Kapi'olani女王が、愛する夫、Kala*kaua王を思う気持ちを込めて歌ったとされる『He Mana'o He Aloha(Ka Ipo Lei Manu)』。病気療養のため、Kala*kaua王がサンフランシスコに滞在していたときに作られたといいますが、彼が鳥にたとえられているあたり、ホントに「あ~遠くへ飛んでいってしまって」みたいな気分だったのかもしれません。そして、そんな遠い海の向こうに思いをはせる感じは、手をのばすことがかなわない鳥の描写の、どこか別の世界にいざなわれるような雰囲気にも表れているように思ったりします。
(思えば)私たち、すごい雨の夜に二人きりだった。
Elua ma*ua I ka po* ua nui
Hanaleiの雨だったわ。 私は冷たくて感覚もなくなるくらいで……。
Ua o Hanalei Anu au ma*'e'ele
そう、私ったらすっかりひんやりって感じで。 気持ちのいい霧雨に包まれて。
Ua anu ho'i au I ka ua noe anu
ことばだけをたどると、二人して夜のHanaleiにいたときのことを回想しているように読める描写が続いています。しかも、なぜかよりによって、冷たい雨の中……。ですが、王族のカップルの道行きが、そんな無防備なことってあり得るんだろうか?と考えるにつけ、ここはある程度大胆に、読み手がイメージをふくらませてもいいかもしれないと思ったりします。たとえば、実際に雨に塗れてしまった事実はなくて、もっと幸せな、二人で分かちあった夜の記憶なんかが思い起こされていると仮定してみるとか……。そうすると、「ひんやりした驟雨」(ua noe anu)にからだがしびれるようだったという表現も、愛情を全身で受け止めたときの、ふるえるような喜びそのものに思えてきたりもするんですね。
Ma'ihiのhauの木々(が見えたわ)。 (そして、そこの)海で私、泳いだの。
Na* hau o Ma'ihi 'Au ana i ke kai
緑生い茂る風景が、 (美しく)広がってもいたわ。
Na* ulu o wehi Pu*nohu mai ana
Halaの木の香りが、 風にのって運ばれてきたりとか……。
Ke 'ala o ka hala Hala o mapuana
すてきな香りを楽しんだといえば、 バラの香りだったりもしたわね。
Onaona i ka ihu Ke 'ala pua loke
うっとり気分で思うこと(といえば)、 私のからだすべてをふるわせて(もあまりあるくらいの喜び)。
Hone ana i ka mana'o E naue ku'u kino
(そう)、あなたが帰ってくる(ときのことを思うと) 私はもううれしくて仕方ないのです。
Ko* hiki ana mai Hau'oli ku'u mana'o
なめらかな海水に身を包まれながら、ふと遠くに目をやると、風にそよぐhalaの木々をはじめ、生い茂る緑美しい風景が延々と続いている……。そんなハワイの宝物をあらためて思うにつけ、この地を離れて旅立っていったいとしいひとのことが、なにより気がかりで仕方ない―「うっとり思う」(hone ana i ka mana'o)とされるその対象について、具体的に言及されてはいませんが、からだをふるわせるくらい深い思い(e naue ku'u kino)とくれば、帰りを待ちわびているそのひとを思ってのことに違いありません。そう、あなたが戻ってきてくれたら、どんなにかうれしいだろう(ko* hiki ana mai, hau'oli ku'u mana'o)……風景描写に重ねて、遠回しに思いが語られていたような雰囲気とは違って、ここだけは、ありのままの思いがストレートに表現されているように感じられます。
Ha'ina ka puana O kalani Kaulilua He inoa o Kala*kaua
最後にもう一度……。 永遠に旅だった、偉大なる王に向けて。
Ha'ina ka puana No kalani heleloa
病気療養のために海を渡ったKala*kaua王**ですが、残念ながら健康を回復することはなく、したがってKapi'olani女王との喜びの再会もないまま、滞在先で息を引き取ってしまいます*。最愛のひとはもとより、友人知人もいない異国の地で迎えた最期のときは、どれほど心細く、さびしかったことか……。そんなことを思うにつけ、歌に込められた女王の思いが、歌声とともに天に届いていることを願わずにはいられない、『He Mana'o He Aloha』なのでした。
by Queen Kapi'olani
*:この歌が作られた経緯からすると、最後の「永遠に旅だった王に向けて」(no kalani heleloa)の部分は後年付け加えられたものではないかと思われます。 **:「Kaulilua」は、hula pahu(pahuドラムが用いられる古いタイプのhulaの一種)の代表的なchantの曲名で、それをKla*kaua王が継承したことから、彼自身を表わすことばとして「Kaulilua」が用いられることがあるようです。「Kaulilua」というタイトルは、その歌詞のはじまりのところ「kau li*lua i ke anu o Wai’ale’ale」(Wai’ale’ale山の冷たさのなか、こごえながら〈そこに〉ある)からくるようで、「Kaulilua」そのものは、ひとや場所を表わす固有名詞ではありません。というわけで、とりあえず「Kaulilua」は、「フラの伝統を大切に守ろうとしたKalakauaをイメージさせることば」と理解しておきたいと思う一方で、『He Mana'o He Aloha (Ka Ipo Lei Manu)』にはKaua’i島も登場することから、『Kaulilua』の内容(Kaua’i島の自然にkaonaを含めて歌われる)もあわさった、重層的な歌ではないかという予感もあります。
参考文献 Mary Kawena Pukui : Olelo No'Eau: Hawaiian Proverbs & Poetical Sayings. Honolulu, Bishop Museum Press, 1993 Emerson NB: Unwritten Literature of Hawaii-The Sacred Songs of the Hula. Honolulu, Mutual Pub Co, 2007, pp
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