そう、ひみつは(とうとう)バレてしまったのです。
 (なんと)Kalanimainu'uはトカゲ、つまり魔女だったとは!

 'O ka hu*na* i ho*'ike 'ia
 Kananimainu'u he mo'o, he 'e'epa

 ノリのいいメロディにのせて、コロコロ転がるようにハワイ語が連なっているような、軽やかで楽しげな雰囲気にあふれている『Hinale*』。それにしても、いきなり語りはじめられるこのおとぎ話のような描写には、妙に興味をそそられますね。Hinale*と呼ばれているだれかは、仲間と二人してHina*leaという魚になってしまい、その一方で、Kalanimainu'uが実は魔力を持ったトカゲだったことがバレて……ここだけ読んでも、なんのことかさっぱりわかりませんが、小走りで駆け抜けていくような雰囲気もあって、どこかワクワクするような物語を予感させるところが、この歌にはあるように思います。
 そして、実はこの歌、ハワイのひとびとが伝えてきた、古代の漁業にまつわる民話が題材になっているんですね。どんなストーリーかというと……。
 昔むかし、O'ahu島の北西部、Waialuaの山中に、Kalamainu'uという魔力を持ったトカゲ(mo'o)が暮らしていました。伴侶を求めていた彼女は、サーフィンの名手、Puna'aikoa'eを見初めて連れ帰ります。トカゲと結ばれたとはつゆ知らず、Puna'aikoa'eはKalamainu'uと夫婦生活をはじめるのですが……彼女の魔力のためか、どんどん弱っていくPuna'aikoa'e。そんな彼を不憫に思った二人の農夫(Hinale ma*、Hinaleたち)は、彼にKalamainu'uが魔力をもったトカゲ(he mo'o, he 'e'epa)であることをこっそり打ち明けます。そのことを知って怒り狂ったKalamainu'uは、ヒミツをばらしたHinaleたちを殺そうと決意します。一方、Hinaleたちも必死ですから、海の中に飛び込んでそこらじゅうを逃げまわり、岩陰やサンゴの茂み、そして最後にはたくさん穴があいた海底に隠れ、なんとか難を逃れます。
 それ以上彼らを追いかけることができなかったKalamainu'uは、疲れはてて浜に戻り、そこで眠ってしまいます。そして、そんな彼女の話を聞いて、「ヒミツをばらしたHinaleたちが悪い」と彼女に共感する人物が現れ、海に隠れた彼らを捕らえる知恵をKalamainu'uに授けます。こうして物語は終盤にさしかかり、Kalamainu'uは反撃のための準備をはじめるのですが……そのあたりのことが語られているのが、次のバースの描写なんですね。

 さぁ、'inaluaのつるを集めて、そして、ワナのカゴを編んで。
 おいしいカニをエサにしてつかまえちゃおう!

 'Ohi 'inalua na*na*na* ka hi*na'i
 Umeume aku i ka 'ono 'o*hiki

 穴だらけ、(ホントに海底のそこらじゅうに)穴がいっぱいあいている。
 (でも)もうどこからも逃げられないさ。

 Puka kinikini puka kinikini
 'A'ohe a*na puka e puka aku ai

 こうして、Hinaleたちの好物をエサに、'inaluaのツルで編んだワナ(ka hi*na'i)を仕掛けたKalamainu'uは、みごと彼らの捕獲に成功します。そして、二人を細かくちぎって海に投げ込んだところ、そのかけらたちがhina*leaの魚になった……とそんな物語です。
 それにしても、あれっ?て感じですね。トカゲに追いかけられていたHinaleたちは農夫だったはずなのに、彼らが逃げ込んだ先はなぜか海の中。最後にhina*leaの魚になるまでもなく、Hinaleたちは、いつの間にか海の生き物に変身しているようでもあります。一方、ひととき人間とともに生活しながらも、魔物的存在('e'epa)であるトカゲ(mo'o)のKalamainu'uが、なぜか最後には漁師のようにふるまっている……なんというか、本来は同じ地平に存在しえないはずのものたちが、それぞれの役割を演じながらひとつの物語空間を作り上げている、そんな印象があります。
 というわけで、やや無理矢理感のあるストーリー展開ではあるのですが、この物語が、(おそらく)hina*lea漁のはじまりを語るものであることを思えば、なるほどと思わないでもありません。そう、そこには、あらゆるはじまりが語られるときの、神話独特の物語構造があるのではないかと……たとえば、人間と動物、もっといえば人間と神との境目さえあやふやなところで、人間にとっての世界が立ち上がってくるところを語ろうとする、そんな法外さが、この『Hinale*』の物語には含まれているように思うんですね。
 そして、そんな宗教や神話の源泉を感じさせる物語のなかに、これ以上にないほど実践的な知がともに含まれているあたりは、まさにハワイ的な語りの伝統といえるのではないかと考えられます。この物語は、漁にまつわるワザ(ワナの作り方やエサの選び方)のあれこれを、後世に伝えようとするものでもあると思われるからです。Hinale*たちが隠れていた場所の描写も、もしかすると、hina*leaの魚たちの生息場所を語っているのかもしれないな、とか……。
 こんなふうに、物語を語り継ぐことで守られてきた生活様式が、古代のハワイにはたくさんあったのかもしれません。というわけで、ハワイの語りの伝統をさらりと現代によみがえらせているようにも思われる、そんな『Hinale*』なのでした。

by Kawaikapuokalani Hewitt

参考文献
Kamakau SM: The works of the people of old. Honolulu, Bishop Museum Press, 1976, pp79-82
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コメント

tikiroa

面白い曲ですね。ずっとサボっているので、久しぶりに自分でも訳してみます。
新メレの会、頑張ってください。

りりー

tikiloaさん
コメントありがとうございます。
次回はぜひ参加してくださいね。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。