The Prayer

The Prayer







 あなたが私たちのまなざしとなってくれるよう、そして、われわれの道行きを見守ってくださるよう祈ります。
 私たちがどうしていいかわからないときも、どうか英知をおさずけください。
 この祈りをたずさえて、私たち歩んでいきましょう。
 導いてください、あなたの恵みのある場所へ。
 私たちが安らかでいられる世界へと……。

 I pray you’ll be our eyes and watch us where we go
 And help us to be wise in times when we don’t know
 Let this be our prayer, as we go our way
 Lead us to a place guide us with your grace
 To a place where we’ll be safe

 「Prayer」(祈り)というタイトルそのままに、人間を超えたなにか大きな存在へと向かう気持ちが、高らかに歌い上げられる『The Prayer』。高音ののびやかなボーカルが、高みへと引き寄せられる人間の思いをことば以上に表現していて、そのここちよさに思わず聴き入ってしまう迫力には、こわいくらいの抗いがたさを感じます。そう、こんなにすべてをゆだねてしまっていいものかと……。このあたり、個々人の宗教観によってとらえかたはさまざまあると思いますが、ひとに大きな力を与えるものだけに、信仰がもろ刃の剣であることだけは確かではないかと思ったりもします。

 われわれが照らされるために、あなたの光を見いだすべく私は祈る。
 (そして、その光を)しっかり胸に抱き、こころにきざむのです。
 闇が訪れると、夜ごとに星々はまたたいて、
 あなたを見いだそさんと(そう、あなたは見いだされる)、
 われわれは祈りをささげる……そう、このことばをわれらの祈りとしよう。
 陽の光におおわれれば、その影もまた日々を満たす……。
 導いてください(そう、お導きを)、
 信じましょう(そう、信じるのです)、
 永遠の救済のもとで(そう、救いは永遠に続くもの)……。

 I lama no ma*kou, I pray we’ll find your light
 E pa’a poli ai, and hold it in our hearts
 Ke lipo mai ka po*, when stars go out each nigh
 I ‘ike ‘ia ‘oe(that you may be seen)
 I pule na* ma*kou(let this be our prayer)
 Ke malu mai ka la*, when shadows fill our day
 Alaka’i mai (offer us guidance) 
 E paulele e* (that we may have faith)
 I ka palekana mau (in safety that is everlasting)

 そのまばゆさに、思わず見上げてしまう満天の星……その昔、月明かりもない完璧な闇に、こぼれんばかりに瞬いていた星々は、なにより神的なものを想起させる存在だったのではないかと思われます。現代人の生活から失われて久しい闇。それはまた、この世界を照らし出す太陽の恵みと対になるものでもありますね。昼と夜、光と闇、ハワイ語では「ao」と「po*」の物語として創世神話『Kumulipo』にも登場します。考えてみれば、昼と夜が規則正しく繰り返されるという、このあまりにもあたりまえのことこそがわれわれの日常であり、つまりは、この世界の調和をつかさどる原理でもある……このことに気づかせてくれるのが、祈るという行為なのかもしれません。なにかと心おだやかでないことばかりが多い日々ですが、大切なことは案外シンプルで、おとなも子どもも同じように理解できるものではないかと思ったりもします。

 苦しみや悲しみが行き着くところ、
 そう、ひとびとの思いただようその場所で、
 思い起こすことでしょう。
 天にまします父なる神を……。
 いつもあなたを探し求める、
 見上げるようなその場所に……。

 Kahi pau o ka ‘eha a kaumaha(A place where pain and sorrow are no more)
 A lana ka mana’o o kanaka(And hope is restored to the heart of man) 
 ‘Upu mau a’e(We shall always remember)
 I ka Makua Lani(the heavenly father)
 A huli mau ia* ‘oe(and always turn to You)
 I ka lani la*(reaching to heaven above)

 喜びにふるえ、私たちは命がすこやかであれと願う。
 お守りください、そして空から見ていてください。
 思いを寄せて、魂がそれぞれに見いださんことを願う。
 こころを込めて、愛すべき他者を見いださんことを……。

 Li* olu iho no we ask that life be kind
 O walu o malu mai, and watch us from above
 A pili pu'uwai, we hope each soul will find
 Me ke aloha e, another soul to love

 このことばをわれらが祈りに。
 そう、子どもたちがみなそうであるように(素直なこころもちで)。
 かならずや(救いの)場所を見いだすべく、あなたの恵みでもってお導きを……。
 あなたの庇護のもと(あなたの影さすところで)、
 祈り続ける……。
 永遠の救済のもとで(救いは永遠に続く)……。

 Let this be our prayer, just like every child
 Needs to find a place, guide us with your grace
 Give us faith so we’ll be safe
 I ka malu ou
 E paulele ai
 I ka palekana mau

by Ho’okena & Maila Gibson

 『The Prayer』はデュエット曲として作られており、最初に楽曲が発表されたときに歌ったセリーヌ・ディオンのお相手は、イタリア人テノール歌手、アンドレア・ボチェッリ。なので、そのときの歌詞は英語とイタリア語だったわけですが、Ho’okenaが歌うにあたってハワイ語に翻訳されたものと思われます。これまでに何人もの歌い手がカバーしていて、多くのひとの琴線にふれる曲であることがうかがえますが、あらゆる状況や立場の違いを超えて、困難を乗り越えようとする個人がそれぞれに思いを託せる、そんなしなやかさのある歌なのかもしれません。 
 子どもたちがみなそうであるように(just like every child)、その弱さをこそ力の源として生きること……成長をめざし、獲得することがイコール幸せとされるような、世間一般の常識とは真逆の価値観ですが、この時代遅れの素朴さに立ち戻ることでみえてくるものがあるのではないか―最後まで読み進めてみて、そんなことを考えはじめています。肌を被うものもないくらいに弱く貧しいものたちが、肩寄合って暮らすコミュニティ。それはあまりにユートピア的な理想かもしれませんが、人間が命を与えられているというのは、そういうことではないかと思うんですね。
 近所のいがみあいから国防の問題まで、あらゆるレベルで争いの絶えない世界ですが、自分を守ろうとするのではなく、自らの弱さを認め祈ることで、ひとの行動を変える可能性はあるかもしれない……いきなり世界を変えることは無理でも、希望は失わないでいたいと思った『The Prayer』なのでした。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。