Blossom Nani Ho'i E

Blossom Nani Ho'i E





 Ka‘alaといえば、りっぱにそびえる山。
 生い茂る緑に守られて静けさをたたえている。
 (それが)美しい花(であるBlossoomゆかりの地)
 (彼女への思いを)しみじみ思い起こさせてくれるの。

 思い入れたっぷりなNatalie A'i Kamau'uの歌いっぷりが、とにかく印象的な『Blossom Nani Ho'i E』。各バースとも、Ka‘ala山、Wahiawa*にPu‘uloaと、O'ahu島の地名が登場し、すべて「ある美しい花(を思う気持ち)」(he blossom nani)が、「穏やかにただよう」(ho'olana i ka ma*lie)場所であると歌われます。そして、Natalie自身が語るところによると、彼女の祖母の名がまさに「Blossom」で、歌に登場する場所は、すべておばあちゃんに縁のある場所なんだといいます。表向きには風景描写が連なっているだけですが、Natalieにとっては、まったく別の意味合いがあるわけですね。そう、どの場所も、おばあちゃんへの思い、あるいはおばあちゃん自身の思い出を、しみじみと思い起こさせてくれる(ho'olana i ka ma*lie)のですから……。そんな、自然と人間とがまるで境目なしに交流しているようなこの歌の表現に、ハワイ的世界観があらわれているのではないかと思ったりもします。

 Wahiawa*といえば、Leilehuaのまちがみわたせるところ。
 名高いleiのように(思いが)編まれている場所なの。
 (それが)美しい花(であるBlossoomゆかりの地)
 (彼女への思いを)しみじみ思い起こさせてくれるの。 

 Wahiawa*は、先に登場した山、島の北西にそびえるKa‘ala山から東方向に広がる内陸部のまち。そこには「Leilehuaのまちが見渡される」(e 'ike 'ia Leilehua)と語られ、その地は「名高いleiのように(思いが)編まれている」(i wili 'ia me ka lei kaulana)とも歌われます。ここで注目すべきなのは、「lei kaulana」とは、Natalieの曾祖母の名(Leikaulana)でもあるらしいこと。いわば、Natalieにいたる母方のルーツがこのWahiawa*の地にあるわけで、だからこそ、その地は「lei kaulanaとともに」(me ka lei kaulana)語られるんですね。

 Pu‘uloaといえば、もの言わぬ貝(が眠る場所)。
 (その名の由来を伝える)真珠のように愛すべきところね。
 (それも)美しい花(であるBlossoomゆかりの場所)
 (彼女への思いを)しみじみ思い起こさせてくれるの 

 Pu‘uloaは、先のバースで歌われたWahiawa*から、南に下った'Ewa地域にある湾。現在はPearl Harbar(真珠湾)として知られる、海沿いの地域の古い名前です。長年、合衆国海兵隊による軍事利用が続き、「真珠」という名の由来を知る人も少なくなっていますが、19世紀の初め頃までは、そこで採れたオイスターが庶民の食卓に上っていたといい、19世紀末にPearl Harbarの軍事目的の開発が本格化した際には、そのことを伝える貝殻の集積が発見されてもいます。「Pu‘uloaといえば、もの言わぬ貝」(Pu‘uloa o ka i'a ha*mau leo)と歌われるのは、そのあたりの歴史をふまえてのことではないかと思われますし、Natalie自身も、この歌はおばあちゃんから聞いたハワイの昔話をもとにしているとも語っています*。

 さぁもう一度、この歌の思いをこころに響かせて。
 名高いleiのように(思いを)編んでみたの。
 美しい花(であるBlossoomへの思いを込めて)
 (彼女のことを)しみじみ思い起こしながら……。 

 (この歌を)かぐわしく素晴らしき花(である祖母に捧げます)。

 こんなふうに、曾祖母、祖母(そして、もしかすると母、Olanaさん**)と続く、家族の歴史が歌われている『Blossom Nani Ho'i E』。認知症が進み始めたおばあちゃんが話してくれた物語を、歌にして残そうという思いがあったようですが、家族の系譜を歌にすること自体は、古代から続くハワイ的な伝統にのっとっているともいえます。そう、ファミリーチャンとと呼ばれるような表現形態ですね。たとえば、有名なところでは、王朝末期にKala*kaua王が公にし、後にLili'uokalani女王も翻訳している、王家の系譜を伝える『Kumulipo』もそのひとつ。この2,102行にもわたる壮大なハワイの創世神話は、本来、一般に公開されるようなものではなかったところを、合衆国併合に至る混乱のさなか、ハワイ王朝による統治の正当性を示す意味もあって、英訳が試みられたようです。そんな、『Kumulipo』にまつわる事情を考えあわせると、家族の記憶が失われることへの危機感から作られたともいえる『Blossom Nani Ho'i E』にも、ハワイ的表現の伝統が脈々と息づいていることも見えてきます。そして、もうひとつ、hulaの伝統を継承してきたこの一家の歴史は、hulaをはじめハワイ文化が否定された時代を乗り越えていまに連なるものでもあることを、こころにとどめておきたいと思います。

by Natalie A'i Kamau'u

*:『Pu*pu* A'o 'Ewa』というトラディショナルソングに、Pu‘uloaにまつわる歴史が歌われています。
『Pu*pu* A'o 'Ewa』 http://hiroesogo.blog.fc2.com/blog-entry-437.html
**:繰り返される「ho'olana~」で始まるフレーズに含まれる「olana」が、Natalieの母、Olana A'iを思わせるところから、親子三代の歴史が読み込まれている可能性もあるのではないかと思われます。

参考文献
Mcdougall BN: Finding meaning-kaona and contemporary Hawaiian literature. Tucson, University of Arizona Press, 2016, pp52-60
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。