'A*lika

'A*lika







 船の舳先は’A*likaの港に落ち着いてる。
 セールもしっかりセットされ、風にはためいて……。
 
 船のロープはしっかり結ばれている。
 風があるから、セールは垂れ下がったりしないさ。

 突き抜けるような高音が続くメロディが印象的な『’A*lika』。タイトルになっている「'A*lika」は、1926年に溶岩に覆われてしまったという、ハワイ島コナ南部にかつてあった港の名前。セールもしっかり上がって(ua hao a pa’ihi)、ロープも結ばれて(ke liolio nei)準備万端。さぁこれから航海へって感じですが、次のバースではいきなり具合が悪くなった船の様子が語られます。

 肝心かなめの針がちゃんとおさまってないね。
 ハンドルが違う方向に回ってしまって、
 風にくるくる舞ってるよ。

 あら大変、なんだか思う方向に進まなくなってしまったようです。でも、早くも次のバースでは、目指す場所をあれこれ妄想しているように思える歌詞も登場するあたり、船のせいにしているだけで、実は本人のこころの迷いだったりするのかも……なんて思ってしまうのですが……。

 次に向かう場所といえば、マカオだね。
 そうして、いよいよアジアに入るってわけさ。

 (たとえば)黄海のような、
 (あるいは)ベーリング海峡のような、
 風景がただただすばらしい……そんな場所(といえば)、
 シャロンのバラ(に出会えたりもするだろうか)。

 マカオ経由でアジアへ……なんて、かなりいきなりな感じですが、そのあと黄海に行くのはいいとして、はるか北のベーリング海峡も気になってるようです。いったいどういうこと!?って感じですが、要するに気が多いだけとも言えるでしょうか。そう、美しい風景のなかには、どこだってシャロンの花(na* pua i Sarona)をみいだせるものなのだから……。というわけで、問題はこのシャロンの花なわけですが、これは聖書に含まれることばで*、男女の恋愛を歌い上げるくだりで、愛されるひと自身が「私はシャロンのバラであり、谷間のユリ」と語る場面もあったりする、そんなことばのようです**。ということは、'A*likaにはじまったこの航海、つまりは恋の対象を求める旅だったってことになるでしょうか……。

 船が停泊するとすれば、
 それはヒマラヤの頂上だろうか。
 ココナツの葉で作った小屋(があったりしたら)、
 大地でひと休み(ってのもいいよね)。

 さて、この歌のメッセージはこころに響いたでしょうか。
 船は'A*likaに停泊しているけれども……。

 マカオ、黄海、ベーリング海峡とたどっている箇所は、なんとなく船が港を転々としている感じがありましたが、ここでは内陸、しかもヒマラヤの山頂でひと休み、どう考えてもココナツの葉で作った小屋なんてないだろう!?って感じで突っ込みどころ満載な歌詞が続いています。もっとも、この歌がシャロンのバラ、すなわち恋のバートナーを求める旅を描いていると思われることからすると、このヒマラヤでひと休みのくだりは、天にものぼるような(山に登る)気持ちを表現していたりするのかもしれません。あるいは、ふたたび旅立つまでのわずかな時間に、陸に上がってひとときのやすらぎを得る、そんな、港を渡り歩くことを生業とする船乗りの生きざまが描かれている、なんてこともあったりするでしょうか……。
 ところで、「’Alika」は英語の「Arctic」(北極)のハワイ語読みでもあり、18世紀末に同じ名前の船がハワイを訪れたという記録も残されているようです。当時は相当めずらしかったであろう外国船のイメージは、ハワイのひとびとのイマジネーションをはてしなく駆り立てるものだったはずで、『’Alika』にも、ハワイにやってきた船や外国人に対するいろんな思いが投影されているのかもしれないと思ったりもします。世界を旅する船乗りの姿に、自らのとどまることを知らない欲望を重ね合わせながら作り上げられた『’Alika』の世界。それは、夢と現実との間を思いのままに行き来する、ハワイ的な想像力そのものといえる一曲なのかもしれません。

*:この訳語が最初に登場するのは1611年刊行の英訳聖書(King James Version)。
**:ヘブライ聖書に含まれる一編、『The Song of Solomon』。

参考文献
1)Carol Wilcox et al: He Mele Aloha-A Hawaiian Songbook. Booklines
Hawaii Ltd, 2008, p14
2)Samuel HE, Noelani KM: Na Mele O Hawaii Nei-101 Hawaiian Songs. Honolulu, University of Hawaii Press, 1970, pp33-34
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コメント

海月と申します

素晴らしい歌声に魅了されて検索しましたら、イズミ・パヘプアオカラニさん、なんと、湘南が活動拠点なのですね。
びっくりです。

隙間のりりー

海月さま
イズミさん、結構有名な方だと思うのですが、私もこのたびじっくり聴いて、こんなかたがおられるんだなとビックリしました。

そして……海月さん、ぷかぷかシアターのかた?ですよね?
ときどきブログ拝見しています。沖縄の海が恋しいです。。。。

ぷかぷかシアター海月です

いつもワクワクしながら拝見しています
ぷかぷかシアターを御存じとは!
ありがとうございます(・∀・)

わたし、新婚旅行で沖縄にハマるまでは、ハワイに憧れておりました(笑)

フラのサンディさんのファンなのですが、
こちらのblogで、すばらしいミュージシャンさんをたくさん知りました。

今後もよろしくお願いします(^ω^)
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。