Pi'i Mai Ka Nalu

Pi'i Mai Ka Nalu







 波がくるよ、波がくる。
 遠い向こうから海(が呼んでるの)が聞こえるよね。
 波がくるよ、波が……。
 さぁ、波乗りだ!

 待ちに待ったサーフィン日和。さぁ、みんなで波乗りだぜ(e he'enalu ka*kou)みたいな、最高にご機嫌なハワイの休日を思わせる『Pi'i Mai Ka Nalu』。高く波頭が上がる(pi'i)(mai)日は,遠くの方からいい波がやってくる気配を感じさせながら、海もいつもと違う表情をみせたりするんでしょうか。その日を待ちわびていたひとにとっては,波がくだける音が聞こえてくるだけでもういてもたってもいられない……そんな気分になるのかもしれませんね。

 波頭がくだけるところには、
 遠くから大きな波がやってきてるんだ。

 サーフィンといえば、なんといってもビッグウェイブ(na* nalu nui)。そして、大きな波たちが「Kahikiのほうから(やって来る)」(mai Kahiki mai)というフレーズには、どこか遠い彼方から到達した特別な波を思わせるところがあります*。というか、大海原が広がるはてしなさを考えると、遠路はるばるやって来る波という現象が、どこか神秘的なものに思えてきたりなんかして……。そう、ゆるやかに弧を描く水平線を眺めるときほど、地球の大きさを感じることってないんですよね。

 いい波に乗るんだ。
 かがんで、立って……さぁ!

 さぁ、いい波をつかまえて(pae ana ‘oe)―このフレーズには、さぁこれから波に乗るぞ!というタイミングの誰かに向かって叫んでいるような、緊張の一瞬をともにしている臨場感があります。あるいは、ベテランのサーファーが、波の勢いにしり込みしているひよっこサーファーを見守っているところだったりするのかもしれません。まず、サーフボード上にひょいっと飛び乗り、低い姿勢でしゃがんで(ki*papa)、波のリズムを見はからって立つ(ku*)……そうして波と一体になれたらパーフェクト。ここぞというタイミングが難しそうですが、それだけにうまくいったときの壮快感といったらないに違いありません。

 沖へ向かって乗って、
 返す波に乗って……。 

 斜めの方向をあらわす「ka lala」ですが、サーフィンで用いられるときは、波頭のほうに勢いよく飛び出す(surf out)動きをあらわします。そのあと続いて、波頭(ka muku)にのって戻ってくる(ho’i)……一瞬のこの方向転換というか、機敏な動きが勝負の上級テクニックってところでしょうか。サーファーたちのリズミカルな動きを映像でみていると、まるで波とたわむれているような印象も受けます。でも実際は、そんな生やさしいものではないはずですね。壁のように立ち上がる波に挑んでいるわけですから……。
 温められたり冷えたりを繰り返す大気が、気流となって風を生んでは海面にさざ波を立て、そうして誕生した小さな波たちが、いつしか重なり合いひとつのうねりとなって、沖の方からやってくる……そうして浅瀬に近づくころには、長旅の間に力を蓄えているわけですが、そのエネルギーを発散するかのように砕ける波が、サーファーたちが待ち望む「na* nalu nui」(big wave)。つまり、「波頭がくだけるところには、遠くから大きな波がやってきている」(aia ma ka po'ina kai, na* nalu nui mai Kahiki mai)と歌われる箇所には、そんな長旅を経て訪れる波のことが描写されているわけです。そう考えてみると、大いなる地球環境への賛歌のようにも思えてくる『Pi'i Mai Ka Nalu』。そして、海とともに生きるひとびとにとっては、おそらく娯楽である以前に、生きるための知恵でもあったと思われる「heʻe nalu」(サーフィン)。高い身体能力と的確な判断力が要求されるこの伝統には、ことばではない「からだの思考」みたいなものが宿っていそうな予感がしています。

*:Kahikiは現在のTahiti(タヒチ)のことであるとされる場所。ハワイのネイティブのひとたちの祖先、古代に海をわたってやってきたひとびとの故郷であったTahitiが、長い年月のうちに「遠くの土地」「外国」という意味でも用いられるようになったという歴史をたどれるハワイ語でもあります。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。