He Nani Kekaha

He Nani Kekaha







 あぁ、Kekahaのうつくしい風景が目に浮かぶ。
 (たとえば)ふと目をやると月が出ていて、
 傾きながら、輝きに満ちて天空に浮かびながら、
 やしの木がゆらゆらと、幸せそうにゆれていたりするのを見守っているような……。

 He nani kekaha i ka'u 'ike
 Ke kau ku'u maka a ka mahina
 E hina i ka malama noho i ka lewa
 Ke le'wa lau niu lau kapalili

 煌々と月が輝く真夜中の海辺で、その光景のあまりの美しさに思いをかき立てられ、あふれるままにことばがつむがれている……そんな雰囲気のある、『He Nani Kekaha』。Kekahaは、Kaua'i島の南西部にある海辺のまちで、地図で見ると、海に近いだけでなく山も迫っていて、市街地が広がっているようなエリアではなさそうです。だとすると、真夜中の闇は想像以上に深く、月明かりをいっそう幻想的に浮かび上がらせたのではないか……傾きつつあった(hina)月が、天空にとどまっている(noho i ka lewa)という表現も、思わず月に目を奪われ、しばし見入ってしまったひとの、ふるえるような感動そのもののように思ったりします。そして、ふと目をやると、わたしのこころを映すようにヤシの木もゆれている(kapalili)*……そのゆれる葉も、月明かりに照らされていたかもしれませんね。まるで、月の女神に見守られるように……**。
 
 (そうして)海のささやきにのせて、
 穏やかさに包まれた、ひそやかな歌声が届けられる。
 (すると)大切なmokihanaのleiが現れ(た時のような気分がおとずれる)。
 (それは)わたしのからだを包んでくれる、恋人のやさしいしぐさ(を思わせるものでもあって……)。

 E 'i* mai ana i kai leo
 He leo nahenahe i ka malie
 Ho'ohi'e ku'u lei pua mokihana
 Ka hana a ka ipo no ku'u kino

 波の音さえ、やさしく歌うような声(he leo nahenahe)に思えるほどの恍惚感。それは、mokihanaのleiがとびきり美しい姿で現れる(ho'ohi'e)ときの気分でもあったと歌われます。そう、恋人の愛の仕草が(ka hana a ka ipo)、僕のからだを(no ku'u kino)やさしく包んでくれるときの……。ここでのMokihanaのleiは、おそらく思いを寄せるひとを象徴すると思われますが、leiを差し出された恋人の両腕に置き換えてみたりすると、月夜の海辺とはまた別の情景が思い浮かぶように思われます。もしかすると、白く輝く月の光は、Kekahaの砂浜ではなく、ベッドの上を夢のように照らし出していたんでしょうか……ともかく、夢と現(うつつ)のあいだを行ったり来たりしながら、あるいはそのどちらでもないところでつづられているような、美しくもあやしい世界が浮かび上がってきます。

 かぐわしいlei、このわたしの胸に、
 思いをかき立てながら、ずっととどめておきたい……。
 それは、黄色い花をつけるma*maneの、あの小さい葉をからませたleiなのです。
 
 Ku'u lei a'ala, kau umauma
 E mau e ka wai lau wiliwili nei
 Ua wili e ku'u lei me ka lau li'i
 Ka lau pua lena o ka ma*mane

 風景を静かに眺めながら、しだいに気持ちが盛り上がっていく過程が描かれているようだった前半の雰囲気とは異なり、ここでは、「ku'u lei a'ala」(香りを放つ大切なlei)、つまり魅力にあふれたいとしいひとが、いきなりわたしの胸に(umauma)飛び込んできたような臨場感があります。そして、そのleiに編み込まれているとされる「ma*mane」は、その花ではなく堅い幹が、工具やそりの材料として活用された高山植物だったようです。だとすると、先に登場した香りのいいmokihanaとは対照的に、男性的なものの象徴だったりするのかも(?)……なんてことを思いながらイメージをふくらませてみました。そう、leiにからみつくma*maneの葉は、恋人に向かうわたしの熱い思いであり、思いのままに抱きしめた、あの一瞬の出来事の記憶でもあるのではないかと……。

 もう一度、この歌に込めた思いをこころに響かせてほしい。
 わたしが目にしたKekahaの、あの美しさを歌ったこの思いを……。

 Ha'ina 'ia mai ana ka puana
 No ka nani o Kekaha i ka’u ike

 Kekahaの風景の向こう側に作者がみたものを思い描きながら読んでみると、最後に「歌のテーマをもう一度」(ha'ina 'ia mai ana ka puana)と歌われるときに思い浮かぶ情景が、「he nani Kekaha」(Kekahaは美しい)という歌いはじめのところとは一変していることに驚かされます。それにしても、どんなところなんでしょう?Kekahaって……行ってみたい場所が、またひとつ増えたようです。

Composed by Johnny Lum Ho & written by Charles Kaupu

*:「Kapalili」は、単にゆれたりふるえるだけではなく、文脈によっては「おそれや喜びといった感動でふるえる」という意味があるハワイ語。
**:Hinaは「Hina-hanaia-i-ka-malama」(月で仕事をする女性)とも呼ばれる女神の名前。月でkapa(waukeなどの樹皮をたたいて作る生地)を作る作業をする姿でイメージされることも多いようです。また、一番に含まれる歌詞「e hina i ka malama noho i ka lewa」の「hina」(fall、月が傾く)についても、「輝いて」と訳した「i ka malama」に「月で」という意味もあることを考えあわせると、夜空を行く(hina)月に女神Hinaの姿がだぶるような印象もあります。

参考文献
Beckwith M: Hawaiian Mythology. Honolulu, University of Hawai’i Press, 1970, pp214-225
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。