Ki*hei

Ki*hei





https://www.youtube.com/watch?v=qZxh7bpKvU4


 名高いあの土地のことを思い起こしている。
 Ki*heiの美しい風景を。
 温かい気持ちで迎えられたようなすばらしさ。
 Ki*heiの心地よさに(包まれたら最高さ)。

 Kaulana mai nei e* kou inoa la*
 Ka nani a’o Ki*hei
 Ka nani ho’okipa me ke aloha la*
 I ka ‘olu a’o Ki*hei

 忘れがたく記憶にとどめられた旅の風景が、その道中のはずむ気分のままに歌われているような、晴れやかな印象がある『Ki*hei』。素朴でかざらない雰囲気に思わず引き込まれてしまいますが、「温かい気持ちで迎えられ」(ho’okipa me ke aloha)、「心地よさに包まれた」(i ka ‘olu)と描写されるその土地のすばらしさが、その場の臨場感とともに語られていきます。

 さぁ、私はいまここにいる。
 Ki*heiの美しさ(を目の前にして)。
 そう、あのKi*heiが視界に広がる場所だよ。
 Waiakoaも見渡せたりしてね。

 Eia au ke noho aku nei la*
 Ka nani a’o Ki*hei
 Ma Ki*hei aku nei no* au la*
 ‘Ike ‘ia a’o Waiakoa

 ヒョウタンのような形をしたMaui島の、ちょうど南側のくびれに位置するKi*heiは、Ulupalakuaから北向きにまっすぐ18キロメートルにわたって続く海岸線が、Ma*’alaea湾方向に弧を描きはじめるあたりにあるまち。標高約3千メートル超のHaleakala*の頂上から、南西方向に連なる尾根を背にする地域ですが、海沿いのKi*heiに至るまで、同じ尾根を背にする南側の急斜面とは対照的な、比較的ゆるやかなスロープが続いています。年間降雨量が30センチメートルにも満たず、しかも雨期の11月から4月に限られるという乾いた土地で、その分、太陽の日差しに恵まれていたりする自然環境も、この歌の明るく曇りのない感じにあらわれているのかもしれません。
 このバースでは、「さぁ、私は(Ki*heiに)いる」(eia au)という勢いのある表現に続き、視界の広がりを感じさせる「aku nei la*」が繰り返されています。このあとに続くWaiakoaという地名が、海沿いに位置するKi*heiから山側に続く谷沿いの地域であることから考えると、作者の視線は海から山に至る空間の広がりに向かっているものと思われます**。

 その美しい場所の心地よさにうっとりしている。
 Ki*heiのあまりの美しさにね。
 海辺にいると聞こえてくる波のささやき(もステキ)。
 (それも)Ki*heiのすばらしさかな。

 Nanea i ka ‘olu a’o ia kaha la*
 Ka nani a’o Ki*hei
 Ke kai nehe mai i ka ‘ae one la*
 Ka nani a’o Ki*hei

 前のバースでは山側の景色を見わたしたときの感動が語られていましたが、ここでは同じ「Ki*heiの美しさ」(ka nani a’o Ki*hei)が、「ささやくような波のささやき」(ke kai nehe mai)のなかに捉えられています。ここでは語られていませんが、南西方向に開かれた海沿いにあるKi*heiは、遠く海側に目をやると、La*na’i島やKaho’olawe島が見えるロケーションにあります。それほど近くに位置するこれらの島々は、かつて海水面が今より低かった時代には、なんとMaui島と地続きだったんだとか。逆に海水面が高かった時代のKi*heiは海底に沈んでいたようで、標高15メートルのあたりにまでみられる海洋堆積物が、当時の状況を物語っています。そんな、人間の物差しをはるかに超えた時間の流れを思いながら、Ki*heiの地で体感されるMaui島は、地図で俯瞰するそれとはかなり印象が異なるのではないか……なんてことを想像したりします。

 心を込めて、もう一度感じとってみて。
 Ki*heiの美しさに心動かされたこの思いを。
 (土地の)ひとびとがそこで魚を釣っていたりして。
 (そんな)島の暮らしがそこにあるんだ。

 Ha’ina ka puana me ke aloha la*
 Ka nani a’o Ki*hei
 Na* ka*naka la* e lawai’a ana la*
 Eia ke loa’a mai

 さぁ、もう一度歌うよ。
 Ki*heiの美しさを伝えるために。
 そのたぐいまれな素晴らしさは、どんなことばでも語り尽くせない。
  (それほど)Ki*heiは美しいところなんだ。

 Ha’ina hou ‘ia mai ka puana la*
 Ka nani a’o Ki*hei
 Kaena a’e no* au ‘o ka ‘oi la*
 Ka nani a’o Ki*hei

 Maui島のなかでも早くから観光地化され始めたことから、近年になって計画的に開発されたリゾート地にはない、自然発生的な印象があるというKi*hei。かつてはお金持ちに好まれたエリアだったようですが、現在は庶民が日光浴に訪れるような、飾らないビーチでもあります。その一方で、ウィンドサーフィン初心者には最適な条件がそろっており、風や波の変化がヨットセーリングにも好まれるようです。
 そんなKi*heiですが、この歌の作者のまなざしは、どちらかというとそういった一般的な観光には向けられていないような気がします。そして、そのことを決定づけているように思うのが、最後に「魚釣りをしているひとびと」(na* ka*naka la* e lawai’a ana la*)が登場するあたり。働く漁師を目にしたのではないにしても、作者のこころを捉えたKi*heiのすばらしさは、自然との共生のなかで営まれる、地に足のついたひとびとの暮らしだったのではないかと……。そんなことを考えながら、「Ki*heiの美しさ」(ka nani a’o Ki*hei)として語られている風物の向こう側に、ハワイに生きるひとびとが大切にしている、もう一つの風景があるような気がしています。

by Kai Davis

*:「Aku nei la*」の「aku」は話者から投げかけられる視線、「la*」は視線の向こうに広がる空間がそれぞれ感じられることば。
**:海から山に向かう帯状のエリアを生活圏として意識する仕方は、ハワイ古来の空間認識の名残でもあります。

参考文献
1)Kyselka Will, Lanterman R: Maui-How It Came To Be. Honolulu, University of Hawaii Press, 1980, p121, p148, p189
2)McMahon R: Adventuring in Hawaii. Honolulu, University of Hawaii Press, 2003
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。