Kai'lilauokekoa

Kai'lilauokekoa





Sean Na'auau


 どうしよう、この気持ち。
 Kai'lilauokekoaのことが好きになっちゃったみたい。
 まいったな、まったく……。
 (会ったこともない)Kai'lilauokekoaに、こんなに気持ちをかき乱されるなんて……。

 どうしよう、好きなんだ!
 まいったよ、好きなんだもの!!
 A e i o u , he ke la mu nu pi we

 'ekahi
 Auwe* ke aloha e
 No Kai'lilauokekoa e
 Auwe* ke aloha e
 No Kai'lilauokekoa e

 Auwe* auwe*, ke aloha e
 Auwe* auwe*, ke aloha a e i o u
 He ke la mu nu pi we

 走り抜けるようなウクレレの勢いと、繰り返される「a e i o u」*がとにかく印象に残る『Kai'lilauokekoa』。用いられるハワイ語の数も限られていて、ことば通りにたどっただけではストーリーが見えにくいところもありますが、なんといってもこの歌のポイントは、「auwe*」という感嘆詞。「Auwe*」は、驚きやとまどい、困惑、悲しみから喜びにいたるまで、あらゆる感情の起伏とともに用いられるハワイ語なのですが、ここでは、ひとつひとつの「auwe*」が、それぞれどんな思いとともに口をついて出たのかを想像しながら訳してみました。
 まず、1番では、歌のタイトルになっている女性「Kai'lilauokekoa」に恋をする青年、「Kauakahiali'i」の思いが語られます。Kauakahiali'iは、Kaua'i島の山深い土地、Pihanakalani**を治める高貴な血筋のもとに生まれたとされる人物。幼いときに両親を亡くし、以来、魔女的な力を持ったKahalelehuaに育てられたと物語りでは語られます。Kahalelehuaに大切に守られたおかげで、Kauakahiali'iは人目にさらされることもなく成長したといいますが、そんなある日、彼は同じ島に住む美しい娘、Kai'lilauokekoaの噂を耳にして、すっかりこころを奪われてしまいます。そして、そんな彼の思いが表現されているのが、1番で歌われる「ke aloha no Kai'lilauokekoa」(Kai'lilauokekoaを思う気持ち)なわけですが、ここで注目すべきだと思うのが、Kauakahiali'iの境遇というか育ちかた。彼の育ての親であるKahalelehua(ka-hale-lehua、lehuaの木の家)が示すように、lehuaの木の茂みに隠されながら―つまり、それまで同じ年頃の女性を目にすることもなく、森の奥深くで生活してきたと思われるからです。そんなふうに想像力をたくましくしてみると、まだ見ぬ女性にこころかき乱される彼の「auwe*!」の意味も、グッとリアルに感じられるように思います。おそらく、自分のなかに目覚めた恋心にとまどいながら、彼はその欲望の正体をまだ知らずにいる……そう、ともかくとびきりピュアな恋なんですね。

 あれっ?あの音はなにかしら……?
 高く響く笛の音が、しかもこんな夜更けに聞こえてくるなんて。
 どういうこと?(なんだか気になる)音だわ。
 ノーズフルートの音が、どうしてこんな夜更けに……。

 なに?なんなのあの音?
 困ったわ? 気になって仕方ないんだけど……?
 A e i o u , he ke la mu nu pi we

 'elua
 Auwe* ke kani e
 Ke kani a ka wi* i ke aumoe
 Auwe* ke kani e
 Ke kani a ka wi* i ke aumoe

 Auwe* auwe*, ke kani e
 Auwe* auwe*, ke kani a e i o u
 He ke la mu nu pi we

 こんなふうに2番では、高く響く笛の音(ke kani a ka wi*)が夜更けに(i ke aumoe)どこからともなく聞こえてくると歌われます。そして、その音に驚いているのがKai'lilauokekoa、笛を吹いているのがKauakahiali'iです。でも、あれっ?二人は笛の音が聞こえるほどの距離に住んでるの!?って感じですが、ここで彼らの位置関係を確認してみると……まず、Kai'lilauokekoaが住むMaka'iwaはKaua'i島南部、Ko*loa地方にある海沿いのまち。一方のKauakahiali'iは、北部Hanaleiの山の中にひと知れず暮らしていた……ということは、真夜中とはいえ、ノーズフルートの音が届く距離ではないわけですが、Kauakahiali'iは養母から魔法の笛を2本譲り受けていて、そのひとつ、Kanikawi*を夜な夜な吹きまくった……と伝説では語られてきたようです。そう、彼がKai'lilauokekoaへの思いを募らせながら吹いたのは、特別な力を持った笛だったんですね。
 そして、次の3番では、笛を吹いていたときの彼の切ない思いが語られます。

 だめだ、この燃え上がるような気持ち……。
 なんだか胸も張り裂けそうなんだけど……。
 がまんできない、(とにかく)欲しいんだ!
 もういっぱいいっぱい、どうにもできない……。

 だめだ!この思い(をどうしたらいいっていうの?)
 がまんできない!こんな気持ちのまんまじゃ……。
 A e i o u , he ke la mu nu pi we

 'ekolu
 Auwe* ka 'i'ini e
 Ka 'i'ini nui a ka pu'uwai e
 Auwe* ka 'i'ini e
 Ka 'i'ini nui a ka pu'uwai e

 Auwe* auwe*, ka 'i'ini e
 Auwe* auwe*, ka 'i'ini a e i o u
 He ke la mu nu pi we

 なんだか、ものすごい盛り上がりようですが、そんなせっぱ詰まった彼の思いは、魔法の笛の音にしっかり貼りついて、真夜中の空気をふるわせたようです。そうして伝えられたメッセージも、この「魔法の笛」の伝説とともに伝えられてきたのですが、その内容がまた意味深なんですね。たとえば、

 Eia me a'u kou aloha a hiki i ka mole o Lehua

 君の愛情はぼくのところにあるよね。Lehua島の太い根っこのところまで(君は)やってきたんだから。

 なんのことかと思いますが、太い根も男性のものなら、性的な意味が婉曲的に語られているのかも(?)と思ってみたり……。ともかく、彼にしてみれば、そんな自分の欲望が、まさか笛の音とともに彼女に届くとは思ってもみなかったかもしれません。それで、悶々と、来る日も来る日も一晩中笛を吹き続けたというKauakahiali'i。ですが、Kai'lilauokekoaの方も負けず劣らずのキャラクターで、笛の音が聞こえ始めてから5日目の夜、いてもたってもいられなくなり、お供を連れて真夜中の山越えを敢行します。そして、一晩中歩きに歩いた末に、明け方になってようやく笛の音もやんだころ、彼が住む渓谷の入り口に到着。本来、そこは人間の領域ではないのですが、森の精も彼女の美しさに神聖さを感じたのか、Kai'lilauokekoaを招き入れてくれます。ですが、Kauakahiali'iの養母、Kahalelehuaは、木の姿に変身して彼を隠してしまうんですね。そうして、Kai'lilauokekoaは、三日三晩、愛をささやいてくれたひとを探してさまよい続けることになります。もっとも、養母Kahalelehuaのほうも、ほどなく二人の仲を認める気になったようで、人間の姿に戻って彼を解放し、Kai'lilauokekoaとKauakahiali'iはめでたくご対面。すると、たちまち二人は恋に落ちたとされるのですが、そんな彼らをお似合いのカップルになると確信した養母は、すぐさま二人の縁談を進める―そんな急展開のもとで歌われるのが、喜びに満ちた次のバースです。

 なんて喜ばしい縁なんだろう!
 僕たちふたり、祝福されて結ばれるんだね。
 そうね、最高のウェディングだわ!
 私たち、やっと一緒になれるのね。

 やったね!一緒になるんだ!
 うれしいわ!結ばれるなんて……。
 A e i o u , he ke la mu nu pi we

 'eha*
 Auwe* ka pili e
 O ka pili pono a ka*ua e
 Auwe* ka pili e
 O ka pili pono a ka*ua e

 Auwe* auwe*, ka pili e
 Auwe* auwe*, ka pili a e i o u
 He ke la mu nu pi we

 こんなふうに、この歌では二人の出会いのシーンだけが切り取られているわけですが、物語にはこのあとまだ続きがあって、しかも、その後の話の展開がかなり謎だったりします。まず、盛大な結婚の宴が行われた数カ月後、どういうわけか、Kai'lilauokekoaは深い眠りにつきます。「わたし、数カ月寝ちゃうけど、死ぬ訳じゃないから心配しないでね」みたいなことばを残して……ですが、ほとんど息もしていないように見える彼女のことを、死んでしまったと思いこんだKauakahiali'iは、彼女の胸に大切なあるもの―先に登場したのとは違う、もう一つの魔法の笛「Kanikawa*」を残し、悲しみのうちに島々をめぐる旅に出てしまいます。そうして、二年もの月日が経ったある日、Kaua’i島からHawai'i島にたどり着いた彼は、その美しさで名高い伝説の女性、La*'ieikawaiに出会っていい仲になります。そして、二人はいよいよ結婚か……と思われる状況になったところで、妻であるKai'lilauokekoaのメッッセンジャー(分身?)が現れ、Kai'lilauokekoaにまつわる話を始めます。「なぜ、ぼくの妻のことを君は知っているんだ!?」と戸惑いながらも、その見知らぬ女性に導かれるままに歩んだその先で、ホンモノのKai'lilauokekoaに再会。まさかKai'lilauokekoaが生きてるなんて!?と半信半疑だった彼の決め手になったのが、別れるときに彼女に託した魔法の笛、Kanikawa*をたずさえていたことだった……そうして、めでたく、二人してKaua’i島に帰ったという、そんな話です。
 Kai'lilauokekoaが死んだように眠ってしまうという展開がまずは奇妙ですが、そんなに愛したひとがいながら、旅先でほかの女性と結婚しようとしたKauakahiali'iもどうなんだ!?という印象があります。最愛のひとを求めるのと同じくらいのエネルギーでもって、別の女性にもひかれてしまう?みたいな、かなり身勝手な男の性の暗示なんだろうか……と個人的には思ったりしますが、ホントウのところはわかりません。というか、唯一の意味を求めたり、線的に進行するストーリーをたどるだけでは得られない面白さがあるのが、語り継がれてきた伝説ではないかとも思ったりします。そう、多くのひとの思いが、時代を経るたびに織物のようにからみ合い、形を変えながらもあるひとつの形をなしている―そんなダイナミックなところが、古代から伝えられてきたハワイの神話にはあるように思います。たとえば、このKai'lilauokekoaの物語にも、『Hawaiian Mythology』2)で紹介されているだけでも6つのバージョンがあり、彼女の男勝りで勇敢な性格が強調されているものや、なかには大トカゲを退治して自ら愛するひとを救う、なんてエピソードが語られるものもあったりします。時空を越えて旅してきたともいえる物語ならではの壮大さ、みたいなものがありそうですが、最後に「Kai'lilauokekoa」には「Ka-i'li-lau-o-ke-koa」(コアの樹の葉っぱのような皮膚)という意味があること、そして、サーフィンが得意だったとされる彼女は、きっと小麦色の肌が美しい、元気はつらつとした女性だったであろうことを想像しながら、筆を置きたいと思います。

composed by Kawaikapuokalani Frank Hewett

*:「A e i o u」はハワイ語の母音、「he ke la mu nu pi we」は、「h k l m n p w」という、「‘(オキナ、声門破裂音)」を除いた7つの子音に母音を組み合わせたもの。古典的な内容のmeleやchantに同じフレーズが含まれているのをみかけたこともあることから,ネイティブハワイアンのこころを伝える母語への敬意が表わされているのではないかと想像しています。
※参考:Kamehameha Schoolの「Song Contest」が元になってまとめられたCD『I Mua E Na* Po*ki’i』のなかの『Aia I Nu’uanu Ku’u Lei Ka*makahala/Kauluwela』
**:Pihanakalaniは、Kaua'i島の北部、Hanalei地方の山深い地域の名前。「Pihana-ka-lani」(神的なものが満ちている)という文字通りの意味は、Kauakahiali'iが住んだとされるその場所の、神聖な雰囲気を暗示しているように思われます。

参考文献
1)Pukui MK, Green LCS: Folk tales of Hawai'i. Honolulu, Bishop Museum Press, 1995, pp34-39
2)Beckwith M: Hawaiian Mythology. Honolulu, University of Hawai’i Press, 1970, pp538-544
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。