Ka 'O*iwi Nani

Ka 'O*iwi Nani







 水曜の夕暮れ時に、
 私が(ひそかに)楽しみにしている(あるひととの)ひととき。
 (そのひとは)愛を育むためにと、決して(思いを)口にしないメッセンジャーみたい。
 (でも)私にだけは伝えてくれないかしら。

 I ke ahiahi Po*'akolu
 Ku'u 'ike 'ana iho
 He 'alele waha 'ole na ke aloha
 E 'i* mai ana ia'u

 水曜の晩に、私がひそかに楽しみにしていること(ku'u~iho)*……なんて、いきなりうち明け話がはじまったみたいでドキドキしてしまう『Ka 'O*iwi Nani』。「愛のために」(na ke aloha)、(秘密を?)語らないメッセンジャー(he 'alele waha 'ole)なんて呼ばれるひとも登場するうえに、作詞&作曲がLili'uokalani女王と聞くと、いったいどういう状況を歌ったものなのかが気になるところ。ともあれ、Lili'uokalani女王にしてみたら、このあたりはあまり詮索されたくない部分かもしれませんが、『The Queen's Songbook』(Gillet DK and Smith BB ed.)によると、女王自身の日記に、彼女が水曜の夜に会うことを楽しみにしていた、「特別なひと」(special friend)のことが記されていて、おそらくそのひとは、Henry Berger(Royal Hawaiian Bandのディレクター)だったと推測されるんだとか。そして、その彼と女王とのロマンチックなこころの交流が歌われているのが、この『Ka 'O*iwi Nani』に違いない……というのが、同書の編者たちの解釈のようです。その真偽はともかく、なんともイマジネーションをかき立てられるエピソードですが、仮にそれが真実なんだとすると、水曜日に「ku'u 'ike 'ana」(私が会うのを楽しみにしていること)**というのは、定期的に行われていた楽団による生演奏(ho*'ike: show、exhibition)ということにもなりそうです。ですが、楽団員と女王がみなの前で親しげに会話する、なんてことはまずありえないものと思われます。そんな彼のことを、Lili'uokalani女王は「愛するがゆえに」(na ke aloha)口をつぐんでいる(waha 'ole)と表現しているんだとしたら……もうそれだけで切ない気持ちになってしまいそうです。女王の気持ちとしては、「私に」(ia'u)メッセージを届けてほしい(e 'i* mai ana)気持ちでいっぱいで、そんな切羽詰まった思いが、huiの部分の「e 'i* mai ana」の繰り返しとともに響きわたっている……。そう考えると、少なくとも女王の気持ちのなかでは、すっかり恋心が育ってしまっていたようにも思えてきます***。

 ねぇ、お願い、どうか思いを伝えてほしい。
 森はかぐわしさに満ち、
 (まさしく)愛に没頭する空間って感じで、
 その山手ならではの心地よさがただよっている(のに)……。

 hui
 E 'i* mai ana 'i* mai ana
 Aia ke 'ala i ka nahele
 Kahi i walea iho ai
 I ka 'olu o ia uka
 
 「どうか私に(愛を)語ってください」(e 'i* mai ana)……そんなかなわぬ願いが繰り返されたあとに続く、いい香り(ke 'ala)に満ちた山手の気持ちよさ(ka 'olu o ia uka)といった描写は、どこか別の世界で森の中(i ka nahele)をさまよっているような、やや夢見心地な雰囲気もあります。もっといえば、森(ka nahele)というと、ひと気のない場所も連想されることから、どうにかして二人きりで楽しめる場所(kahi i walea iho ai)に行きたいという、Lili'uokalani女王の赤裸々な思いが表現されているのかも……。なんとも、ハラハラ、ドキドキさせられる展開で、最後のバースやいかに!?って感じです。

 その花はまさしくホンモノのすばらしさを備えていて、
 そのいい感じに成熟したあたりは、(そこに至る年月を思わせる)黄色くなったティーリーフの雰囲気にも似て。
 (いわば)ka*makahalaに宿るハワイ古来の美しさというか……。
 Lanihuliの丘で輝いていたともし火(は、永遠に燃え続ける)。  

 A he nani 'i* o no* ia pua
 Me he la*'i* pala ala ka memele
 Ka 'o*iwi nani o ke ka*makahala
 Lamalama i ka uka o Lanihuli

 ここでは、「ia pua」(その花)と呼ばれているそのひとのすばらしさが、「la*'i*」(ティーリーフ)や「ka*makahala」****といった、ハワイに自生する植物の、「本物の美しさ」(he nani 'i*)にたとえて描写されているようです。「枯れて黄色くなっている」(he la*'i* pala ala ka memele)なんていう表現から、いい感じに年齢を重ねた男性の姿が想像されますが、タイトルにもなっている「美しいネイティブであること」(ka 'o*iwi nani)からすると、当時でさえ少数派になっていた、ハワイのネイティブの血をしっかり受け継いだひとだったのかもしれない……なてことを思ったりもします。
 それにしても、最後の歌詞はなんとも意味深です。Lanihuliの山で(i ka uka o Lanihuli)、松明が燃える(lamalama)ってことは、明かりをたよりに、日が暮れた夜道を二人してたどったりしたのか?!と思ったりもしたのですが、Lanihuliのハイキングレポートあたりを読むと、そこに至る道は本格的な装備も必要なトレッキングコースのようで、日が暮れてから出かけるなんてことはまずなさそうです。その一方で、地図で見ると、LanihuliはO'ahu島を東西にへだてるKo’olau山脈から続くNu'uanuの山々に含まれる峰で、その眺望で有名なNu'uanu Pali Lookoutのほん近くにあります。800メートル強ほどの高さですが、位置関係からすると、その頂に雲がかかっている風景なんかもHonoluluの市街地からよくみえたのではないか……なんてことを想像してみると、そのしっとりと涼やかな姿が恋心の象徴として描写されることも、あり得ないことではないかもと思ったりします*****。
 冒頭の具体的な描写からすると意外な気もしますが、読み進めるほどに、どういうわけかこことは違う別の世界へいざなわれるような気分になってきました。そんな現実逃避的な雰囲気は、ことによるとLili'uokalani女王が置かれた政治的に厳しい状況のためだったかもしれない……なんてことも思いつつ、あまりに自分の気持ちに正直な態度にこころあらわれる思いがした、『Ka 'O*iwi Nani』なのでした。

by Lili'uokalani

*:「Iho」は下方向(down)をあらわす方向詞ですが、「私」「彼」といった人称をあらわすことばとともに用いられると、「~自身」(self)の意味をもつことから、「ku'u」(私の)と関連させて、「ひそかに」(私自身のために)と訳してみました。
**:まずは「見る」(see)や「理解する」(understand)といった訳語で理解される「'ike」ですが、「あいさつする」(greet)の意味もあることから、「'ike 'ana」を「会うこと」と訳してみました。
***:この歌が作られたのは1886年で、その翌年に妹のLikelikeが亡くなり、同じ年にBayonet Constitution(銃剣憲法、事実上のクーデターによる憲法)が公布されるといった、いわば嵐の直前的な状況にあったころです。まだ気持ちに余裕があったのか、心おだやかではないからこそ潤いを求めたのかはわかりませんが、公人としても私人としても、熱く生きた女王の横顔を垣間見るようです。ちなみに、女王の夫、John Owen Dominisが亡くなったのは1891年で、Kala*kaua王が失意のうちに病死したのも同じ年。
****:Ka*makahalaは、70cm~2mほどになる低木で、黄色い小さな花をつけるハワイ固有の植物種。日の光があまりあたらない谷や山肌(200~1,200mほどの高さ)の、ほどよく湿り気のある森や茂みを好み、現在は絶滅危惧種に指定されている植物。
*****:驟雨に包まれた空間など、ウェットでクールなイメージと結びついた光景が恋愛のメタファーとして用いられるのは、ハワイ語の世界にひろくみられる修辞法のひとつ。

参考文献(Lanihuliが登場するmeleについて)
Samuel HE, Noelani KM: Na Mele O Hawaii Nei-101 Hawaiian Songs. Honolulu, Univ of Hawaii Press, 1970, p86
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コメント

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隙間のりりー

ありがとうございます
本記事の間違い(西暦年)をご指摘いただきました。ありがとうございました。コメント非公開のため、こちらに書かせていただきました。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。