Kamalani O Keaukaha

Kamalani O Keaukaha







 うっとりする香りの素敵な花を思いっきり抱きしめたわ。
 パンダナスのしげみからは、ふんわり甘い空気がただよってきたりして……。
 すると、大好きなひとの香りに包まれたみたいな、幸せな気持ちになったのね。
 そうしてこころ温かいひとたちとともに(いい時間を)過ごしたってわけなの。

 Nani pua 'a'ala onaona i ka ihu
 E moani nei i ka pae pu*hala
 Mehana ku'u poli i ka hanu a ka ipo
 I hui pu* 'ia me ke aloha pumehana

 うっとりと、やや夢見心地にも感じられる雰囲気でもって、大切な思い出をいつくしむように歌われる『Kamalani O Keaukaha』。Lena Machado (1903-1974)が、演奏旅行でKeaukahaを訪れたときの感動を込めて歌ったもので、なによりその幸せいっぱいな雰囲気から、たくさんのすばらしい出会いに恵まれた旅の道行きがうかがえるように思われます*。そして、そんな彼女のこころを温かく満たした(mehana ku'u poli)ものを象徴するのが、タイトルにもなっている「kamalani o Keaukaha」。文字通りに訳すと「Keaukahaに暮らす大好きな子ども」くらいの意味になりますが、Lena Machadoは、彼女を大歓迎してくれたKeaukahaのひとたちへの思いを、このことばにギュッと凝縮したようです。
 沿道に列をなし、大歓声をあげるひとびと……まちに足を踏み入れるやいなや、そんな夢のようなアーチのお出迎えを受けたLena Machado。そして、そのとき彼女のもとをふいに訪れた(e moani nei)香りがあった……。そう、「ka pae pu*hala」と歌われる、パンダナスの林からただよう甘い香りです。ちょうど花(hi*nano)**が咲きほこっていて、あたり一帯にその芳香が充満していたんですね。そうして思いがけずそのうっとりする香りを楽しんだことを、恋人の息づかい(ka hanu a ka ipo)にたとえたりもしながら、さらに別の香りをともなう思い出が、しっとりと美しく語られていきます。

 カーネーションがマイレと編まれていたわ。
 しっかりとゆるぎない思いにも似た、おだやかさや調和を象徴するように……。

 Carnation i wili 'ia me maile lauli'i
 'Iliwai like ke aloha pili pa'a

 Maileとともに編まれたcarnationのlei……想像するだけでいい香りがただよってきそうですが、なんと沿道には、その美しいleiを手にしたひとびとが、Lena Machadoを待ちかまえていたんですね。そのLeiをかけてもらったときの気持ちが、「しっかりとゆるぎない思いにも似たもの」(like ke aloha pili pa'a)と語られていることからすると、Keaukahaのひとびとから届けられ、彼女のこころにしっかりと刻み込まれたなにかがあったのではないかと思われます。しかもそれは、「'iliwai」(水面)のように静かでおだやかだった……初対面の興奮だけでなく、お互いに深いところでいきなり大切な思いを交わし合ったような、幸せな出会いだったのかもしれません。
 
 その土地のたまらなくいい香りの愛しいleiは、
 Keaukahaの愛すべきひとたちとともに、まるで愛をささやいているようなの。

 Darling sweet lei onaona o ia kaha
 E ho'oipo nei me ke kamalani o Keaukaha

 ここでは「その土地の」(o ia kaha)香りのいいleiと描写され、そこにしかない特別感が強調されていますが、実際にそのcarnationは、Hawai'iのほかの場所では出合ったことのないすてきな香りがしたと、生前のLena Machadoが語っていたといいます。Keaukahaの土地で育てられた特別な花。その唯一無二の香りのすばらしさこそがKeaukahaのひとびとの誇りであり、その気高さの象徴でもあった……少なくともLena Machadoにとっては、そんな特別な思いを抱かされた、carnationとmaileのleiだったのではないかと思われます。
 演奏旅行でメインランドに長期滞在することも多かったLena Machado。ですが、多忙なスケジュールのなか、ハワイの島々、とくにネイティブのひとびとが多く暮らす地域を意識的に訪れ、演奏活動を精力的に行ってもいたようです。ハワイアンのコミュニティや教会を経済的に支援することがその目的でもあったようですが、と同時にそれらの旅は、彼女自身にとっては別の意味でも重要なものだった……そう、彼女にとって、ハワイのネイティブのひとびとに歌でメッセージを届けることは、彼女自身のアイデンティティを再確認することでもあったんですね。当時の流行を積極的に取り入れ、メインランドでも成功をおさめながら、というかだからこそ、自分がハワイのひとびとにどう思われているだろうかと気になって仕方なかったのかもしれません。表向きにはハワイの伝統から遠いところにいる自分が、それでもハワイアンのルーツを持ち続けていることを伝えたい……ポップなメロディと華やかな演奏にパッケージされてはいるものの、Lena Machadoが大切にしていたのは、なによりハワイ人の心そのものを表現することだったようです。
 多くの楽曲を残しているLena Machadoですが、思いが歌に落とし込まれるまでに、10数年かかることも少なくなかったようです。ですが、この『Kamalani O Keaukaha』に限っては1、2年しかかかっていないといい、彼女にとって、Keaukahaでの経験がどれほどビビッとくるものであったかがうかがえます。あぁ、私もこのKeaukahaのひとびとも、同じHawai'iというすばらしい土地(lani)に育まれた子ども(kama)なんだ……Lena Machadoが、そんな思いを深くこころに刻むに至ったKeaukahaの旅。彼女が再確認したであろう、ハワイ人ならわかりあえるそのなにかは、命を守り育てる大地に根ざし、生かされていることへの感謝に満ちた、素朴で力強い信念のようなものではないか……と想像しています。

by Lena Machado(1934)

*:Keaukahaは、Hawai'i島Hiloにある海沿いのまち。 
**:Halaの木の雄木に咲く「hi*nano」は、恋の媚薬にたとえられることもある、甘く強い芳香を放つ花。 

参考文献
Motta P: Lena Machado-Songbird of Hawaii-My Memories of Aunty Lena. Honolulu, Kamehameha Schools, 2006, pp65-69
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。