Home Kapaka

Home Kapaka




Kuana Torres Kahele


 Kapakaにある家、それはそれは素敵なところ。
 そこは、訪れるひとをみなで迎えてくれるような、温かく誇らしい場所なのです。

 ゆったりと穏やかに聞こえてくる波のささやき。
 Li*poaの海藻を思わせる潮の香りも、ふんわり香っていたりして……。
 
 Hanohano 'ia home a'o Kapapa
 E kipa a'e e na* pua a ka lehulehu

 Ka nehe o ke kai lana ma*lie
 Ke 'ala li*poa e moani nei

 素朴で飾らないメロディが、ハワイののどかな田舎町を思わせる『Home Kapaka』。Kapakaは、'Oahu島の北東、Koolau山脈の東側にあり、Hau'ulaと呼ばれる地域に近い海辺の町。そして、「ke 'ala li*poa」(li*poaの香り)が「風に乗って運ばれてくる」(e moani nei)、気持ちのいい風が吹き抜けるところにあるその家は、訪れるひとをみなで迎えてくれるような、豊かさと温かさに満ちているとも歌われます(e kipa a'e e na* pua a ka lehulehu)。よそから訪れたひとも、というかはるばるやって来たひとだからこそ、めいっぱいの温かさでもてなすのが、その土地に暮らす者の心意気……そんな、ハワイの伝統的な倫理観みたいなものがうかがえるとともに、それを可能にする物心両面の豊かさがそこにあることが、「誇りを持って語れるわが故郷」(hanohano 'ia home)というフレーズにあらわれているように思ったりします。

 そうして、Kali'uwa'aの美しさを眺めもする。
 Sacred Fallsとも呼ばれる、私が愛してやまないその場所の美しさといったら……。

 A 'ike i ka nani o Kali'uwa'a
 Ka beauty a'o Sacred Falls ka'u i aloha

 Kapakaあたりの土地は、海に近いだけでなくKoolauの山々が間近に迫ってもいるロケーションにあります。そして、ここでKapakaの象徴として歌われているKali'uwa'aの滝は*、あるときは豚、あるときは人間の姿で現れるとされる、Kamapua'aにまつわる神話の舞台でもあります。そのあらましをご紹介すると……滝のすぐ下のところから山に向かう窪みのような谷があり、そこにKampua'aがはしごのようにもたれ掛かって、追っ手から逃れてきた彼の家族たちを山向こうへ逃がしたという、なんとなく家族愛を思わせる伝説です。この世と向こう側の世界を行ったり来たりする、そんな神的存在であるKamapua'aが、家族のために自らもう一つの世界への入り口となった……といったところかもしれません。少なくとも、古代のハワイのひとびとがイマジネーションをふくらませたその場所には、きっと「Sacred Falls」と呼ぶにふさわしいなにかが宿っていることを感じさせる、特別な空間が広がっているのではないかと想像しています**。

 その家に、両親たちの住むわが家に私は帰るのです。
 そうして、大切な友人たちなんかとも、ゆっくり楽しいときを過ごそうかなと……。

 こうして、愛するKapakaの土地を歌にしてみました。
 そこは、訪れるひとをみなで(温かく)迎えてくれる、そんな素敵な場所なのです。

 Ho'i au i ka home o na* ma*kua
 Nanea e hau'oli me na* hoaloha

 Puana ku'u mele no Kapapa
 E kipa a'e e na* pua a ka lehulehu

 両親がいて(na* ma*kua)、気の置けない友がいて(na* hoaloha)、もうこれ以上望むものはないって感じでしょうか。日々の気がかりなんかもひととき忘れてくつろげる(nanea)、そんな至福のときが待っているhome Kapaka。それにしてもとあらためて思うのは、自分のルーツがある大切な場所への思いを込めてしたためられる「ku'u mele」***が、ハワイアンソングには数限りなくあるということ。しかもこの傾向は、トラディショナルにとどまらず、活躍中の若手ミュージシャンたちによる楽曲にもみられるあたり、いまもハワイに根付いている、ある重要な価値観を表現するものではないかと思ったりします。たとえば、自分を生み育ててくれた両親とのつながり、食べることそのものであるような土地('a*ina)との関わり****、そのめぐみをともに分かちあう近しいひとびと……そんな、homeにつながる多くのひとびとを含むとされる「'ohana」(family、家族)は、いまをともにするひとだけでなく、伝統を生み守ってもきた先達たちを含むことばでもあるようです。この壮大な人間観というか世界観の源はどこにあるのかといえば、やはりなんといっても、ハワイの島々の自然ということになるのでしょうか。そう思うと、このことを確かめるためだけに旅するのもいいかもしれない……なんて思いがムクムクっとわきあがってくる、そんな『Home Kapaka』なのでした。
 
*:Kali'uwa'aの文字通りの意味は「カヌーの窪み」。また、その別名は「Kaluanui」(大きな穴)で、カヌーの水抜き穴に似ていることがその由来のようです。
**:Kaliuwa’a にまつわるKamapua’a伝説
強く、荒々しく育ったKamapua’a。彼はKailua(Ko‘olau、O’ahu)のチーフ、Olopana※によく思われていませんでした。というのも、四度にわたり彼の大切な鶏小屋を襲い、盗みを働くなどしたからで、しかもKamapua’aは、豚の姿で捕まりながらも、育ての親である祖母のchantで助かったといいます。そのたびに、多くの兵をKamapua’aに殺されたOlopanaは、最後の手段―O’ahu中のひとびとに武器を持つように命じ、Kamapua’aを殺すと宣言します。一方、このことを知ったKamapua’aは、自分の体を大きく伸ばし、険しくて登れないKaliuwa’aを超えて、家族ともども山向こうのWahiawaへ脱出することを決意。祖母以外は、Kamapua’aが差し出した背中の毛に足をかけて登りますが、腹側がいいという祖母のために、Kamapua’aが背中を山肌にこすりつけたときにできたのが、「カヌーの船底の水溜り」(ka-liu-wa’a)と呼ばれるKaliuwa’aの、独特の形状だと言い伝えられています。
 鶏小屋を襲ったというところだけに注目すると、ただのならずもののような印象しかないKamapua’aですが、物語のなかでは、ひもじい思いをしている家族を食べさせるための行いだったとも語られています。もしかするとこのあたりから、家族愛の象徴とされるようなKaliuwa’aの風景でもあったりするのかもしれないと想像しています。※:Kamapua’aの父、Kahikiula(Kau’aiのチーフ)は、Olopanaの弟。
***:「ku'u」(わたしの)は、所有関係を表す以上に、対象との親密な関係や精神的なつながりを意味することば。
****:土地を意味する「'a*ina」に、「'ai」(eat、食べる)が含まれているあたりにも、ハワイの伝統的な土地に対する意識があらわれているようです。

参考文献
Kamapua’a-the pig god of Ko’olauloa. Ancient O’ahu-stories from Fornander & Thrum. Dennis Kawaharada ed. Honolulu, Kalamuku Press, 2001, pp75-87
Beckwith M: Hawaiian mythology. Honolulu, University of Hawaii Press, 1970, p203-204
Van J: Ancient sites of O’ahu-a guide to Hawaiian archaeological places of interest. Honolulu, Bishop Museum Press, 2010, p92
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。