Pua Lei Aloha

Pua Lei Aloha





https://www.youtube.com/watch?v=fy8ByLtvOaA


 僕の大切なひとは深い思いを秘めていて、
 花のようで、愛が込められたレイのようなひと。
 (それは)マイレとともに編まれて、
 僕のこころ(の友といってもいい存在なんだ)。

 Ho‘oheno ku‘u ipo
 Ku‘u pua ku‘u lei aloha
 I haku‘ia me ka maile
 O ku‘u pu‘uwai

 美しく響くあまいメロディから、「Ku‘u pua」「ku‘u lei」と歌われるあるひとへの、熱烈な思いが切々と伝わってくる『Pua Lei Aloha』。冒頭の「ku‘u ipo」から恋人を連想してしまうと、そこで想像力がストップしてしまうのですが、もう少しイメージを膨らませるために、まずはmeleの作者およびその主人公のことをたどってみたいと思います。
 タイトルに「pua lei aloha」(文字通りの意味は「愛すべきleiに編まれた花」)が掲げられ、美しくかぐわしい花を「’oe」(あなた)にたとえながら、その花をめでることばが重ねられるこのmele。実は、「Pualeialoha」という名の女性のことが歌われているようです。そのひと、Alice Pualeialoha Davis Fredlund(1920-1992)は、夫のWillliam Bell Fredlundとともに、1944年にBell Records(ワイキキを拠点とするレコードレーベル)を設立。1950年ごろまで、多くのハワイアンミュージックのレコードを世に送り出しました。その過程で、レーベルに関わるミュージシャンが共同出資するようになりますが、『Pua Lei Aloha』の作者、Bill Ali’iloa Lincolnもそのひとり。ということは、Bill LincolnにとってのPualeialohaは、所属する組織のボス的存在だったかもしれませんし、少なくとも、ミュージシャンとしての歩みをともにする、重要なポジションにある人物だったと思われます。
 そう考えると、「ku‘u pua, ku‘u lei aloha」(私の大切な花、いとおしい僕のlei)と「ku’u」が繰り返されるところも、「好き」といったのでは足りない、深い思いが込められているのではないかという気がしてきます。たとえば、このあとに続く「(その花が)マイレとともに編まれ」(i haku‘ia me ka maile)、さらにそのマイレが「私の思いの奥深くにある」(o ku‘u pu‘uwai)とされるのも、からみあうそのleiの形状が、二人の並々ならぬ絆の深さを物語るものだったりするかもしれないな、と……。

 ホントにあなたはみずみずしい美しさで、
 (あふれる)泉の妖精(みたいなんだ)。
 いまをさかりと咲き誇る花が、
 かぐわしい香りをはなつように……。

 Ka u‘i no* ‘oe
 ‘O ka pu‘unawai
 A he pua i mohala
 Me ke ‘ala onaona

 若々しい美しさを思わせる「ka u'i」、あふれる命そのものを感じさせる「ka pu'uwai」(泉)……そんなみずみずしい存在であるとされるそのひとは、いまをさかりと咲く花(he pua i mohala)であるとともに、かぐわしさに包まれている(me ke ‘ala onaona)とも語られます。いろんなイメージのふくらませ方ができそうですが、目には見えないけれども強烈にその存在を感じさせるのが香りであることから、当時のワイキキの音楽シーンにおける彼女の存在感がそこに重ねあわされている、といった見方もできるかもしれません。あるいは、絶えることなくあふれる「泉」(ka pu'uwai)を連想しながら、彼女の知性や周囲への心配り、みたいなものを思い描いてみたりとか……。

 僕のかけがえのないひとは、香るように魅力的。
 そう、その花の美しさ(がそんな気持ちにさせるんだ)。
 きみのとろけるような声といったら、
 僕を誘ってやまない思いを感じさせるよう。

 Onaona ku‘u maka
 I ka nani o ia pua
 ‘O kou leo nahenahe
 Ke aloha e ma*liu mai

 その花の美しさこそが、大切なそのひと(ku’u maka)の魅力を引き出している(onaona)……彼女のことがときに花(ku’u pua)、ときにレイ(ku’u lei)にたとえられていて多少混乱しますが、ここでは、彼女の全体像を象徴するのがサークルを描くレイで、その構成要素が「その花」(o ia pua)とされる個々の花、そこに重ね合わされているのは彼女の才能や魅力の数々ではないか、と考えてみました。そうすると、「‘o kou leo nahenahe」(あなたのステキな声)とは、自らもミュージシャンとして活躍したAlice Pualeialohaの歌声という解釈もあり得ますし、そのメッセージが「こちらを誘ってくる」(e ma*liu mai)される箇所も、Billの演奏にあわせて彼女が歌うといったライブの現場で、音楽による二人の絶妙な掛け合いが展開されているような、そんな場面のことが語られている可能性もありそうです*。

 ねぇ、答えて、僕のお姫さま……。
 花のようなきみ、愛をつむいだレイのようなひと。
 親密な交わりのために編まれたレイ。
 (それは)僕の深い思いとともにある。
 
 E o* mai ku‘u lani
 Ku‘u pua ku‘u lei aloha
 No ka welina i haku ‘ia
 Me ke aloha o ku‘u pu‘uwai

 ここまでPualeialohaに対する思いが語られてきたわけですが、最後にそのメッセージに対する応答を「e o* mai」(答えてください)と求めながら、「ku’u lani」**と持ち上げているあたりに、彼女に対する尊敬のまなざしや、ほどよい距離感のようなものが感じられる気がします。そして、そんな二人の間の「親密なあいさつ」(ka welina)のごとく交わされるメッセージは、やはり、一緒にステージをつくり上げていくときの、音楽による愛の交換ではないかと考えられます。思いが編み込まれたレイは、ことばの連なりである歌の象徴であり、それを全身全霊でもって歌う彼女の存在そのものでもある……そんなハワイ語の修辞がふんだんにちりばめられた『Pua Lei Aloha』。長く歌い継がれてきたのもなるほどと思わせる、宝石のように美しいmeleでした。

by Bill Ali'i loa Lincoln
 
*:Alice Pualeialoha は、1950年代の終わり頃には自らもミュージシャンとしても活躍しており、女性のトリオバンド「The Halekulani Girls」のリーダーとして、ギター&ボーカルを担当。
**:「Ka lani」は、「天、空」といった意味で用いられるとともに、比喩的にはひとの上に立つひと、見上げたくなるようにすばらしいひとをたとえることばでもあります。古代のハワイでは、従者が仕える対象(chief、ハワイ語で「ali'i」)を呼ぶときのことばでもあったことから、親しみを込めて「お姫さま」と訳してみました。

*作者Bill Ali’iloa Lincolnについて*
 ハワイ島、ノースコハラ出身、1911年生まれ、1989年ホノルルで死去。美しいファルセットボイスが評価されたボーカリストで、ウクレレ、ギター、ベースにピアノも演奏し、フラ、ウクレレ、ギターの先生でもあり、スタジオミュージシャンやライブ等で活躍。

参考文献
1)Kanahele GS: Hawaiian Music & Musicians-An Encyclopedic History. Honolulu, Mutual Publishing, 2012, pp507-509


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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。