Lili'u E*

Lili'u E*






 Lili'uさま、
 なんて美しくお座りになっているのでしょう。
 そのお姿は、そっとふれたくなるような印象でもあって……。

 E* Lili'u e*
 Noho nani mai
 Ko* kino e*
 Ki'i milimili

 あなたの瞳はきらきらしてる。
 その頬も、くっきり際だって……。

 Ko* maka e*
 No*weo nei
 Ko* papa*lina
 E* kuku* ana

 光を放つような高貴さを前にしたときの心ふるえる思いが、その印象のままに、飾らないことばで表現されている『Lili'u E*』。イメージをふくらませてくれる素直な語り口が、写真でしか知らない女王Lili'uokalaniの存在感を、ありありと感じさせてくれる不思議なところがこの歌にはあるように思います。ですが、存命中でも女王さまに間近で会えるひとは限られていたと思われますし、なによりも、この歌詞にあるようなその姿をなめるように追うまなざしは許されなかったはず。そんなことを思うにつけ、伏し目がちに目にしたその姿、あるいはなかば想像のなかで思い描かれた女王のおもかげなのかもしれないと思ったりもします。そのあたりは想像するしかないのですが、いずれにせよ、賞賛してやまない対象への思いが途轍もなく深いことをうかがわせる表現が、このあとも続きます。

 あなたの肩のあたりには、
 すずしげに風が舞うような、そんな雰囲気がただよっている。
 その胸のあたりも、まさにしなやかさそのものって感じで……。

 Ko* po'ohiwi 
 Ani pe'ahi
 Ko* poli e*
 Nahenahe wale

 あなたのお膝のあたりは、moiの魚を思わせるラインを描いている。
 そのおみ足が台に置かれている様子(もなぜか感動的で……)。

 Ko* kuli e*
 Nuku moi 'oe
 Ko* wa*wae
 Pahu a'e i luna

 「Ani pe'ahi」には「(風を)起こす」という意味がありますが、実際に風が吹いているというのではなく、すずしげで凛とした女王のたたずまいを表現しているものと思われます。というか、もしかすると、女王のそばには「お付のひと」みたいなのがいて、大きな扇かなにかで風を送っていたりするんでしょうか……これはあくまでも想像ですが、ハワイの王族といえば見上げるような「ka*hili」*がつきものですし、女王がいる空間だけが、ほかとは温度も光の具合も違って感じられるような、そんな特別なオーラが充満していたのではないかと思ったりもします。一方、女王の膝のあたりをmoiの魚の「nuku」(口のあたり)のカーブにたとえているところは、膝頭だから魚の頭なのか(?)と思っても、日本語ではありえない唐突な印象があります。もっとも、ハワイ語で「mo*'i*」といえば王族を意味することからすると、それほど突飛な表現ではないのかもしれませんし、現代でこそ一般に広く食されるmoiですが、古代では庶民が食べることを禁じていた魚でもあったとか……。そう、この隔たりこそが、その存在の高貴さの印なんですね。

 私の思いは伝わったでしょうか。
 Lili'uさま、どうかお美しくお座りになっていてくださいまし。
 
 Ha'ina 'ia mai ana ka puana
 E* Lili'u e*
 E noho nani mai

 Lili'uさま、あなたの名を称えるこの歌に、どうか答えてくださらぬか。
 あなたこそ、(いまも)このハワイ王国を象徴する存在なのですから……。

 E* o* e* Lili'u i kou inoa
 Ka hae kalaunu o Hawai'i nei

 おそらく、女王Lili'uokalaniに対する尽きせぬ忠誠心が語られていると思われる『Lili'u E*』**。彼女が王位についたとき、すでに王政は泥船状態だったことを考えると、ある種の政治的な態度表明でもあるといえるこの歌の、切羽詰まった意味合いが見えてくるような気もしてきます。そう、あなたこそがハワイ王国の象徴(ka hae kalaunu o Hawai'i、ハワイ王国の旗)と、あらためていわざるを得ない、そんなぎりぎりの状況があったんですね。そして、残念ながら王国の旗は降ろされ、いつしか合衆国のそれに置き変わってしまった……。それでも、この歌が多くのひとに愛され、今日まで歌い継がれてきたことの意味を考えながら、これだけは譲れないといまもハワイのひとびとが大切にしているなにかがあるに違いない―なんてことを思わせられた、そんな『Lili'u E*』なのでした。

*:「Ka*hili」は、赤や黄色の貴重な鳥の羽をふんだんに使った工芸品で、古代のハワイで王族の存在を印すために用いられたもの。ハワイの博物館に展示されているものを見たことがあるのですが、ひとの背丈を越えて天井にも届きそうなほどの高さがあって、かなりの存在感というかインパクトがありました。
**:この歌は、もともとAntone Kao'oが作ったKina’u女王(Kamehameha一世の娘)を称えるoli(chant)を、後にLili'uokalaniの歌に作りかえたものだとされています。

参考文献
Kanaheke: Hawaiin Music And Musicians-An Ilustrated History. The University Press Of Hawaii, pp226-227, 1979

Chant by Antone Kao'o/Music by John Kaulia

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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。