Kaimuki* Hula

Kaimuki* Hula





 私が口走ったこと(がすごい勢いで広まってる)。
 風が吹きやまないせいね。
 こころが締め付けられる思いで涙もあふれてくる。
 風がやまないこの状況(を耐えながら)。

 これでもかというくらいに繰り返される「hu* ana ka makani e*」(風が吹いている)のフレーズが、風(ka makani)であらわされている事柄の、ただ事でない感じを暗示しているように思われる『Kaimuki* Hula』。しかも「私が言ってしまったこと(が原因)」(‘o ka’u no* ia 'i* aku ai la*)と強い仕方で語られているなにかは、こころが締め付けられ(‘u’umi ke aloha)、涙を流さずにはいられない(me ka waimaka)つらい状況だといいます。寒風吹きすさぶなかをひたすら耐えているような印象もありますが、いったいなにがあったんでしょうか……。

 あなたの大切なフェザーleiには気を付けてね。
 風がどんなに吹いていても。
 雨にぬれたりすると、その美しさもだいなしになってしまう。
 (そして)風は吹いている……。

 「Lei hulu」(フェザーレイ)といえば、晴れやかな場所で、とびきり誇らしい気持ちで身につけるはずの装飾品。ですが、「雨でその美しさが台無しにならないように」(o pulu i ka ua, mae kona nani)なんて心配をしなければならないのは、なにか表に出せない深い事情があるからなんでしょうか。にもかかわらず、その大切ななにか(秘密?)を公にしてしまった―最初のバースで、「私が言ってしまったことで」(‘o ka’u no* ia 'i* aku ai la*)風が吹き始めたとされたのは、そんな状況を歌っているのではないかと思われます。そう考えると、風が吹きやまないという表現は、大切にすべき秘め事を雨風にさらしてしまった、つまり、格好のゴシップネタにしてしまったことの暗喩とも読めます。冒頭にいきなり登場した涙(ka waimaka)は、どうしたものかと思い悩んだ末に、思わずあふれてしまったものだったのかもしれません。

 Kaimuki*で大ごとになってたって、どうってことないわ。
 風は吹いているけれど。
 おだやかな心持になれることだけを願ってる。
 (でも、相変わらず)風は吹いている……。

 「(噂になったって)たいしたことないわ」(mea ‘ole)なんて強がっていますが、相変わらず風は吹きやまない……どうもKaimuki*の町は、その「ある話題」でもちきりのようです。あぁ、とにかくおだやかな気持ちになることだけを願っている(ko'u makemake)のに……。水平の基準になるほどなめらかな水面(ke ana 'iliwai)のようなこころもちが戻ってくるのは、いったいいつになることやらって感じでしょうか。

 電話がかかってくるなんて、いったいなんなの?
 風が吹いてる(ってことね)。
 真夜中にけたたましく鳴り響くベル……。
 (まだ)風が吹いているなんて。

 真夜中に鳴り響く電話のベル(ke kapalulu nei o ke aumoe)……とうとう、直接、その噂を確かめようとするひとがあらわれたんでしょうか。「いったいなんだっていうの?」(he aha nei hana)と歌われるあたりには、もういい加減にしてよ!?といらだっているような雰囲気もありますね。「ひとの噂も75日」なんていいますが、その渦中にあるひとにしてみたら、終わりのないトンネルをひたすら歩き続けているような、鬱々とした日々だったに違いありません。

 この歌に込めた思いをもう一度こころに響かせて。
 風が吹いてる(この状況を想像しながら)。
 あなたと私は、なりをひそめてるしかないなんて。
 (それもこれも)風が吹いてるからなんだなぁと……。

 歌の舞台であるKaimuki*は、O’ahu島の南東部Konaの、海にはり出したDaiamond Headの陸側にあるまち。「Ka-imu-ki*」には「ki*の地下茎を調理するオーブン」なんて意味もあったりして*、古くからハワイのネイティブのひとびとのコミュニティーがあったことを思わせる地名でもあります。もしかすると、住民同士のつながりも密だったりして、あらしのようにゴシップが町中をかけめぐるといったことも、Kaimuki*ならあるかもね……と思わせる、そんな土地柄だったりするのかもしれません。それにしても気になるのが、ホントに風が強い地域だったりするのかどうか**。実際のところはわからないのですが、それでもKo’olau山脈から吹き降ろす風を想像しながら、行ったことのないまちの雰囲気が伝わってくるような気がしてきた、『Kaimuki* Hula』なのでした。

by Alice M Rickard(1940)

*:「Ki*」といえば、その葉で作った衣装がフラのステージで用いられたりしますが、かつてハワイでは、その地下茎を調理してサトウキビのように食べたり,シロップでお酒も造られたようです(Sterling EP, 1962)。
**:Kaimuki*がある地域の名であるKonaのもともとの意味は「風下」で、山を越えてKona側に吹く風はKona windと呼ばれます。

参考文献
1)Sterling EP, Summers CC: Site of Oahu. Honolulu, Bishop Museum Press, 1962, p276
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。