Ka Malanai Song

Ka Malanai Song





https://www.youtube.com/watch?v=Y_Gqa_0KY-8


 探し求めるのは、遠い(手の届かないところにいる)ひとのこと。
 あの森の茂みのなかに(いるはずで)、
 私がずっと大切に思っている……
 そう、このひんやりとした闇に包まれて(いるそのひとのことを)。

 Ki'ina ku'u hoa i ka lipo
 Uluwehiwehi o ia nahele
 I hoa ku*wili ho'i no'u
 No nei po* anuanu

 陽の光の届かない、うっそうと生い茂る森の奥深く。夢のような気分でその静けさのなかに迷い込み、いまここにいない誰かの面影を探し求めている……そんなうつろな空気感と、いとしさに満たされた一途な思いが伝わってくる『Ka Malanai Song』。ひんやりとひとけのない森の情景に、熱い恋心が重ねられる独特の歌詞は、「Na Lani 'Eha」*のひとりとして名高い王族、Prince Leleio*hokuによるもの。ハワイ語で語られる世界にまだリアリティがあったと思われるころの作品だけに、ことば遣いに若干、ピントこないとこころもありますが、神聖な森という、安易に足を踏み入れることが許されない領域に、なにか崇高な価値が見いだされていることだけは、じんわり伝わってくるように思われます。

 あなたこそ、私が大切に思うひと。
 Malanaiの風がやさしく包んでいる(あなた)。
 熱い衝動をともなうこの思いは、
 (まるで)すずしげな森を思わせる香りがやってくる(ときのあの気分のように、この胸をざわつかせるのです)。

 (Hui)
 'O 'oe no* ku'u ipo aloha
 A ka Malanai e hi'ipoi nei
 Hu'ihu'i wale ke aloha
 Ka hikina mai anuhea

 「あなたこそが」('o 'oe no*)と、ここではかなり強い仕方で、「いとしいひと」(ku'u ipo aloha)への思いが表明されています。そして、その誰かは、Malanaiの風が(a ka Malanai)「愛撫している」(e hi'ipoi nei)と、臨場感たっぷりに歌い上げられているわけですね。Malanaiは、辞書によると、Ko*loa(Kaua’i島), Ha*na(Maui島)、Kailua(O’ahu島)に吹くそよ風の名前。というわけで、この歌詞からは場所を特定できないのですが、(ある事情から)あえてそのような表現にした、たとえば、誰もが感情移入できることが目指されたからかもしれませんし、ひょっとすると、当時はいわずもがなの、誰もがそれとわかる情事が歌われていたのかもしれません。そのあたりは想像するほかありませんが、1番に登場した森のひんやりした空気に引き続き、ここでも「森を思わせるかぐわしい空気がやってくること」(ka hikina mai anuhea)とあり、風の名がタイトルに掲げられていることからしても、この風の描写が歌の核心部分である可能性がありそうです。いとしいひとの気配を探し求めてやまないMalanaiの風。いつ訪れるやも知れぬその風に託すしかなかった切ない恋心は、時代を超えて新たなコンポーザーに見いだされ、新しいメロディにのって届けられた……『Ka Malanai Song』は、そんなメレではないかと思われます**。

 どうか思い出して応えてくれないか。
 愛に包まれてともに過ごしたい……。
 このさびしい胸のうちを温めて、
 こころのひだをふるわせてくれたら……。

 E maliu mai 'oe e ha*li'a
 E walea maila i ka 'ohu
 I mehana nei p'uwai anu
 Kapalili hakuko'i i ka lihi

 「どうか応えてほしい」(e maliu mai 'oe)……と歌われるところから察するに、この愛の対象は、すぐに胸のなかに飛び込んでくるような存在ではないようです。と同時に、「思い出して」(e ha*li'a)ともあるので、まったく関係がないわけでもなさそうですね。ともあれ、いまは「冷えきったこころ」(p'uwai anu)を、なんとか暖めてくれないかと懇願している、そんなところでしょうか。

 あなたこそ、尽きせぬ思いが求めるひと。
 私がいつも夢にみて、
 静けさに満ちた明るい月夜の晩に、
 あの山手の闇の中で結ばれる……。

 Me 'oe ka 'i'ini pau 'ole
 A'u e dream mau nei
 I ka po* mahina la'ila'i
 I hoa no ia uka lipo

 「ぼくの尽きせぬ思い」(ka 'i'ini pau 'ole)は、あなたとともにある(me 'oe)……ここでは、繰り返されるhuiのテンションにも負けぬ激しさで、いとしいひとを求める思いが語られています。「いつも夢に見て」(a'u e dream mau nei)とさりげなく英語が用いられているところは、作者の教養や卓越した才能を示すとともに、Leleio*hokuの時代ならではの、ちょっと粋な表現だったのかもしれません。そしてここでも、恋の舞台は「山手の闇」(uka lipo)とされ、木立生い茂る深い闇のイメージが、この作品に描写される心象風景そのものであることがうかがわれます。

 不意におとずれたのは立ち込める霧(の風景)。
 それはPu'uleneの風がもたらしたもの。
 さぁ、早くきて一緒になりたい。
 そばにいてほしい、大切なあなたと……。

 Noenoe ka hikina 'ana mai
 A ka makani Pu'ulene
 Ho'olale mai ana e pili
 Me ku'u hoa i ke alo

 このバースには、Pu'uleneの風がもたらす「霧のおとずれ」(noenoe ka hikina 'ana mai)のあと、「さぁ、早く来て一緒になろう」(ho'olale mai ana e pili)と恋人をうながすようなフレーズが続き、先の「すずしい森を感じさせる風」(ka hikina mai anuhea)同様、霧が立ち込める風景(noenoe)もまた、愛し合う行為を暗示することばであることがわかります。「早く来て」(ho'olale mai ana)の部分には、結ばれる(e pili)その瞬間が待ち遠しくて仕方ない……そんな感じもありますね。
 霧をもたらすとされるPu'ulenaは、辞書によるとHawai'i島のKi*laueaやPuna地域に吹く冷たい風のこと。霧が登場するのはこのバースだけですが、山手のすずしい空気に包まれた空間が、徹底して非日常的な思いにふける甘美なイメージでとらえられていることがわかります。というかもしかすると、夜更けの森は、恋人たちが人目を忍んで逢ったりする場所でもあったのでしょうか……。実際のところはわかりませんが、先のバースにあったフレーズも、「静けさに満ちた明るい月夜の晩に」(i ka po* mahina la'ila'i)、「月明りだけをたよりに、山手の闇の中で寄り添う二人」(i hoa no ia uka lipo)なんて想像をふくらませると、まるで映画のワンシーンをみるような雰囲気もあります。こんなふうにたどってみると、まるで恋愛小説のハイライトが、ぎゅっと凝縮されているようにも思えてくる『Ka Malanai Song』。フィクションなのかどうかはともかく、当時流行りのことばが散りばめられた、(いま風に言えば)クールなラブソングだったのではないかと想像しています。

Prince Wm P Leleio*hoku/music by Kamakoa Lindsey Asing

*:コンポーザーとして19世紀に活躍した4人の王族を指すことば。
**:『Ka Malanai Song』をアルバム『Makawalu』に収めているNapua Greigによると、ビショップミュージアムのアーカイブで見つけたLeleio*hokuの詩に、彼女のいとこがメロデイを付けて誕生したのがこの楽曲のようです。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。