Na* Wai Kaulana

Na* Wai Kaulana






 Waikapu*といえば、ホラ貝にちなんだ名を持つ流れ。
 Puapualenalena(の伝説が思い起こされる)その場所は、
 Kokololioの風が吹くところでもあって。

 Waikapu*, wai o ka pu* kani la*
 Pili ia* Puapualenalena la*
 Papaia*ulu a'e ka makani Kokololio

 高揚感あふれるリズムと明るいメロディが、歌に込められたはずむ思いを感じさせる『Na* Wai Kaulana』。タイトルにある「名高い水」(na* wai kaulana)は、Maui島の西側エリアを流れる「na* wai ‘eha*」(4つの河川)のことで*、歌ではそれぞれの流れのある風景がひとつずつたどられていきます。
 まず登場するWaikapu*は、Maui島の東西のさかいめ、ひょうたんのくびれのようにみえるあたりに向かう水の流れです。Maui島の西側エリアの谷深い風景は、火山の名残である中央のカルデラから四方に下る水の力によってきざまれ、長い年月をかけて今日にいたったものですが、Waikapu*もそんな川のひとつです。そして、「Wai-ka-pu*」(ホラ貝の〔音がひびく〕水)という不思議なネーミングの由来が表現されているのが「Puapualenalena」(しっぽの毛が黄色い犬)。なんでもWaikapu*のあたりに、ハワイの島中に届くほどホラ貝が鳴り響く洞窟**があって、超能力を備えた犬、Puapualenalenaがホラ貝を盗むまでその音が聞かれた……という、そんなストーリーが語り継がれてきたようです。古代のハワイには、その音が神的なものを呼び寄せるという信仰のもと、神から授かったとされる「pu*」(ホラ貝)をめぐり、ひとびとを治める立場にあるali’i(chief)たちによる争奪戦が繰り広げられたという、数百年にわたる歴史があったんだとか。その過程で、この由緒ある「pu*」(ホラ貝)にまつわる伝説が数多く残されてもきたようで、Waikapu*の名とともに語られてきたのも、そのなかのひとつだと思われます。それにしても、ハワイ中に届く(かと思われる?)ホラ貝って、そんなものが存在したんだろうか……にわかには信じがたいですが、少なくとも、もうひとつの世界への入り口が開かれるような、この世のものとは思えない不思議な音が鳴り響く神秘的な洞窟が、Waikapu*にあるのではないかと想像しています**。

 Wailukuといえば、すばらしい水とともにある。
 (そこは)Lawema*lieの風がやってくるところで、
 'I*aoのダムで知られてきた場所でもあって……。

 'O Wailuku, wai kamahoi la*
 Hao mai ka makani Lawema*lie la*
 Kaulana no* Kepaniwai a'o 'I*ao

 ダム(kapaniwai)で知られるとされる'I*aoは、カルデラの中央に向けてそびえる渓谷の名前。そして、先のバースで歌われたWaikapu*など、東方向に流れる水の流れが土砂を運び堆積してできた平地がWailukuです。
 「Wai kamahoi」(すばらしき水)と歌われるように、Wailukuは豊かな水に恵まれた土地で、その特性を生かして、サトウキビ栽培が盛んに行われた時代がありました。水量が多い土地がサトウキビ農場として選ばれることが多かったのは、当時は製糖の過程で水力が欠かせなったためですが、人工的にせき止めるなどして水の流れがコントロールされたため、古来、ハワイのひとびとの主食であったkaloの栽培など、伝統的な農業の衰退を招く結果となったようです。そして、そんな状況を変えるべく運動を続けてきたMauiのひとびとの努力が実り、川の流れを本来の状態に戻すという歴史的事業が行われることになったのが、ようやく2014年になってから。そして、その記念すべき日の喜びを表現したのが、この『Na* Wai Kaulana』なんですね。この歌の歓喜に満ちた雰囲気も、なるほどって感じです。

 Waiehuといえば、濃い霧に包まれるところ。
 そこにはいい感じに水の流れがあったりもする。
 肌を刺激するように吹く風にそっとなでられることも……。

 'O Waiehu i ka uhiwai la*
 Kahekahe iho ka wai 'oluolu la*
 'I*niki ma*lie ka makani ho*'eha 'ili

 Waihe'e といえば、香る空気に包まれているところ。
 そう、Waihe'eは緑生い茂るゆたかな土地。
 (まるでそれは)Kili'o'opuの風と手をたずさえるようでもあって……。

 'O Waihe'e i ke onaona la*
 Waihe'e ke kuauli uluwehiwehi la*
 Hoapili mai 'oe i ka makani Kili'o'opu

 Waikapu*、'I*aoと、まず内陸部にある流れがたどられましたが、ここでは海に流れ込むWaiehu、Waihe'eをめぐる風景が語られています。肌をそっとなでるように吹く風、香るように感じられる空気、風とともにあるように思える豊かな緑……自然をとらえるこの繊細さは、ハワイのひとびとが伝統的に培ってきた感性なのかもしれません。あるいは、それほど島の環境はデリケートで、微妙なバランスのもとで循環しているという見方もできるでしょうか。たとえば、水がせきとめられることで植生も変わるでしょうし、水の循環が変われば霧や雨、風向きだって影響を受けるはず。こういった水力の利用は、最近注目の再生可能エネルギーの元祖のようでもありますが、それなりに自然に負荷をかけてしまうことを忘れてはいけないのだと思います。一方、ハワイのひとびとが、古来、さまざまな自然現象を固有名で語ってきたことは、そんなものいわぬ自然を、大地と切り離せないものとして捉えてきたことの証ではないかとも……。川の流れが風と親密な関係にある(hoapili)といった描写も、たんなる比喩にとどまらない、自然のメカニズムを肌で感じ取っているからこその表現なのかもしれません。

 さぁ、最後にこの歌のことをまとめてみようか。
 美しきMauiの名高き水をたたえて。
 この大地の無数の命を守っている、あの水(のある風景を思いながら)。

 Eia no* ka puana o ke mele la*
 O na* wai kaulana o Maui nani la*
 E ma*lama mau nei i na* kini o ka 'a*ina

 土地を耕す(cultivate)ことが人間の文化(culture)のはじまり……なんて語源をたどるまでもなく、自然を取り込むことなしに、ひとは人間的な生を営むことはできません。それでも、破壊するのではなく、環境を持続しつつ利用する知恵を育んできたのもまた、人間の歴史ではないかと思ったりします。ハワイでいえば、諸外国との関係がはじまる以前の閉じられた時代に、そんなバランス感覚のもとで守られてきたルールや実践知みたいなものが、ある程度有効に機能していたのではないかと思われます。残念ながら、外国資本による利益優先の開発が加速することで失われてしまったものがハワイにもたくさんあって、その恩恵を受けつつハワイを楽しむしかない私でもあって……なんてことを考え始めると、ちょっと複雑な気分になったりもします。そして思い起こされる、始めて行ったMaui観光で乗ったサトウキビ列車……。サトウキビ栽培が盛んだったころ、輸送のために使われていた鉄道が観光用に残されているものですが、車中からながめたのは、緑豊かというよりも、悲しいくらいに乾ききった大地でした。そういえば、O'ahu島でみたドールのパイナップルプランテーション跡も、やせた土地が延々と広がっている感じだったような……。そんなふうに15年前の旅を思い出したりもしながら、ハワイを守りそこに暮らすひとびとの立場から風景をながめた気分にさせられた、『Na* Wai Kaulana』なのでした。

by Kuana Toress Kahele

参考文献
1)Kyselka W, Ray Lanterman: Maui: how it came to be.Honolulu, University of Hawai'i Press,1980
2)Pukui MK, Elbert SH, Mookini ET: Place names of Hawaii.Honolulu, University of Hawai'i Press,1976

*:「Na* wai ‘eha*」は、4つの川が流れるMaui島の西側エリアそのものを指すことばでもあります。
**:このホラ貝は、ハワイ島のali’i、Kihaが所有していたことにちなんで、「Kihapu*」と呼ばれることが多いようです。
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コメント

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nao

この曲についても知りたいと思っていました。
とても詳しい解説付きで、行ったことの無いマウイ島を旅した気分になれました☆
楽しく読ませて頂きました。

隙間のりりー

naoさま
うれしいコメントありがとうございます!

地図や写真もみながら、イマジネーションを膨らませながら書いてみました。

地勢やら歴史やら、ホントいろんなことをわかってないとみえてこない風景があるんだなぁと思います。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。