Koa'e

Koa'e





 Koa'eよ、Koa'e。
 きみはあの高くそびえる峰に住んでるんだよね。
 (それで、山はだを)すべるように飛んだりもする。
 そんなきみの姿を、いつもいいなぁと思いながらみてるんだ。

 E koa'e e*, koa'e e*
 Noho mai 'oe i ke alo pali e*
 Ki*kaha e*, ki*kaha
 Hiehie 'oe i ka'u 'ike e*

 シンプルで素朴なメロディが、世界を自在に飛び回る鳥たちへの思いをストレートに伝えているようにも感じられる『Koa'e』。Koa'eは体長80cmくらい、翼を広げると幅90cmを超える海鳥で、数少なくなったハワイ固有の生物種のひとつでもあります。翼のごく一部分などが黒い以外は全身白い羽におおわれていますが、そのなかでも尾が白いものは「koa'e kea」、赤いものは「koa'e 'ula」と呼ばれます。いずれも、やや赤っぽいオレンジ色のりっぱなくちばしに、ちんまりした足、そして、尾が細くてやたらと長いこともその特徴のようです。
 歌詞に「ki*kaha」(滑空する)とあることからもわかるように、koa'eを際立たせているのは、すがた形の美しさとともに、その飛び方でもあるようです。人間には容易に近づけない、高く険しい山肌を、ゆうゆうとかすめ飛ぶkoa'e……大きな翼を広げて飛ぶkoa'eが、陽の光を浴びながら夢見るように空を舞う姿は、おそらくグライダーのように輝いてみえるに違いないと想像しています。

 (ときには)海のほうにも飛んでいくきみ。
 そこで、魚を捕るんだね。
 (そうして)また戻ってくる。
 そう、くちばしにしっかりと獲物をたずさえて。

 I ke kai e*, i ke kai e*
 I laila ka*u i'a e ki'i ai e*
 Ho'i mai e*, ho'i mai
 Me kahi i'a pa'a i ka nuku e*

 上空から獲物をみつけると、すばやく水面に突っ込んで一撃でものにする……想像するだけでわくわくしてきますが、このバースでは、少し沖へ出たりすると出会えることもある、そんな狩りをするときのkoa'eを描写しているのではないかと思われます。
 単独行動を基本とするkoa'eですが、ときにはほかの種の鳥たちとともに群をなし、陸地を遠く離れていく船についてくることもあるといいます。そうとう長距離を飛ぶことができるのもkoa'eの特徴のようですが、舳先に止まっているその姿をみたら、一緒に旅をしているみたいでうれしくなるかもですね。

 きみの羽、そうきみの羽こそ、
 Ka*hiliに用いられてはその気高さを際立たせもする。
 美しい、ホントウに美しい(羽だから)、
 多くのひとびとに賞賛されてもきたんだね。

 Kou hulu e*, kou hulu e*
 Hanohano wale i ke ka*hili e*
 He nani e*, he nani
 Mahalo i'a e ka lehulehu

 Ka*hiliは、古代のハワイで王族の印として用いられたもので、2、3メートルはあるかと思われるポールの先に、koa'eも含め美しい鳥の羽をふんだんに用いて作られた、巨大なうちわにものぼりにも見える工芸品。ハワイでは、このka*hiliだけでなく、マントやヘルメットといった王族だけが身につける装飾品にも、鳥の羽が多く用いられていました。そんな歴史的な経緯もあって、koa'eの姿は、ハワイのひとびとにとってはある種の賞賛を呼び起こす(mahalo i'a)ものだったりするのかもしれません。

 ずっと高いところ、あの峰のところに、
 きみの住みかはある。
 そう、あのずっと遠い、高いところに、
 きみの大切なひなどりたちがいるんだね。

 I luna e* o ka pali e*
 Kau mai kou pu*nana e*
 I laila e*, i laila
 Kou mau pu*nua aloha

 繁殖期になると、つがいになったkoa'eたちは山のほうに巣を作り、ともに卵を抱いてはひな鳥を育て上げるようです。「きみの大切なひなどりたち」(kou mau pu*nua aloha)なんて表現が、koa'eに対する愛を感じますね。

 さぁ、もう一度、koa'eの姿を思い描いてみよう。
 愛すべき鳥、koa'eをたたえるこの歌(をたよりに)。
 (Koa'eといえば)なんといっても滑空する姿(が最高)!
 きみのあのカッコいい姿に、僕はつい見とれてしまうんだ。
 
 Ha'ina e*, ha'ina e*
 Ka inoa ku'u manu koa'e e*
 Ki*kaha e*, ki*kaha
 Hiehie 'oe i ka'u 'ike e*

 こんなふうに、最後まで徹底的にあこがれの対象として描かれているkoa'e。ですが、古代のハワイでは、その羽が工芸品に用いられるのみならず、食用にされる鳥でもあったようです。それだけに、古代のハワイのひとびとにとっては、ごく身近な存在だったと思われるkoa'eは、ハワイの古いことわざや慣用的な表現によく登場する鳥でもあります。たとえば……

 Ua ma*lie ,ke au nei koa'e.
 「Koa'eがご機嫌に飛んでるってことは、天気も穏やかってことさ」。

 なんというか、人間も鳥も同じひとつの空間に生きている感覚が、ストレートに表現されている素朴さがいいなぁと思ってしまいます*。人間の生活も鳥たちの営みも、決して分断されることなく地続きであるような、大いなる自然への絶対的な信頼感……そんな幸福な世界観のうちに生きることは無理かもですが、すっかり人間だけに意味のある世界に生きてしまっている私たちの日常を、ちょっと反省してみたくもなった『Koa'e』なのでした。

*:ほかにも、koa'eが険しい峰に住む鳥であることから、「きわだって目立つ人」を賞賛するときや、「なかなかつかまらない人」をたとえる、あるいは、あまりに高くて険しい場所を、「koa'eにしか行けない所」と言ったりする、慣用的なハワイ語表現もあるようです。

by Mary Kawena Pukui & Maddy K Lam

参考文献
Malo D: Hawaiian Antiquities. Honolulu, Bishop Museum Press, 1951, p40
Pukui MK: ‘O*lelo no’eau-Hawaiian proverbs & poetical sayings. Honolulu, Bishop Museum Press, 1983, p310

*Koa'eについて
http://dlnr.hawaii.gov/wildlife/files/2013/09/Fact-Sheet-Red-tailed-Tropicbird.pdf
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コメント

tikiroa

この曲、前に先生が踊っているのを見たことがあるので教えてもらえるようリクエストしてみます。
教えてもらえたら、曲の解説はバッチリだし(いつもいつも有り難うございます)、軽快に踊れるよう頑張りたいです。

隙間のりりー

tikiroaさん
キレよく軽快に踊れたら、それこそkoa'eみたいにカッコいいでしょうね~。
参考にしていただけたら嬉しいです。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。