ゆったりと連なるメロディが、眠りにつこうとするHanalei(Hanalei i ka pilimoe)を体験した誰かの、喜びに満ちた気分を感じさせる『Hanalei I Ka Pilimoe』。その美しさにすっかりうれしくなった(hia'ai i ka nani)と歌われるMa*healaniは、ハワイ語で十六夜の月を表すことば。そろそろ眠りにつこうかという頃合いに目にしたその月の、あまりに清々しく光を放つ姿にこころ奪われて、ときめく気持ちのままに夜のHanaeiをしばし眺めてしまった……みたいな感じでしょうか。わずかのかげりも感じさせないこの歌の明るさは、ある夜のHanaeiの月明かり、あるいは闇を背景に白く浮かび上がって見えたまちの風景そのものではないかと思われます。
月明かりに照らされて、ちらちらと輝く流れの美しさ……このバースでは、思いがけず目にした水辺の光景がもたらした、この上ない幸せな気分('oli'oli)が歌われています。やさしくそよぐMoa'eの風が川面をふるわせ、月明りできらきらと夢のように輝いている……水の流れといってもいろいろありますが、作者が眺めたのは平野部(ke kula)のそれなので、ある程度の川幅でもって、ゆったりと豊かな水をたたえている感じを想像してみました。もっとも、その輝きは、「Kalikoからやってきた水の輝き」(ka hulili o ka wai no Kaliko)と語られていて、その流れがWai’oliの奥深く、Na*molokama(約1,300メートル)の高い峰あたりから集まってきたものであることが、強烈に意識されていることがわかります。Hanaleiといえば、Kaua’i島でもとりわけ水資源が豊かな地域で、その昔はkalo(タロ)の水田が広がっていたりもしたところ。そんな自然の恵みが、奇跡のように美しく迫ってきたひとときは、その伝統を自らのルーツとするひとにとって、特別ななにかを感じさせるものだったに違いありません。
まちも眠るような静寂に包まれながら、曇りなく輝く月明りに白く照らし出されていた、ある日、ある夜のHanalei。その息をのむようなひとときに、いま、まさにただひとり立ち会っている―そう思うと、自分がまるで選ばれし者である(he pua no* au i poni 'ia)かのような思いだったことが、ここでは信仰告白さながらのことば遣いでもって語られています。ですが、ここはHawai’iの自然にあらわれた神(的なもの)、キリスト教的な唯一絶対の神よりも、あらゆる自然現象とともにあるような、汎神論的な複数の神々をイメージしたほうがいいかもしれません**。それはともかく、自然が見せてくれる奇跡のような美しさは、ときに人間の力を超えたなにものかを感じさせてくれるもの。それですっかり気持ちがハイになってしまい、月明りのなか、たかぶる気分のまま輝く川面を眺め続けたと歌われる『Hanalei I Ka Pilimoe』。一方、街灯やネオンで明るさが絶えない街中もまた、闇が失われた眠らない世界といえなくもないですが、人工物に守られ過ぎた都会では、畏敬の念でもって迎えるべきなにかのための場所を見つけるのも、いまや至難の業なのかもしれません。
words by Devin Kamealoha Forrest, music by Kalani Pe'a
参考文献 1)Wichman FB: Kaua'i-ancient place-names and their stories.Honolulu, University of Hawai'i Press, 1998, pp106-113 2)Kanahele GS: Ku kanaka stand tall-a search for Hawaiian values. Honolulu, University of Hawaii Press, 1993, pp96-100
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