Ei Nei

Ei Nei





 あなたが好き、私の大切なひと、Ei Nei。
 あなたの代わりはいないんだもの、Ei Nei。
 夜のとばりが降りると聞こえてくる、あなたのあまい調べ。
 そうして、あなたのことを思い出したりとか……。

 Haroha wau ia* 'oe, e ku'u aloha, Ei Nei
 There'll be no one in your place, Ei Nei
 As evening shadows fall, I hear your sweet melody
 That brings me fond memoriea of you

 もう好きで好きで仕方なくて、頭のなかはいつもあなたのことばかり……そんな切ない思いがいくえにも重ねられているように思われる『Ei Nei』。タイトルの「ei nei」は「e ia nei」が省略されたもので、恋人や近しいパートナーへの呼びかけとして用いられるハワイ語。「E ia nei」の「ia」は三人称(彼、彼女)を意味することばなので、名前で呼んでいないばかりか、これ以上にないほど省略されてもいます。英語だと「darling」や「sweetheart」に近いようですが、ことばが切り詰められている感じには、長年連れ添った夫婦なんかが、「おまえ」「あなた」、ときには「おい!」「ねぇ(あなた)」みたいな調子で会話するときの雰囲気もあって、他人の入る余地のない濃密な空気感を思わせる呼びかけが「ei nei」ではないかと思われます。そして、作者のLena Machadoにとっての「ei nei」は、パートナーのLuciano Machado(Lu)なわけですが、彼のほうもlenaのことを「ei nei」と呼んでいたようです。そう、二人して「あなたの代わりはいない」という思いを、「ei nei」と呼びかけるたびに交わしあっていた、そんな甘いカップルだったんですね*。
 この『Ei Nei』が作られた1948年といえば、Lena Machadoが45歳のころ、ミュージシャンとしての絶頂期を迎えていた時期にあたります。演奏旅行で数カ月以上家に帰れないこともめずらしくなかったLena Machado。バリバリ仕事をこなし、周囲への気遣いや忙しさにまぎれて、昼間はさびしいと思う暇もないくらいだったかもしれません。でも、夜になってひとりになったりすると、ムクムクっと抑えていた思いがわきあがってくる……「陽が暮れるとあなたのあまい調べが聞こえてくる」と訳した箇所は、夜ごとLuを思い出しながら涙した、Lena Machadoのこころの叫びそのものではないかと思ったりします。       
                 
 あなたがいなくなったら、なにもかも消えてしまう……。
 (そう思うだけで)いきなり世界が色あせて見えてしまうの。
 そう、私はいつもこころで叫び続けてる、あなた、あなた、あなたでなきゃだめなの……って。

 I'll be so lost without you, everything seems so blue
 My heart keeps saying it's you dear, it's you, it's you, it's you

 あぁ、大好きなあなた、Ei Nei、あなたは私だけのもの。
 あなたに代わるひとはいないわ、Ei Nei。 

 Oh, e ku'u aloha, Ei nei, you're mine just mine alone
 There'll be no one in your place, Ei nei.
 
 あなたがもしもいなくなったらと思うだけで、世界が色あせて見えてしまう……そんな、愛するひとがいるからこそのつらさを歌っていたLena Machadoですが、彼女のこの耐えがたい未来予想図が、とうとう現実になってしまうときがやってきます。『Ei Nei』が作られた9年後、長く糖尿病を患っていたLu は、58歳の若さで亡くなってしまうんですね。ショックで体調を崩して入院することになったLena Machadoは、Luのお葬式に参列することにもドクターストップがかかるほど、身もこころもダメージを受けてしまいます。それでも少しずつ自分を取り戻し、ようやくLuのお墓を訪れたとき、彼女は大切な「Ei Nei」にハワイ語で語りかけたんだとか。そう、LenaとLuは、日常的に、とりわけ電話で思いを伝えるときには、ハワイ語で語り合うことが結構あったようなんですね。涙しては語り、また涙があふれては語りかけ……泣き疲れて涙もかれはてたころ、LenaにだけはLuの声が聞こえたんでしょうか。「もう大丈夫、行くわよ」(Okay, let's go)と言いながら、彼女はその場を離れたといいます。おそらく、もう一度人生を歩みはじめるために……そうして悲しい現実と向き合ったLena Machadoのこころのなかには、きっと『Ei Nei』のメロディが響いていたのではないかと想像しています。

*:冒頭の「haroha」はマオリ語で、ハワイ語の「aloha」にあたることば。LenaとLuがともに懇意にしていたマオリにルーツのあるカップル(Herert and Dolly Hano)が、このことばをあいさつに用いていたという事実があるようです。Lenaの養子だったPi'olani Mottaによると、Lenaがこの二人のカップルのことを思いながら「haroha」と歌った可能性もありそうです。

参考文献
Motta P: Lena Machado-Songbird of Hawaii-My Memories of Aunty Lena. Honolulu, Kamehameha Schools, 2006, pp29-33
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。