'Akaka Falls

'Akaka Falls





DARLENE AHUNA



 はじめて目にしたのです。
 そう、あの'Akakaの滝を。
 (それは)はるかに見上げる場所から、
 繊細なしぶきをまとい、山々へと流れ続けていたのでした。

 Malihini ku'u 'ike 'ana
 Kahi wailele 'o 'Akaka
 Kau maila i luna
 Lele hunehune maila i na* pali

 はじめて出合ったその滝のある風景を、心がふるえるままに目に焼き付けたときの感動が、美しいメロディにのせて静かに語られる『'Akaka Falls』。'Akaka Fallsは、Hawai'i島の東側、Hamakuaコースト沿いにある、豊かな水量をたたえ滝で、観光スポットとしても人気のある場所。442フィート(約130メートル)もの高さから流れ落ちるといいますが、写真でみるだけでも、熱帯の植物におおわれた緑の山肌を、轟音とともに落ちるその様子が想像されます。ですが、この歌のほうは、記憶をひとつ、ひとつ拾い上げるような雰囲気のせいか、滝の存在感を際だたせる、周囲の静寂のほうにいざなわれるようなところがあります。あるいは、滝を目の前にしたそのひと自身も、もうひとつの世界への入り口にも思えるその光景を前にして、意識が遠くさまよい始めたのかもしれない……そんな、夢とうつつのさかいめを感じさせるところが、この歌にはあるように思います。

 思いはぐいぐいと、その美しい光景に引きつけられていく。
 (まるで)その場所に、香り高い空気が充満するかのようにも思えて……。

 Kau nui aku kahi mana'o
 E 'ike lihi aku i ka nani
 Ia uka i pui*a
 I ke 'ala me ke onaona

 そこは、まさにうっとりした気分を誘うようなところがあって、
 いつもやわらかなミストに包まれている。
 (そして)その香りを放つようにも思える風景は、
 私のこころのなかに、いまも香り続けているのです。

 Onaona wale ho'i ia uka
 I ka pa'a mau 'ia e ka noe
 Ia uka ku*paoa
 E moani nei i ku'u poli

 そっと近づいてみる。
 'Awapuhiの花を摘み取ろうとして。
 そうして、旅人(に過ぎない私)がleiにして身に着けるのです。
 私だけが楽しむものにしたいから……。

 I ne'e aku au e 'ako
 I ka pua o ka 'awapuhi
 I lei no ka malihini
 Na'u ia a e honihoni

 香り高い空気が充満するその空間(ia uka i pui*a i ke 'ala me ke onaona)……ガイドブックをみると、'Akaka Fallsのあたりには、歌詞にある「'awapuhi」(ジンジャー)の花が実際に咲くようです。ですが、目の前の風景をただたどっているというよりも、そこに重ねられている作者の思いが、それこそ、その場所の香りとともにこちらに迫ってくるような、不思議な臨場感がこの香りの描写にはあるように思ったりします。そして、きわめつけは、'awapuhiの花を摘もうと近づいて(i ne'e aku au e 'ako)、それをleiにし、「この私がその花を香って楽しむのです」(na'u ia a e honihoni)と、私(na'u)が強調されるところでしょうか。Leiを身につけることが、愛するひととの抱擁であったり、ときには愛の営みでもあったりするハワイ語の世界の独特の時空間が、静かに、でも力強く歌い上げられていて、その行間からあふれてくる美しさに、ただただ圧倒される思いがします。

 あらゆる力をもつ神によって、
 私が大切に思うその場所の、この花々が守られますように……。

 Na ke Akua mana loa
 E kia'i maluhia mai
 I ke*ia mau pua
 O ku'u 'a*ina aloha 

 いきなり「神」(ke Akua)が登場することに驚かされますが、'Akaka Fallsは、「'Akaka」という名の神がこの滝のあたりに住んでいたと語られる、ある有名な伝説の舞台でもあります。神的な存在をめぐって語られるだけに、ストーリー展開にやや尋常でない部分もあるのですが、そのおおまかなところを少したどってみたいと思います。

 むかしむかし、ある滝の近くに‘Akakaという名の神が住んでいました。彼は、妻と忠実な一匹の犬とをパートナーとして暮らしていましたが、二人のガールフレンドとも仲良くしていました。彼女たちはそれぞれの名をLehua、Maileといい、滝の北側がLehua、南側がMaileの場所でした。
 ある日、‘AkakaがLehuaと一緒に過ごしていると、思いがけず彼の妻が家に帰ってきました。妻が自分のことを呼んでいるのを聞いて、早く帰らなければと思った‘Akakaは、あやまって滝に転落。そうして、かつて‘Akakaに背いたために滝に落とされ石になった、彼のいとこのKihaが眠る同じ場所で、自らも命を落とすのでした。そのあと、難を逃れてがけにとどまった‘Akakaの犬も、彼を追うように石になり、‘Akakaを助けようと駆け寄った彼の妻も滝のふちで石になるという悲劇が続くのですが、‘Akakaを愛したLehuaとMaileも、泣きながらその滝のやや下流で、それぞれ水の流れへと姿を変えてしまいます。

 いまでも、滝の上にある大きな石にlehuaの枝でふれたり、maileのレイをかけたりすると、決まって雨が降るとされる'Akaka Falls。二つの水の流れへと姿を変えたLehuaとMaileが、悲しみの絶えない‘Akakaの妻に涙させるからなんだいいますが、この滝の名前は「二つに分かれる」という意味をもつハワイ語「’akaka」に由来するものでもあるようです。写真で見ると、滝を少し下ったところに、実際に二股に分かれているスポットもあるようで、なるほどって感じですが、それにしても、登場するキャラクターたちがのきなみ石に姿を変えてしまうという結末は、神話とはいえ、かなり奇妙なストーリー展開ではあります。滝周辺にある目立つ石が、‘Akakaに殺されたKiha、‘Akakaの妻や犬に割り当てられたためであろうかとも思いますが、「神によって」(na ke Akua)「守られますように」(e kia'i)と語られる場所ですから、まずは、そこに広がっているであろう、なにか神的な存在を思い起こさせる風景をイメージする必要があるかもしれません。そう、石といえば、ひとの生をはるかにこえるスパンでもってそこにあるものですし、永遠に循環し続ける水が、その風景の守り神のように、いつからかその場所に滝となって存在し続けていることも、人間にとっては「大いなる力」(mana loa)のおかげとしかいいようのない驚きなのですから……。

 もういちどこころに響かせてみてください。
 あの'Akakaの滝のすばらしさを。
 (それは)はるかに見上げる場所から、
 繊細なしぶきをまとい、山々へと流れ続けていたのでした。
 
 Ha'ina 'ia mai ka puana
 I kahi wailele 'o 'Akaka
 Kau maila i luna
 Lele hunehune maila i na* pali 

 いつからはじまったとも言えないことがらを語ろうとするときの、あの神話特有の物語空間が、リアルな世界に重ねあわされて語られる‘Akakaの物語。そして、その物語がはりついた神聖な場所にはじめて立ったときの、ことばを失う体験から語られたのが、この『'Akaka Falls』ではないかと思ったりします。だとすると、歌いはじめの「malihini ku’u ‘ike ‘ana」にも、「私はこの光景をはじめて見た」という以上の思いが込められているのではないかと思ってみたり……。そんな、神話の時空間にふれたひとの表現に、人間がこの世界にはじめて出合ったときに生まれたであろう、「はじまり」のことばのきらめきを感じた、そんな『'Akaka Falls』なのでした。

http://www.hulahips.com/akaka/ (滝の風景と伝説)

by Helen Lindsey Parker
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。