None Hula

None Hula





 (あなたの)なんだがためらいがちなそのふるまいって、いったいなんなのかしら。
 (まぁ)そうならざるを得ないことだから……ってことなんだろうけれど。

 「いったいなにやってるのよ」(he aha nei hana)といきなりはじまるわりには、やろうとしていることの性質上(i ke kumu o ka hana)、悩ましいのも仕方ないわね(e none ana paha)と、すべてを受け入れているようでもある『None Hula』。「None」というハワイ語は、「遅い」「うんざりするような」「時間の無駄」といった、どこか煮え切らない態度にいらだっている感じから、「悩ませる」「からかう」「しつこく迫る」など、なんとなく居心地の悪さをともなう状況まで、かなり幅広い意味合いのあることば。あなたと私の間で、のっぴきならないなにかが起こりつつある(!?)ことは確かだと思われますが、もう少し先を読み進めてみると……。

 で、あなたは私にどうしてほしいっていうのかしら。
 あなたはもう、胸のこんな際のところにまで迫ってきてるっていうのに……。

 「あなたの望むところはなんなの?」(he aha kou makemake)と、ここでは、先のバースにも増して単刀直入な感じで相手に問いただしているようです。というか、「胸のあたりに触れるほどの距離まで近づいている」(i ka poli pili ala)わけですから、それを受け入れるかどうかは、この私の気持ち次第……ってところでしょうか。そして、次に続く歌詞には、まさにそんな気分が表現されているようです。

 まったく、私はどうしたらいいのかしら。
 いつもあなたったら、私をなやませるんだから。

 「さて、どうしたもんかしら(もう知らない!)」(pehea la* wau)……このフレーズには、ひとごとみたいに突き放した感じがあって、怒ったり困ったりしての発言というよりも、もしかすると相手をはぐらかして楽しんでるのでは(?)と思わせるところもあります。そう、あなたが私を悩ませるのは「いつものこと」(mau)。「どうしてほしいの?」なんて問うまでもなく、あなたの望みはなんでもお見通しだったりする私なのかもしれません。

 もう(みなさん)、おわかりよね。
 (彼が)やろうとしてることが、つまりはそういうことだから……ってこと。

 子どもみたいに自由奔放で、ときに想定外の行動にどぎまぎさせられる、そんな彼に振り回されながらも、二人だけの秘めごとを結構、楽しんでいる感じが伝わってくる『None Hula』。あれこれ状況が想像される楽しいmeleですが、この歌の作者であるLena Machadoのha*nai(養女)、Pi’olani Mottaの手記には、彼女がこの歌を好ましく思っていなかったことが記されています。ステージでこの歌がはじまると身震いしてしまい、周囲からからかわれるほどだったといいますから、よほど気にくわないところがあったのかと思いきや、「歌詞そのものにはそれほど毛嫌いすべき要素はないのに、どうして気持ちがざわつくのかわからなかった」ともあります。ただし、このmeleはどちらかというとカジュアルなステージ向けの内容だったようで、Lena Machadoも、ことさら古めかしい、がなり立てるような声で面白おかしく演出していたとされます。見ようによっては下品で、きわものすれすれの雰囲気を楽しむには、Pi’olani Motta自身がまだ若すぎたのかもしれませんし、実際にku*punaと呼ばれる年配以上の世代に受けが良かったようです。たしかに、会場が一体になって楽しむにはもってこいの内容かなと思われますが、ステージで盛り上がっても、そのたびに家では「あれはもうやめて」と身近なひとにいわれ続け、さすがのLenaも、Pi’olaniたちが聴いているときはやらなくなったという、いわくつきの作品のようです。
 そんな経緯もあって、Lena Machadoがステージで披露する機会が少なくなってしまった『None Hula』ですが、このmeleの振り付けをLena自身から教わったダンサーも、Pi’olaniの記憶では二人しかいないんだとか*。ことば通りの意味を振りにのせながら、直接語られていない部分を、顔や目の微妙な表情やときにオーバーアクションで表現する……ダンサーには、meleを相当深いところで捉える力量と、それを形にするスキルが要求されそうですし、Lena Machadoが大事にしているツボみたいなところを的確にキャッチできる、生徒としての勘の良さみたいなものも必要だったと思われます。そして、そのパフォーマンスを楽しむ観客のほうも、幾重にも意味を重ね合わされた表現の豊かさを、メッセージとして理解する力が試されるわけですね。そう考えると、これこそまさに、ネイティブハワイアンのための、ネイティブによる表現ではないかと思われる『None Hula』。コミックフラとひとからげにしたのでは抜け落ちてしまう部分にこそこの作品のよさがあり、hulaを学ぶひとにとって大切なことが含まれているような気がする一曲です。

by Lena Machado(1939)

*:ひとりはJoan Lindsey。1940年代の終わりに、Club Pago Pago、South Beretania StreetでLenaと踊っていたダンサーです。1948~1950年頃、Gabby Pahinui、George Dela Nux、George Pokiniといったバンドメンバーとともに4人のダンサーがステージ立ち、うち二人がNone ガールを演じていたようです。もうひとりはNani Panok Castro。第二次大戦中にhulaをはじめたひとで、Lena Machadoのほかのどの生徒よりも長くLenaとの付き合いが長かったとされます。なお、彼女の息子のWayne Kaho'onei Panokeは、2009年に亡くなるまで、ハワイアンカルチャーを守り振興する活動に積極的にかかわったkumu hulaのようです。
Wayne Kaho'onei Panokeについて
http://the.honoluluadvertiser.com/article/2009/Nov/28/ln/hawaii911280325.html

参考文献
1)Motta P: Lena Machado-Songbird of Hawaii-My Memories of Aunty Lena. Honolulu, Kamehameha Schools, 2006, pp147-151
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。