Hanohano No* ‘O Hawai‘i

Hanohano No* ‘O Hawai‘i







 なんて美しい山なんだろう、Maunakea。
 (島の)どこからでも見わたせて、だれもが知っている。
 Hawai’i島のすばらしさの象徴って感じかな。

 シンプルで飾らないメロディラインが、ハワイの田舎町の雰囲気をそのまま伝えてくれているような、のどかな空気感がある『Hanohano No* ‘O Hawai ‘i』。「Hawai’i島はすばらしい」(hanohano no* ‘o Hawai ‘i)といえるその特別さの象徴として、島の最高峰Maunakea山(約4,200メートル)が選ばれているわけですが、その存在を「だれもが知っている」(kaulana)のは、その高さもさることながら、島のいくつかの地域が峰をぐるっと取り囲んでいるから(a puni na* moku)だと語られています*。そのあたりを地図で確かめてみると、Maunakea山は、Hawai’i島のほぼ中央あたりから北方向に続くHamakua地域にあり、隣接する地域はもとより、距離的にはそこそこ離れているほかの地域からも、遠くに見晴らせる位置関係にあることがわかります。たとえば、Maunakea山を島の東側にあるHiloのまちから見た場合と、北西方向のSouth Kohalaあたりにまわって見た場合とでは、それぞれ同じ山の反対側を眺めていることになる……といった具合ですね。火山が海底から現れることで生まれた島ならではという意味でも、まさにこれぞHawai’i島といえる風景なのかもしれません。

 Hawai’i島の誇りはそんな(山の風景の)美しさとともにある。
 (雲をいただくその姿は、まるで)Lehuaの花をleiとしてまとうかのよう……。
 (Maunakea山には)そんな飾りをいつも身に着けている(ような気品があるのです)。

 水蒸気をたっぷり含んだ気流が山肌を駆け上り、頂に近づくにつれて冷やされ雲になる……そんな水の循環が、自然のダイナミズムそのままに、美しい風景としてあらわれを持つのが、天高くそびえるMaunakea山でもあります。そんな気象条件から、ときには厚い雲におおわれてその姿が見えないこともあるわけですが、晴れた日にはふんわりした雲が頂あたりを取り囲み、まるで美しいleiに飾られているように見えることもある……。そんな景色を想像しながら歌詞を読むと、「lehuaの花を」(i ka pua a’o ka lehua)、「leiとして身に着ける」(‘ohu‘ohu)という部分は、Maunakea山が、いつみても自然の宝石に飾られている(‘o kou wehi mau ia)ことを物語っているようにも思えてきます**。

 Punaはhalaの香りがふんわりただようところ。
 (その花が)maileとともに編まれたりもして……。
 そう、Pana’ewaもいいところよね。

 Punaは、Hawai’i島の東にはりだした地域、Maunakea山があるHamakuaからだと南東方向にあり、その海沿いにhala(pandanus)が群生する場所があることで知られています。「Punaは香っている」(onaona Puna)と歌われるのは、halaといえばその雄の木に咲く花、強い芳香を放つhi*nanoが連想されるからではないかと思われますが、ここではさらに、その花がmaileの葉とともに編まれているとも語られます。また、最後に登場するPana’ewaは、Puna地域とその北西側に隣接するHilo地域との境目あたりにあり、そこに育つlehuaの森が、Hiloの自然の豊かさの象徴として語られる場所でもあります。ここでは、土地への称賛の気持ちが、その地に育つ植物の描写に込められているのではないかと思われますが、「hala」「maile」はその香り、「Pana’ewa」はそこに育つlehuaの力強さでもって、大地に宿る無限のパワーみたいなものを感じさせるところもあります***。

 (Maunakeaがある風景の美しさが)あなたのこころにも響いたでしょうか。
 そう、(その山は)いくつかの地域に囲まれて(見上げる位置にある)……。
 (だから)まさにHawai’i島のすばらしさの象徴なのです。

 そう、Hawai’i島のすばらしさは、(Maunakea山が)ゆうゆうと大地を見下ろすあの姿があってこそ……最後まで読み進めると、この歌の作者、Alice Na*makelua(1892-1987)が、どれほどその山が見える風景を愛していたかが伝わってきます。もっとも、彼女がHawai’i島で暮らしたのは幼少期だけで、日々、Maunakea山を眺めていたわけではなさそうです。とはいえ、彼女が生まれたHawai’i島Honoka'aは、Maunakea山のあるHamakua地域の海辺にあるまち。ということは、海を背にすると、Maunakea山から続くなだらかな斜面とともに、荘厳なそのいただきが見えることもあったはず……9歳のときにHonoluluへ引っ越していますが、だからこそ大切な、思い出のなかにある彼女だけのMaunakea山があったのかもしれません。
 ところで、作者のAlice Na*makeluaはどんなひとだったかというと……音楽やhulaにあふれる家庭に育ち、5歳で歌、8歳でslack key guitarを始め、makua ha*nai(養父)からはハワイ語を学ぶなど、ハワイアンカルチャーに包まれた幼少期をベースに、70年にわたる音楽キャリアを積んだミュージシャン。1901年にHonoluluへ引っ越し、Princess Kaiulani Grammer Schoolに入学したころには早くも作詞を始めていたことからも、その早熟ぶりがうかがわれます。1908年に最初の夫の要望で音楽活動をやめていますが、1919年には再開し、総数180もの楽曲を残すことになります。そして、その多くは「Department of Parks and Recreation of the City & County of Honolulu」で活動した23年間(1935-1958)に作られたものなんだとか。その施設で「playground director」として活躍した彼女は、遊びの場で子どもたちに歌やhulaを教えながら、彼らに届くことばをつむぎ続けたわけですね。彼女の楽曲が、シンプルな歌詞となじみやすいメロディを特徴とするのもなるほどって感じですが、「同じ歌ばかりだと自分も退屈だったから」というのが、楽曲づくりの動機でもあったようで、教えながら彼女自身も楽しんでいたであろうことがうかがえます****。
 さぁ、今日はみんなが見たことのないおっきなお山、Maunakeaの話をしようかしら……読み進めるうちに、そんな仕方で子どもたちに語りかける彼女の声が聞こえてくるような気がしてきた『Hanohano No* ‘O Hawai ‘i』。年を重ねても、子どもの目線で風景に向き合うことの大切さを知っていたひとだったのではないか……と想像しています。

by Alice Ku’uleialohapoina’ole Na*makelua

*:「Moku」には、「島」「船」のほかに「地区」「地域」(district)という意味があることから、「na* moku」を「(Maunakea山を取り囲む)いくつかの地域」と訳しています。
**:「Leiを身に着ける」(‘ohu’ohu)は、「霧(がかかる)」「山にかかる綿雲」といった意味のある「’ohu」が重ねられたもの。また「pua」(花)は、「’o*pua」(雲)と同じ意味でも用いられることば。
***:Lehuaの木('o*hi'a)は、溶岩に焼き尽くされた土地のさけ目から、まっ先に芽吹く植物でもあります。
****:施設を引退してからも、10代から大人まで、ハワイアンミュージックを教え続けたというAlice Na*makelua。生涯を通じて、先生としての影響力が大きかったひとだと言えそうですが、とくに若手にとっては、ハワイ語の正しい発音や、英語をハワイ語に正しく訳すにあたって教えを受けるなど、なくてはならない先達だったようです。有名どころでは、Keola Beamer、Brother Cazimero、Kawai Cockett、Eddie Kamae、Keli'i Tauaといったひとたちが指導を受けたとされます。どちらかというと表舞台で活躍するタイプではなかったのか、レコーディングも1974年と晩年になってからですが、1972年にはHMF(Hawaiian Music Foundation)からハワイ音楽への貢献を認められ、1978年第1回Na Hoku Hanohano Awards特別賞(Special Award)を受けています。

参考文献
Kanahele GS, Berger J: Hawaiian music and musicians-an encyclopedic history. Honolulu, Mutual Pub Co, 2012, pp569-571
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。