E Ku'u Baby Hot Cha-Cha

E Ku'u Baby Hot Cha-Cha






 
 さぁ、みんなでhot cha-cha。
 フェザーレイをつけてhot cha-cha。

 E ku'u baby hot cha-cha
 Me ku'u lei hulu hot cha-cha

 調子はどうかしら、hot cha-cha。
 そのおかまいなしのおどけぶりったら(最高ね!)、hot cha-cha。

 Peha iho 'oe hot-cha-cna
 Ia none ho'onanea hot-cha-cna

 これはしっぽみたいなものよ、hot cha-cha。
 hot cha-chaのリズムでゆれているのは……。

 Ka hi'u ke*ia hot-cha-cna
 Kapalili ai a'o hot-cha-cna

 さぁ、盛り上がっていこう、hot cha-cha。
 私のかわいいダンサーたち、hot cha-cha。

 Ha'ina ka puana hot-cha-cna
 E Ku'u baby hot-cha-cna

 ご機嫌に繰り返される「hot-cha-cna」のノリのよさに、ひとたび耳にするとたちまちその楽しげな雰囲気に引き込まれてしまう『E Ku'u Baby Hot Cha-Cha』。この曲にあわせたフラのパフォーマンスは、おそらく「lei hulu」(鳥の羽のlei)をつけて、「なりふりかまわぬおどけぶり」(ia none ho'onanea)で観客をわかせるようなステージングになりそうですが、ゆれているのは(kapalili)しっぽ(ka hi'u)なんて歌われることからすると、そのふりつけも相当ユニークなものだったりするかもしれません。ちなみに「hot cha-cha」は、目にしたものが魅力的だったり刺激的過ぎたりして、思わず「いいねぇ~!」と見とれてしまうような、そんな状況で用いられることばのようです。もしかすると、ちょっぴりセクシーな衣装で踊られたりもするんでしょうか……それはともかく、とにかく観客を楽しませるために全力投球しているような、なんともいえない一所懸命さが伝わってくるところも、このmeleの魅力ではないかと思ったりします。そしてなにより、あきらかにハワイアンらしくないリズムや雰囲気が、その最大の特徴ともいえるでしょうか……。
 そんな『E Ku'u Baby Hot Cha-Cha』、実は作詞&作曲を手がけたLene Machado (1903-1974)が、演奏旅行でニューヨークやシカゴあたりを旅することが多かったころに、旅先で出合ったラテン音楽、とくにルンバやマンボと呼ばれるリズムに魅了されて作ったものなんだとか。ハワイアンにはないリズム、楽器、そして、喜びに満ちあふれた熱気……。それらを彼女なりに吸収し、英語ではなくハワイ語の歌に表現することで、まるで二つの文化が化学反応を起こしたような楽曲が誕生した……といえるかもしれません。
 歌詞をたどると、「E Ku'u Baby~」(さぁ、みんな!)という声かけをはじめ、ダンサーの衣装や動きについてのコメントが連なっています。『Lena Machado-Songbird of Hawaii』(Motta P、2006)によると、Lene Machado自身がダンサーの振り付けや衣装を手がけたこともあるらしく*、ダンサーを前にしたときの彼女の気分や、実際のやりとりなんかも歌にもり込まれているのかも……なんてことを想像すると、その現場が目に浮かぶような臨場感もあります。
 多くのハワイのひとびとにとって、いまだかつてなかった音楽体験だったと思われる『E Ku'u Baby~』ですが、Lena Machadoはその振り付けにもあたらしさを求めました。たとえば、新しいスタイルの「hela step」で前後の移動を指示したり、堅い感じできびきびした動きをする「'uehe」を考案したりとか……。彼女なりにラテンのダンスを観察し、踊りがスペイン風になるようにという意図からだったといいますが、ダンサーたちは、新しいステップをマスターするのに相当苦労したようです。でも、Lenaはあきらめなかったんですね。「大丈夫、できるわ、さぁ回って、helaの方向は変えずにね」……はずむような演奏にあわせて、ダンサーも機敏な動きが要求されたものと思われます。そうしてお披露目となったそのステージは、彼女よりも上の世代のひとたちを大勢招待する機会でもありました。さぞかし気合いの入ったステージだったと想像されますが、彼女の新しい試みは、ku*puna世代にも好意的に受け入れられることになります。
 進取の精神でもって、貪欲にハワイアンミュージックの世界にあらたなエッセンスを取り込んでいったLene Machado。そんな彼女は、あとに続くミュージシャンにとって、進むべき道しるべとなるようなひとでもあったようです。たとえば、「(僕の)こういう音楽って、kupunaに批判されたりしないだろうか?」なんて心配顔の若手ミュージシャンには、こんなふうにアドバイスしたようです。「そんなことないわ。あなたの根っこがハワイアンなら、アレンジは思うようにすればいいのよ。でも、自分のことばで、ハワイアンのこころで語るのよ」。そう、あたらしい試みが生きるのは、自分が大切にしている確固たる思いがあってこそなんですね。ほかにも、自分のjazzスタイルが行き過ぎてやしないだろうかと相談してきた若いミュージシャンには、「それはあなたの感じるままを表現してるってことでしょ。私を見てごらんなさいよ、『E Ku'u baby hot-cha-can』をやってるわけだから(大丈夫)!」なんてアドバイスもしていたようです。後輩たちにとっては、こころ強い姉御肌のところがある、そんなひとだったのかもしれません。
 もっとも、彼女の新しさを「ハワイアンらしくない」「セクシャリティを売りにしている」と批判するひとたちもいて、不思議なことに、その多くはLena Machadoと同世代のひとたちだったといいます。ですが、彼女があくまでも「Hawaiian heart」を大切にしていることを理解してくれる大先輩たちを支えに、Lenaは創作を続けたとされています。そして、自らも同じように若い後輩たちを励ましサポートしたんですね。私は「hot-cha-can」で戦ってきたのよと……。およそ悩みや心配事とは無縁に思えるこの歌、Lena Machadoにとっては、ミュージシャン人生をかけた大勝負だったのかもしれません。

by Lena Machado,1935

*:当時流行していた「ki*kepa」(ワンショルダーで簡単な仕立てのドレス)に似たデザインで、「布を重ねる」「多色使い「袖にひだを寄せる」など、オリジナルな工夫を加えたものだったようです。

参考文献
Motta P: Lena Machado-Songbird of Hawaii-My Memories of Aunty Lena. Honolulu, Kamehameha Schools, 2006, pp23-27
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隙間のりりー

E Ho'i I Ka Pili
リクエストをいただきましてありがとうございます。
『E Ho'i I Ka Pili』ですが、こちらにまとめています。

http://hiroesogo.blog.fc2.com/blog-entry-120.html
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。