「まなざしが(なにかを)語りかけ」(ko* mau maka e 'i* mai ana)、「二人してゆれる」(ka*ua e naue ai)……なんとなく、全身の表情でもってストーリーを語る、熟練hulaダンサーの姿が目に浮かぶようです。それもそのはず、Sallyは当時活躍していたkumu hula(hulaの指導者)だったひと。公私にわたり、Sally と長年にわたって親交のあったLena Machado(1903-1974)が、自分のことを歌にしてほしいと頼まれて誕生したのがこの楽曲でした*。 SallyとLenaは、若いときからの付き合いだったようで、1930年代から40年代にかけて、ミュージシャンとしてともに演奏旅行をした仕事仲間であり、よき友人同士でもあったとされます(この歌が作られたのは1946年)。そして、Lenaの養女、Pi’olani Mottaによると、Lenaが新しい曲を作るたびにSallyがやってきて、二人で踊ったりするようなこともあったんだとか。だとすると、「二人してゆれる」(ka*ua e naue ai)の部分には、そんな二人の思い出が歌われていたりするのかもしれません。
「輝く月によって」(na ka mahina ma*lamalama)現れるその姿……その名に太陽の輝きを含むSally ですが、Lena Machadoにとっては、日が暮れるとたちまち輝く月が白く照らしはじめるような、特別な存在だったようです。なんとなく、スポットライトをあびるダンサーを思わせるところもありますが、もしかすると、ステージ上で一段と輝き、大きく見えたSallyのことがイメージされているのかもしれません。 Lena Machadoが残した楽曲には、ほかにも彼女の友人知人のことを歌ったものが少なからずありますが、意外にもこの『Moani~』については、彼女なりに苦労するところがあったようです。というのも、「(長い付き合いなのに)私の名前が歌に登場したことってないわよね?」みたいなノリでお願いされて引き受けたものの、これは歌にしておこうと思うような出来事や、感情の高まりがまずあって創作するのがつねだったLenaにとって、課題ありきの楽曲作りは思いのほか重荷だったからです。そんな事情もあって、結局、二人であれこれ相談するなかで出来上がったのがこの作品なんだとか。かなりよそ行きな印象のこの歌が、気の置けない友人同士の他愛ないやりとりから生まれたというのも興味深いですが、そう考えると、端正なハワイ語の向こう側から、あーでもない、こーでもないとやりあう二人の会話がもれ聞こえてくるような気もしてくる『Moanike'alaona*puamakahikina』。ある時代、ともにハワイ文化の担い手として活躍した二人の才能が、思いがけない仕方で結晶化したようにも思える一曲でした**。
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