寄せては返す波の音に耳をすませながら、遠い水平線の彼方へと思いを馳せている……そんなひとときの静かな心持ちを思わせる『Na* 'Ale O Ni’ihau』。Ni’ihau島といえば、小さく繊細でいろとりどりの貝、Kahelelaniをつないだleiが有名ですが、ここでは、Ni’ihauの海辺がまさに貝たちの「生まれ故郷」(ke one ha*nau)であり、そこでさざ波に(i na* nalu ha*nupanupa)あらわれながら、独特の色彩と輝きをはなつ宝石に育て上げられるさまが語られています。
Pu’uwaiは、Ni’ihau島西岸にある集落の名前。人口が少ないNi’ihauにあって、比較的住居が集まっているエリアです。それでも、お隣さんとの距離が数百メートルはあるといいますから、家が集まるというよりも散らばっている印象かもしれません。こじんまりした家々は、Pikakeやブーゲンビリアの花に飾られた石のフェンスに囲まれ、庭では家畜の羊や豚がのびのびと育っている……そんなのどかな生活が営まれているようです。ほかに目を引くものといえば、大きなkiaweの木々に教会の建物、気まぐれに響くクジャクの鳴き声以外に空間を乱すものはないほどおだやかで、乗り物といえば自転車か馬という、ひとが歩く速度が基準の静かな日常がそこにはあります。そんな、まさに昔なつかしいハワイの風景を絵に描いたようなPu’uwaiは、その昔、「Pu’uwai Aloha o ka Ohana」(家族の愛にあふれるこころ)と名付けられて、その後、短くなった地名なんだとか。そこに暮らすひとびとの素朴な温かさはよく知られている(kaulana)と歌われるのは、そんな名前の由来を受けているのかもしれません。そして、Pu’uwaiの様子を「目の当たりにしたら、幸せな気分になれる」(hau’oli ka manawa ke ‘ike aku)とも語られるのですが、と同時にその土地は「波しぶきによって隠され」(huna i ka ‘ehukai)、まるで神秘のベールをまとっているようにも描写されています。このあたりは、ほかの島々とは違う特異な歴史を歩んできた、Ni'ihau島ならではの事情が背景にありそうです。 Ni'ihauは、19世紀なかばに英国人所有の島になり、島の生活を手つかずのまま残したいという所有者の強い意志のもと、近代化や開発とは無縁の歩みを続けてきた島。しかも、ほかの島々との自由な往来が制限されてきたこともあって、ハワイのひとびとにとっても、ちょっぴり謎めいた、まただからこそあこがれや郷愁の対象でもあるような場所だったりするようです*。
欧米化の歩みの過程で、日々の生活から姿を消したHawai'iの伝統が、いまも日常そのものとして残されているNi'ihau島。そんな奇跡の島への熱い思いが、波にのってそこへ届けられることを夢見るように歌われる『Na* ‘Ale O Ni’ihau』。そして、この締めくくりのバースでは、その波がすでにNi'ihauに届いており、しかもその波はこちらに戻ってもくるはずで、さらにそのうねりが、遠くKahikiの地にも向かうに違いないと語られているようです。Kahikiといえば、ハワイのひとびとの祖先がそこからわたってきたとされるかなたの地であり、その意味で、Hawai'iの伝統のふるさとそのものともいえる場所。そんな太古の記憶のなかだけにある存在が、くるおしくも懐かしく思えるのは、ひとときも休むことなく寄せては返す波が、ことばを超えたメッセージを運んでくれていたりするからなんでしょうか……。大洋に囲まれ、海をわたってくる波や風とともにある暮らしから生まれる独特の感性が、強烈に感じられるmeleでした。
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