Radio Hula

Radio Hula



 まちで一番、新しいことといえば、
 素敵な歌声を運んでるラジオ網かしら。

 Ho'okahi mea hou ma ke kaona
 Ka uea radio e honehone nei

 (そのエネルギーを運んでいる)電線の中心部分では
 電気がしっかり働いてくれてるのよね。

 Pa* iho i ke kikowaena
 Ho*'oni ho'ohana i ka uila

 ラジオが届けてくれる声がうれしくて仕方ないひとの、なんとなく幸せな気分が伝わってくる『Radio Hula』。ハワイにラジオが普及し始めたのが1920年代。この歌はそれから十数年を経たころに作られていて、ちょうと庶民にもラジオがゆきわたった頃だったかもしれません。電話が通じるようになり、ラジオ放送も始まって、次はいよいよテレビ……という時代。電気が可能にした新しいメディアへの素朴な感動が、「ラジオ網」と訳した「ka uea radio」(ラジオの線)や、電気でもって(ia ka uila)前へ、前へと進んでいく(ho*'oni ho'ohana)という表現に、ストレートにあらわれているように感じられます。

 (それは)磁石みたいな引きつける力でもって、
 (ハワイの)島々をつないでくれる。

 Na ka mana 'ume huki
 Na*na i ho'ohui na* 'ailana

 ここでは、先に登場した「ラジオの線」(ka uea radio)、そして、電線を流れる「電気」(ka uila)から、それが生み出す磁場へとさらにイメージがふくらみ、「ma*ke*neki」(磁石)なんてことばも登場しています。なぜ、ラジオから磁石にゆきつくのか(?)という若干の違和感はありますが、「島々が一緒になる」(ho'ohui na* ailana)というくだりで、作者がイメージしているものがなんとなく感じられるようにも思われます。そう、海で隔てられた島々を、共通の話題や関心事でもってつないでくれるところが、まさにラジオの新しさだったわけですね*。

 この思いが伝わったかしら。
 驚くべき影響力を発揮するラジオ網(の感動が)。

 Ha'ina 'ia mai ana ka puana
 Ka uea radio hana ku*paianaha

 かつて、技術革新がもたらした新しさの象徴だったラジオ。そのこととは別に、作者Lena Machado(1903-1974)にとってのラジオは、その音楽キャリアの重要な出発点でもありました。というのも、彼女の歌声をたまたま耳にし、プロへの道に誘ったのが、ハワイに最初にできたラジオ局KGUの局長、Marison Mulroneyだったからです。Marisonがたまたま通りがかった学校でマンゴーの木に登り、ご機嫌にフルーツを採りながら歌っていたのが、まだ学生だったLena Machado。いきなり頭上から聞こえてきた歌声に魅了されたMarisonは、すぐさま彼女を説得してラジオ局へ連れていき、まさかの生放送初出演となります。学校の先生になってほしいという養母の願いもあったようですが、彼女はすぐにプロとして契約し、家も学校も出て音楽の道へ。1920年代終わりから30年代を通して、歌手としてラジオで活躍することになります。KGUができてまだ間もないころで、Marisonもスターを探していたところだったのかもしれませんが、マンゴーの上で見いだされたというのが、その後、「Hawai'i's Songbird」と呼ばれ愛された、Lena Machadoらしいエピソードではあります。
 女性が社会的に活躍する場がまだまだ限られていた時代に、自身のラジオ番組を持った合衆国初の女性だったりもするLena Machado。番組を担当したのは1943年から1946年のことで、折しも第二次世界大戦のさなか、各地に派遣されていた米軍兵士のもとにも、彼女の歌声が届けられたといいます。そうして、ハワイの島々のみならず、故郷を遠く離れた戦地の若者をつないだのも、Lena Machadoだったわけですが、彼女の素朴でのびやかな歌声には、やっぱりごく普通の日常が似合うなとあらためて思ったりもする、『Radio Hula』なのでした。

by Lena Machado(1934)

*:Lena Machadoは、自宅のメンテナンスや改造なんかも自力でやったりするひとだったようで、ときには屋根に上って作業をすることもあったようです。そんな彼女ですから、養女のPi'olani Mottaによると、電気の配線あたりのこともよくわかっていたのではないかとのこと。『Radio Hula』に登場する、まるで電線が島々をつなぐような描写は、そんなLena Machadoならではの連想だったに違いないというのが、Pi'olani Mottaの見解です。

参考文献
Motta P: Lena Machado-Songbird of Hawaii-My Memories of Aunty Lena. Honolulu, Kamehameha Schools, 2006, pp185-189
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。