目を見張る自然の美しさと、こころとき放たれる空間にいだかれたときの感動が歌いあげられる『Wainiha』。のびやかなメロディラインでもって、まるごとその驚くべき場所の空気を包み込んでいるように感じられますが、まずはそのWainihaがどんなところなのかをみてみたいと思います。 Wainihaは、Kaua’i島の山深い中央部分から、島の北側にむけて約14マイル(22.5キロメートル)にわたって続く、Kaua’i島で最も長く続く渓谷。そして、「Hinaleleをいただき」(kau keha 'o Hinalele)と歌われる「Hinalele」は、その渓谷が始まるあたり、つまり一番高い位置にある滝の名前です。「Niha」(敵意のある)、「wai」(水、流れ)という地名が、どしゃぶりになると洪水になることをうかがわせるように、深く険しい谷を刻む川幅の狭い流れは、壁のように迫る峰々の間をたどり、海にほん近いところでようやく視界が開けてくるような、Wainiha特有の地形がそこにはあるようです。そして、作者のKuana Torresさんがインスパイアされたのが、まさにそんなWainihaの空間なわけですが、彼のことばによると「Hawai'i島のWaipi'o渓谷にもよく似ていて、Wainihaは別の時空間から届いたような声が響いてくるところだった」といいます。そのコメントは、さらにその理由について、「その空間を守るようにそびえる峰々によって、外界から隔てられる感じがここちよかったこと、あるいはそこに繁茂する動植物たちに由来する、美しい自然の神秘のためだったと思う」と続きます*。Wainihaには、自然の摂理だけに守られ続いてきた、夢のように美しく循環する世界があるんだろうか……なんてことも想像されますが、そこは、古代のハワイのひとびとが生活に用いた有用な植物がいまも自生するような、厳しさと豊かさをあわせもった土地でもあるようです**。
Lu*puaの風によって(i ka makani Lu*pua)、下向きにそよぐ葉が(ka lau luhea)香る('a'ala)……植物は上向きに育つのが普通ですが、ここでは、谷の上の方に育つ植物を下から見上げ、それらがしなって風にゆれ、ひそやかに香るさまを想像してみました。また、私の大切なlaua'eのlei(ku'u lei hili laua'e)は、壁のような谷に囲まれた空間(ke awa*wa)の気配によって、より深く濃密になる(po*)という描写からすると、Wainihaの空気を肌で感じ、全身を包まれているときの気分を象徴しているのではないかと思われます。道もない藪やひとけのない森のなかは、自然のここちよさ以上に恐れを感じさせるものだったりしますが、この日のWainihaは、人間に敵対する部分ではなく、温かくおだやかな表情でもって迎えてくれたようですね。
あっ!'apekepekeだ……静寂と向き合っていたひとの耳に、不意に聞こえてきた鳥の鳴き声は、ハッとなにかに気付かせるような瞬間をもたらしたようです。そう、'apekepekeのその声が、聖なる世界からのメッセージのように感じられるくらいに***……。その声が聞こえてきたとされるKe*'e*が、「聖なる峰の下あたり」(i lalo iho o ka pali kapu)と歌われるところから、ここでは神秘的な気分の訪れみたいなものをイメージしてみました。Ke*'e*は、Wainihaの西側に接するahupua’a****である、Ha*'enaの海沿いの地名。そのKe*'e*から鳥の声が届いたと歌われるわけですが、地図でみると、Wainiha の海沿いあたりからでも、Ke*'e*までは直線距離で数キロメートルあり、実際には鳥の鳴き声が聞こえる距離ではなさそうです。それでも、どこか遠くから響いてくるように感じたその声とKe*'e*が結びついたのは、Ke*'e*そのものに、もうひとつの世界を感じさせるなにかがあるからなんでしょうか……。ちなみに、Ke*'e*があるHa*'enaの土地は、ハワイ語で「赤く熱い」「燃える」(red hot)を意味する名の通り、フラの聖地として知られるなど古代の伝説が多く残されている土地でもあります。Ha*'enaにせよWainihaにせよ、自然の壁に隔てられたその空間は、それぞれが独特の空気のなかに精霊をやどし、ときに響き合い交流しながら、悠久の時を重ねてきたに違いありません。
コメント
nao
読んでいると、Wainihaを旅しているような気持になりました。
リリーさんの訳を読んで曲とフリを振り返ると、また改めて感動いたします。
HULAは、曲を伝える踊りなんですね☆
2016/10/17 URL 編集
隙間のりりー
Wainihaの空間を想像しながら訳してみたのですが、場所の空気感まで伝えられるのは、やっぱりことばよりも音楽とhulaだと思います。
またリクエストお待ちしてますね。meleを読む会にもぜひ!
2016/10/17 URL 編集