Ku'u Wa* Li'ili'i

Ku'u Wa* Li'ili'i







 思い出すわ、私が若かったころのこと。
 私ったら、はなたれ小僧!なんて呼ばれたりなんかして。
 でも、おとなになって、きれいなレディになったってわけなの。

 Ho'omana'o a'ela ala wau
 I ku'u wa* li'ili'i
 Kapa 'ia mai au he hu*pe*kole
 A nui a'e he wahine u'i

 「あんなに私、子どもだったのにね」(i ku'u wa* li'ili'i)と幼い自分の姿を目に浮かべながら、りっぱなおとなの女性(he wahine u'i)になるまでのことを、しみじみ思い起こしているような雰囲気がある『Ku'u Wa* Li'ili'i』。年を重ねると、若いさなかには気付けなかった自分のかっこ悪さがみえたりするものですが、この歌は、作者Lena Machadoが、実際に「he hu*pe*kole!」(はなたれ小僧!)と呼ばれたエピソードをもとに作った楽曲だといいます。
 「16歳になったら、わたし、ドレスアップしてお出かけするの。ねぇいいでしょう?」。そんな感じで、10歳を過ぎたころから母親に約束させていたというLena Machado*。コルセットでウェストを締め上げ、引きずるようなロングドレスにフリルのついたペチコート、ストッキングにハイヒール、もりもりのアップスタイルの髪につば広の帽子、そして、淑女に欠かせない長手袋……そんな、まるで舞踏会にでも行くのかと思うようないでたちでお出かけすることが、幼かったころのLena Machadoの夢だったようです。そして、いよいよ待ちに待った16歳の誕生日、すべてを揃えてもらったLenaは、ちょうどお祭りが行われていたSt. Louis Collegeをお披露目の場として選びます**。「いったいなにがあるっていうのかしら?」……なんだかわからないなりに笑顔で見送る親戚一同をあとに、めいっぱいおしゃれをしたLenaは、いそいそと街へくり出したのでした。
 まずは街へ向かう路線バスに乗り込んだLena。ですが、あろうことか締め上げたクジラの骨製のコルセットのせいで、座席に座ることができません。やむなく立っていると、「お座りください」と車掌に声をかけられ、とっさに「つぎで降りますから」と返してしまい、やむなく降りるはめに……。そんなこんなで、ハイヒールにロングドレスのいでたちで、長い道のりを歩くことになったのでした。
 午後の陽射しのなかドレスは汗だく、慣れない靴のせいで足は痛いわで、しだいにおしゃれどころの話ではなくなってしまったLena。それでも、道行く男性たちの注目をあびているという満足感で、痛みも不快感も忘れて歩き続けたようです。さすがに目的地に着いてホッとしたんでしょうか、はんぱじゃないコルセットの締め付けや、ハイヒールの痛みに耐えられなくなっている自分に気づきます。それでも、なんとかエレガントにふるまおうと試みますが、もう背筋を伸ばして歩くことさえできない……。セットアップした髪もくしゃくしゃ、帽子もずれて、頬を流れる汗にがまんの限界を感じたLenaは、あきらめてお祭り会場をあとにします。とにかく帰らなきゃ……必死に歩いて、なんとか家路を半分くらいたどったあたりで、靴を脱いでひと休み。でも、もう二度と同じその靴をはくことはできなかった……そう、とんでもなく足がむくんでしまっていたんですね。Lenaはあきらめて裸足で歩きはじめます。
一方、家では「あの子、どうなったかしら?」と心配げな家族たちが、彼女の帰りを待ち構えていました。そんな彼らがみたものは……髪をふり乱し、汗びっしょり、スカートをたくし上げ、帽子や靴をかかえてとぼとぼ歩くLenaの姿でした。そのときです、おばあちゃんのLoo Panが大声で彼女をしかりつけたのは……。「Hu*pe*kole kaikamahine!まだはなたれ小僧のくせに、おとなのまねなんかしようとするからよ!!」。そして、Lena Machadoは、そんなはずかしい失敗を、後になって自分の子どもたちにおもしろおかしく何度も話して聞かせたんだといいます。子どもたちには、同じことを繰り返してほしくなかったのかもしれませんね。

 ばあちゃんがよくしてくれるもんで、私はまるまると育てられたわ。
 お腹いっぱいになるまで食べて飲んで……って感じで。
 それこそ、まさに祖父母の愛情よね。

 Ha*nai 'ia au a nui pu'ipu'i
 I ka nui miki 'ai a Tu*tu*
 'Ai a ma'ana, inu a kena
 Ke aloha ia o na* ku*puna

 (そうやって)成長した私なんだけれど、
 (すると)「あの彼女、どこのこ?」なんて聞かれるわけよ。
 大切にケアされてきた(私だもの)。
 ばあちゃんの箱入りってとこね。
 
 A nui a'ela ala au
 Mai hea ho*'ea ana 'o iala
 I ka milimili me kahi sweet oil
 A lilo ana au ia* iala

 思い出すだけで赤面してしまう、そんなかわいい大失敗から、20年以上を経て作られた『Ku'u Wa* Li'ili'i』。自分がまだ幼いこともわかってない子どもが、異性の目を引こうだなんて、まぁそんなこと間違ってもするもんじゃないわ……表向きのメッセージはそんなところですが、Lena Machadoは、十分成熟した世代を相手にパフォーマンスするときは、それ以上の意味をにおわせる、ちょっとおどけたジェスチャーで観客を喜ばせたようです。そう、お腹が大きい(妊娠した)女性が、歩き回っているようなふりをして……。この3番目のバースの、「sweet oil」から「lilo」にいたるあたりだったようですが、これはちょっと深読みしたいところではありますね。ふり向いてほしくて思わせぶりな視線を送ってみただけなのに、気づくといつのまにかお腹が大きくなっていた、みたいな……。まぁ、恋をするには幼すぎる年頃には、そんなことはよくある話ってところでしょうか。

 歌のメッセージはちゃんと伝わったかしら。
 幼いときのことを思い出してみたの。
 私ったら、このはなたれ小僧!なんて呼ばれたりして。
それでも、(いまでは)りっぱなレディになったってわけ。

 Ha'ina 'ia ma ka puana
 Ho'omana'o a'ela au i ku'u wa* li'ili'i
 Kapa 'ia mai au he hu*pe*kole
 A nui a'e he wahine u'i.

 自分の失敗をさらけだしておもしろおかしく語り、ときに演じもしながら、異性に引かれる人間の性(さが)をさらっと表現してみせたLena machado。そんなクールな道化を演じることができたのは、きわどいテーマにもまっすぐ向き合う彼女のまじめさと、知性あふれるその人柄のおかげだったのではないかと想像しています。

by Lena Machado(1944)

*:Lena Machado は実の親ではない家族のもとで育てられていました。育ての母の名はMary Davis Loo Pan。
**:当時、Honoluluのダウンタウンあたりにあった大学。

参考文献
Motta P: Lena Machado-Songbird of Hawaii-My Memories of Aunty Lena. Honolulu, Kamehameha Schools, 2006, pp99-105
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。