Lei Niolopua

Lei Niolopua





 ねぇ、応えてよ、ぼくのNiolopua。
 君のことだけを思っているのに……。

 E maliu mai 'oe e ku'u lei niolopua
 'O 'oe ho'okahi ke kauhua a ka pu'uwai e*

 ありったけの声を張り上げて、思いのたけを歌い上げているような印象のある『Lei Niolopua』。繰り返される「Niolopua」が、大切な誰かのことを指しているであろうことは察しがつくのですが、「e maliu mai 'oe」(応えて、listen!)に対する応答は、おそらくなかったんだろうな……と思わせる悲痛な響きが、この歌には充満しているような気がします。

 太陽は東の空に赤く輝き、
 Hana(の空気)は冷たく刺すように押し寄せる。
 そんな状況で、ぼくは君を待ちながらすっかりこごえちまった。
 まるでNiolopua(を愛してたみたいじゃないか……)。

 'Ula no*weo ka la* i ka hikina
 Hao mai nei na* ke*pa* o Hana i ke anu
 Anu makehewa au ke kali ana la* i laila
 Lei niolopua

 固有名的に用いられる「Niolopua」は、「God of sleep」(眠りをつかさどる神)を意味します。辞書の見出し語にもなっていて一般的なハワイ語だと思われますが、どんな用いられ方をすることばなのかを、まずみてみたいと思います(『'O*lelo No'eau-Hawaiian proverbs &.poetical sayings』より)。
 
 Aia me Niolopua ぐっすり眠っている。
 ※直訳:Niolopuaとともにいる。

 E ho'oipo ana me Niolopua ぐっすり眠っている。
 ※直訳:Niolopuaと一緒に愛している。

 Hi'olani ana me Niolopua うとうとしている。
 ※Niolopuaといっしょにリラックスしている。

 熟睡から軽いまどろみまで、眠りにもいろいろありますが*、ともかく、Niolopuaとともにあるとき、ひとは眠っている状態なわけですね。ということは……目覚めているときには決して出会えないのが、このNiolopuaの神ということになります。そう考えると、東の空に太陽が赤く輝いて('ula no*weo ka la* i ka hikina)の部分は、朝日がのぼるとき、つまり目覚めの瞬間とも読めます。そう、だからもうNiolopuaはどこにもいないんですね。
 『Lei Niolopua』が収められたCDアルバムに、次のような歌にまつわるエピソードが紹介されています。「この歌は、実現しなかった若いカップルのことを歌ってるんだ。何年も前のこと、ぼくはMaui出身のあるひとと遠距離の関係にあって、ある寒い雨の夜に、初めて会う段取りになった。ぼくは長いくねくね道を、約束の場所に向かって行ったんだけれども、何時間も待って、たったひとり暗闇の中、冷たいHanaの雨にうたれただけで終わったってわけ。ぼくは、ずっと立ち尽くしてた。ちょっぴり傷ついて、あの夜のことは、いつもぼくのこころの奥底にひっかかってる……っていうのかな」。なるほど、会えなかったひとだから、Niolopuaなんて仕方で呼ばれているようです。

 Kaommiの風でもって、Na*hikuは吹き荒れるもの。
 風がOpuhanoの波のしぶきを巻き上げたりとか……。
 いつになったら、愛を再び感じるときがくるんだろう?
 (結局、きみは)Niolopuaだったんだよね。
 
 Ipu lei Na*hiku na ke kaomi
 Kapa 'ehu kai o Opuhano na ka makani
 A*hea la* ke aloha e pa* hou mai ai
 Lei niolopua

 ここに登場する「Kaomi」は、Maui島Hana に吹く北東の貿易風。強い風が吹き荒れて、海のしぶきをまき上げて……期待をうらぎられた人のこころ模様のようにも読めますが、先のエピソードを読むと、激しい雨風のなか、からだもこころも凍える思いをしたようです。ちなみに、Na*hikuはHanaにある海沿いのまちで、なかでもOpuhanoは海に張り出した岬のある場所。そんな吹きさらしの場所で、しかも、悪天候の日に待ち合わせたんでしょうか……。それでも、そのとき願ったんですね、いつになったら(a*hea)、きみの愛が届くだろうか(e pa* hou mai)と……ホント、ただ待つしかない身ほどつらいものはありません。

 ぼくのこころの叫びを歌にしたんだ。
 きみのことをずっと思ってる、その気持ちのままに……ね、愛するきみ。
 こころの痛みとともにある、その思いをもういちど感じ取ってほしい。
 Niolopuaみたいだったきみに、すっかり傷ついちまったつらさを……。

 Puana ke mele a ka pu'uwai
 O ke ko'i'i o loko nou e ka pua
 Ha'ina mai ka puana me ka 'eha'eha
 No ka lei niolopua

 ねぇ君、応えてくれないか、ぼくの愛するひと。
 ぼくはきみを求めてさまよってる、こごえながら思い続けるしかないきみのことを。

 E maliu mai 'oe e ku'u lei aloha e*
 'Imi au la* 'oe e ku'u hoa 'alo i ke anu e*

 眠っているときにだけ寄り添ってくれる女神、夢みているときにだけそれと感じられる、存在なき存在。いや、たしかに彼女はいたんだよ……勘違いでもなんでも、期待に胸をふくらませているときには、たしかな手応えがあったに違いありません。そんな自分を、おれってバカみたいだよね、夢みてたなんてと、ちょっと突き放して笑い飛ばしている……なんども繰り返される「Niolopua」に、そんな自嘲にも似たおかしさと悲しみを感じてしまった、『Lei Niolopua』なのでした。

by Kuana Torres Kahele

*「Moe i ka moe kapu o Niolopua」(Niolopuaの聖なるねむりにつく)は、「死」を意味します。

参考文献
Pukui MK: 'O*lelo No'eau-Hawaiian proverbs &.poetical sayings. Honoluli, Bishop Museum Press, 1983
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。