Wahine ‘Ilikea

Wahine ‘Ilikea







 海辺に育つkalaunuの花(といえば)*
 Honouliwai(ならではのもの)
 (そして、なんといっても)Moloka‘iに抱かれるような
(女性を思わせるなめらかな)白い霧の立ち込める風景が、
 この島の宝物だと思う。

 Pua kalaunu ma ke kai
 ‘O Honouliwai
 Wahine ‘ilikea i ka poli ‘o Moloka‘i
 No* ka heke

 「白い肌の女性」とも訳せる不思議なタイトルに、まずは誰もが興味をそそられる『Wa*hine ‘Ilikea』。風が吹き抜けるような軽やかなメロディラインも印象的ですが、この歌は、Dennis Kamakahi(1953-2014)が1974年にMoloka‘i島の東側の地域を訪れた際、O’ahu島に戻ろうと空港に向けて車を走らせていたときに出合った風景からインスピレーションを受けて作ったものなんだとか。ふと見上げると、いつのまにか霧が晴れた山肌に11もの滝が流れる風景が現れて、思わず車を止めてしばし見入ってしまった……という、深くこころに刻まれた旅の思い出が背景にあるようです。つまり,タイトルにある「‘ilikea」(白い肌)は、彼がMoloka‘i島で目にした白いミストに包まれた山肌のことで、そのベールが消えた途端に雨上がりの山々が現れ、驚くべき滝の風景に対面したというわけですね。

 山手のほうに見られる滝の美しさといったらない。
 Hina、Ha*ha*、Mo’oloa……。
 この三つの滝は豊かな緑に包まれて、
 おだやかなKamalo*の土地(そのものって感じ)。

 Nani wale no* na* wailele ‘uka
 ‘O Hina ‘o Ha*ha* ‘o Mo’oloa
 Na* wai ‘ekolu i ka uluwehiwehi
 ‘O Kamalo* i ka ma*lie

 二つ目のバースには、Moloka‘i島の滝の名が挙げられ、それらが「生い茂る緑に囲まれている」(i ka uluwehiwehi)と描写されています。滝のある風景の美しさはもちろんのこと、その豊かな水流のおかげでうるおう大地のみずみずしさが想像されますが、滝の名に女神を連想させるものが含まれていたりするあたり**、命の源としての水が意識されているのかもしれないと思ったりします。
このバースに登場するKamalo*は、島の東部から南側の海沿いを西向きにたどると、島中央に至る手前にあるまち。一方、1番で語られたHonouliwaiは、ちょうど島の北東から南に下った海沿い、つまりKamalo*に至る手前にあるまちで、空港に向かうMoloka‘i最後のドライブが語られていることがうかがえます。そして、その道中で思いがけず出合ったのが、霧が晴れた山肌に連なる滝の風景なわけですが、Kamakahiが思わず車を止めたとき、ほかのドライバー達も同じように山側を見上げていたといい、地元のひとたちも、こんな光景は見たことがないと驚いていたようです。まるで風景が生き物のように感じられる、ダイナミックな自然環境が想像されますが、そうして刻々と変化し続けるのが大自然本来の姿であり、そんな生命に満ち溢れた世界に出合えるのが、Hawai’iのすばらしさなのかもしれません。

 Ha*lawaの地の美しさといったらないんだ。
 旅人たちが訪れ、もてなされる家のような場所で、
 夕暮れ時にはしっとりと霧にぬれる、緑豊かな土地でもある。
 Ho’oluaの風が(ここちよさを)運んできたりとか……。

 Nani wale no* ka ‘a*ina Ha*lawa
 Home ho’okipa a ka malihini
 ‘A*ina uluwehi i ka noe ahiahi
 Ua lawe mai ka makani Ho’olua

 ここに登場するHa*lawaは、Moloka’i島の最東端に位置するまち。そこが「旅人が訪れる家(のような場所)」(home ho’okipa a ka malihini)とされることから、Kamakahiが訪ねた彼のいとこの家が、そこにあったのではないかと考えられます。ちなみに、西側から南の海沿いをたどる道路は、島の北東にあるこのHa*lawa渓谷が行き止まり。その先には、Moloka'i島の聖地、Lanika*ula伝説でも知られるkukuiの林があったりするのですが、車ではこの林を越えて島の北側に行くことはできないようです。そんな、O’ahuでは考えられないMoloka'i島の暮らしは、Kamakahiにとっても新鮮に感じられることが多かったのではないか……なんてことを思うにつけ、しっとりと夜露にぬれはじめ(i ka noe ahiahi)、ここちよい風が吹く夕暮れ時のゆったりした気分が、「緑生い茂る大地」(‘a*ina uluwehi)を背景にしっかりと脳裏に刻まれた、そんな特別なMoloka'iの旅だったのではないかと想像されます***。
 山が自分に向かって歌いかけている……作者であるKamakahiは、滝をみながらたたずんだその場所で、その山からメロディが聞こえてくるように感じたといい、そんな経験は、後にも先にもなかったと語っているようです。そして、その得もいれぬ美しい風景を「wahine」(女性)と表現したのは、山である彼女が、自分がいとしく思うひとに対して、精いっぱいその美しさを見せていると感じたからでもあるといいます。ダイナミックな風景に圧倒されながら、それとの豊かな対話のもとでことばが紡がれたことがうかがえるとともに、大地に女性的なものを見出し神になぞらえるこのまなざしが、古来のハワイの信仰に広くみられるものでもあることに驚かされる『Wa*hine ‘Ilikea』****。風景を語り、それとの交流のなかで生まれるのがハワイの神々であることを、あらためて考えさせられた一曲でした。

by Dennis David Kahekilimamaoikalanikeha Kamakahi

*:Pua kalaunu(crown flower)は,熱帯に分布するガガイモ科の常緑低木の一種。花は紫や白。外来種として持ち込まれたものが、leiの素材として用いられるようになり,Lili’uokalani女王などの王族にも好まれたことで知られる。
**:ハワイの島々の誕生を語る神話のなかで,Moloka’i島の母とされるのが,Hina-nui-a(ka)lana。Hinaは、四大神Ku*のパートナー的に語られたり、ハワイの創世神話、『Kumulipo』ではWakeaやPapaの物語にも登場しもす(Papaが去ったあとにWakeaが妻にするのがHina)。Ha*ha*は不明ですが、Mo’oloaのネーミングは、神々にルーツがある血筋を後世に伝えようとする文脈において、信仰の対象とされる大トカゲを思わせます。大トカゲをめぐる女神信仰についてはこちら。
ハワイ語のはなし119  http://archives.mag2.com/0001252276/20160101123649000.html
***:いまも50年前のハワイの暮らしがみられたりすることもMoloka'i島の特徴で、人口は約7,400人(2000年の統計)と少ないながら、Ni'ihau島に次いでネイティブハワイアンの血を引くひとの割合が高い島でもあります。ちなみにMoloka’i島は、Maui島の北西側に位置する、ハワイで5番目の大きさの島。東西方向に38マイル、南北に10マイルという細長い印象の島で、261平方マイル(670平方キロメートル)という広さはほぼ琵琶湖の大きさにあたり、淡路島よりひとまわり小さい島をイメージしてもよさそうです。おおむね西側半分に雨が少ない乾燥地、東側に雨が多く緑豊かな土地が広がっています。
****:ハワイの伝統的な自然観のあらわれともいえる、ハワイの創世神話『Kumulipo』には、ハワイの民族的なルーツが、深い海の底のような闇にまでさかのぼって語られていますが、なかでも人間と自然との関係がよくうかがえるのが、天なるWakeaと母なる大地Papaが登場し、植物のKaloの誕生と、それに続いて同じ両親から人間が生まれたと語られるくだり。人間の栄養となるKalo(タロイモ)と人間とをつなぐ、まるで家族のように親密な絆が感じられるストーリーです。大地を女性になぞらえる語りは、火山活動が大地を生み出す一連の自然の営みを、女神Peleの物語として語るまなざしとも共通しています。

参考文献
1)Kanahele GS: Hawaiian music & Musicians-an encyclopedic history. Honolulu, Mutual Publishing, 2012, pp866-867
2)McMahon R: Adventuring in Hawai'i. Honolulu, University of Hawaii Press, 2003, pp191-215
3)Beckwith M: Hawaiian mythology. Honolulu, University of Hawaii Press, 1970, pp2-30, pp110-111, pp217-219
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。