素朴なメロディとともに語られる、しなやかにたなびく草原の風景が、風が強いことで知られるNu'uanu山頂のイメージをいっきにふくらませてくれる『He Aloha Nu'uanu』。「思いを寄せるNu'uanu」(He aloha Nu'uanu)という冒頭のフレーズから、その場所に対する特別な思いがうかがえますが、この歌は、Lisa Takatsugiがuniki 'ailolo(hulaダンサーが学びの節目で経験する重要なプロセス)の課題が与えられたときに、自身のふるさとへの思いを表現したものなんだとか*。そのあたりが「私は(Nu'uanuの頂上である)Lanihuli出身の若芽」(he liko no* au no Lanihuli)と詩的に表現されているわけですが**、山中で生まれた(あるいは暮らした)というのではなく、その美しい山並みを日々見上げながら育ったひとの、Nu'uanuに感じる親密さが語られているのではないかと思われます。
HonoluluのまちからNu’anu Paliの頂上に続くハイウェイを行くと、緑豊かな渓谷を背に広がる、Ha*naiakamalamaと呼ばれるエリアがあります。そこは、かつてEmma女王(1836-1885)が夏の避暑地にしていたとされる邸宅があったところで、夫であるKamehameha四世やAlbert王子にもゆかりのある場所。現在はミュージアムになっており、Emma女王の遺品や王家が所有したアンティークの品々が展示されている、貴重なアーカイブでもあるようです***。そこが「神聖さで輝いている」(lamalama ia noho i ke kapu)とされるのは、いまも大切に守られているその空間が、王朝時代のハワイの伝統や歴史を感じさせる、独特の雰囲気に包まれていることを語るものではないかと思われます。そして、そんな失われて久しい往時の華やかさを記憶するかのように、いまも変わらず咲き誇る'a*hihiの花……。'A*hihiと言えば、Nu'uanuの高地にみられるlehuaの一種。その赤い花がleiにも好んで用いられ、小さくて繊細な葉や、しなって垂れ下がる枝の形状に特徴がある低木です。その独特の姿に投影されるであろう、土地のひとびとの思いが気になるところですが、そこに生まれ育ったひとにしか語れない風景があることだけは、確かではないかと思われます。
「私のふるさとは豊かなところなの」(waiwai ku'u 'a*ina)……ありあまる裕福さを連想させるところもある「waiwai」****ですが、ここでは、そこに根を下ろすひとびとが安心して生活できるほど土地が豊かで、自然環境も申し分ないといった、暮らしのレベルでの豊かさをまずイメージしてみたいと思います。というのも、「温かく迎えてくれる声」(ka leo pa*heahea)と訳した「pa*heahea」には、もともと「ちょっと寄って(一緒に食べていきなさいよ)」みたいなニュアンスがあるからです。昔のハワイでは、そうやって旅人に呼びかけるのが一種の礼儀でもあり、その土地のひとびとの豊かさ、あるいは心意気をあらわすものでもあったという、そのあたりの文化的背景を考え合わせると、ほんの数年前に作られたとは思えないほど、ベースとなる価値観は、ハワイ古来の伝統に根ざしたものであることがうかがえます。また、トラディショナルソングによくある「ha’ina ‘ia mai ana kapuana」(歌のテーマをもう一度)こそ登場しませんが、「he hea ke*ia no ku'u 'a*ina」(この歌は、そんな私の愛する大地へ向けての思いを語ったもの)というフレーズは、同じ内容をいま風に言いかえたようでもあります。こんなふうに、さらっと風景を描写しているようでいて、そこに堆積してきた歴史や土地のひとびとの思いが詩的に表現されている『He Aloha Nu'uanu』。風景が物語られるものとして存在するハワイ語の世界観は、いまもしっかりと受け継がれているようです。
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