『ハワイ語のはなし』(不定冠詞「he」について)


「He」ってなんだろう?




ハワイ語の定冠詞「ka/ke」と不定冠詞「he」の違いを例文で解説したミニ講座です。
「ハワイ語の話196」と合わせてぜひご覧ください。




ハワイ語のはなし196(2019年4月配信)


 文頭で用いられることが多く、文中にくる用例は「まれなケース」と説明されたりもする、不定冠詞「he」。実際には文中でみかけることも結構あるのですが、今回は、そんな不定冠詞「he」を含む例文をたどりながら、定冠詞「ka」「ke」にはない「he」のニュアンスを探ってみたいと思います。


●「これはなに?」とともにある「he」

 不定冠詞「he」といえば、キホン文型の文頭にくるという解説とともに、ハワイ語の教科書にまず登場することば。典型的な例文を挙げてみると……

1)He ka’a ke*la.  車(です)/あれ(は)  
あれは車です。

※ke ka’a(車)、ke*la(あれ)

 「車/あれ」と日本語の語順と異なる点がなによりハワイ語的ですが、「~は」とか「~です」といった、文を整えることばがないのもハワイ語の特徴。それにしても、「あれは車です」といきなり言われるとかなり唐突な印象がありますが、この文のニュアンスは、「he」に「~の種類の」という意味合いがあることから理解する必要があります。たとえば、遠くからなにかが近づいてきて、目をこらしてみるけれどもその正体がわからないとします。動物だろうか?なにかの乗り物だろうか?と思いめぐらせているうちに、それが動物でもバイクでもなく「車(という種類のもの)」であることがわかった……そんな感じです。そう、なにより対象を「he aha~?」(~はなんですか?)と問うときの答えとしてあるのが、「he」ではじまる文に含まれる感じなわけですね。
 この「he」ではじまる文をよくみかけるのが、特定のキャラクターを主人公とする物語の冒頭部分。たとえば……

2)He wahine u’i ‘o Ha*mamalau.  
Ha*mamalauは美しい女性でした。

※ka wahine(女性)、u’i(美しい)


3)He ka’ao ke*ia no kekahi wahine u’i, ‘o Ha*mamalau.

 これはある美しい女性、Ha*mamalauについての物語です。

※ke ka’ao(物語)、ke*ia(これ)、no(~についての)、kekahi(ある~)

 2)は、主人公Ha*mamalauを紹介する物語の導入部分。女性か男性か、人間か動物か……といった数ある選択肢のなかから、主人公として女性(という種類)の存在が選ばれたというニュアンスが、「he」のところに含まれています。問い(he aha~?)とともにあるという意味では、「どんな物語がはじまるんだろう?」という、読者の思いへの応答でもあります。一方、2)を「he ka’ao」(物語)を使って書き換えた3)では、「kekahi wahine u’i」(ある美しい女性)の部分が、2)の「he wahine u’i」とほぼ同じ意味で用いられています。
 「kekahi」は、定冠詞「ka」「ke」と同じように名詞をある程度限定するとともに、対象を「ある~」と漠然と指し示す「he」に近い意味合いもあることば。そのため、定冠詞と不定冠詞のどちらを使えばいいか迷ったら、とりあえず「kekahi」でOK!という、カメレオン的な便利さを備えたことばでもあります。もっとも、3)で「kekahi」が用いられているのは別の事情からで、「no」(~について)の後ろに「he」が使えないのがその理由。後ろに不定冠詞「he」が続かないことばには、「no」のほかにも「na」(~によって)、「i」(目的、時間、場所、原因などをあらわす)、「k-」ではじまる所有形*、「~の」という意味の「a」「o」など結構あります。文中で「he」をみかけることが少ないのはそのためでもありますが、道具や手段をあらわす「me」の後に「he」を使うのはOK。例外的な用法として記憶しておきましょう。


●「he」を「’o」とセットで理解する

 文頭に置かれることが多いことばには、「he」のほかにも主格マーカーと呼ばれたりする「’o」があります。「’o」も「he」と同様に、積極的な意味をもつというよりは微妙なニュアンスを表現することばだったりしますが、以下、両者の使い方を比べながら、それぞれの働きを確認してみたいと思います。まず、「he」ではじまる文を挙げてみると……

4)He kumu au.  私は先生です。

※ke kumu(先生)、au(私)

 いたってシンプルな文ですが、この文の「he」に含まれる「~の種類の」というニュアンスを補うとすると、「私は(生徒ではなく、事務員でもなく)先生です」みたいな感じでしょうか。前提として、「あなたは(学校で)どんな立場のひとですか?」といった文脈があるわけですが、この文を、「誰が先生ですか?」という問いに対する答えとして書き換えると、次のようになります。

5)’O au ke kumu.  
(話題になっている)先生は私です。

 思い起こしておきたいのは、ハワイ語では「大事なことを先にいう」傾向があること。「誰が?」と問われているわけですから、その答えである「au」(私)が文頭にくるのは自然なわけですね。ここで用いられている「’o」は、「au」を文頭に導くべく用いられていることば。そして、「au」の移動は強調のためであることから、この場合の「’o」を強調の印であると理解することもできます。
 さらに、同じ要領で5)の「ke kumu」を強調してみると次のようになります。

6)‘O ke kumu au.  私は先生なんですよ。

 これはたとえば、あまりに先生扱いされなくて頭にきた……みたいな感じでしょうか。4)と比べると、自分が先生であることを伝えなければ!という、ちょっと前のめりなものを感じる表現ではあります。4)と6)の勢いの違いを確認したところで、6)の「au」を固有名に置き換えてみます。

7)‘O ke kumu ‘o Nani.  
Naniさんは先生なんですよ。

 「’o」が二つも続いていて混乱しそうですが、この文でどちらが主語であるかを判断する手がかりは、「述語」(~である)のあとに「主語」(~は)がくるという、ハワイ語の基本的な並びのルールということになります。普通名詞や代名詞ではなく、固有名(ここでは「Nani」)が主語になると、6)のように「’o」が用いられますが、主語だからといって必ず「’o」を使うわけではないということを、まずは理解する必要がありますね。


●「he」と相性がいい用例

 最後に、意味的に「he」を用いても違和感がないというか、「he」と比較的相性がいい文型を挙げてみます。

8)Aia he pa*’ina ma kona hale.

 彼の家でパーティがあります。

※aia(~がある)、ka pa*’ina(パーティ)、ma(~で、場所)、kona hale(彼の家)

 なにかが「ある」(存在する)ことを表現するのが、この「aia」ではじまる文型です。存在するなにかは「aia」のあとに続き、7)では「he pa*’ina」と不定冠詞が用いられていますが、文脈によっては定冠詞を使って「ka pa*’ina」となり、若干、意味合いが違ってきます。細かい話ですが、7)のように不定冠詞「he」を用いると、「(そういえば)彼の家でパーティがあるんだって」と、パーティのことをはじめて話題にするようなニュアンス。一方、「aia ka pa*’ina~」と定冠詞を使うと、すでに話題になっているパーティについて話している感じになります。
 この「aia」の文でもわかるように、不定冠詞か、定冠詞かという選択は、意味的にどちらがぴったりかで決まってくるところがあり、文中であっても「he」を使うのは間違いではないといえそうです。ただし、「he」が使われているということは、定冠詞「ka」「ke」のときとはニュアンスが異なることは意識したほうがいいかもしれません。たとえば、5)の定冠詞「ke」を不定冠詞「he」に変えてみると……

9)’O au, he kumu.  
私は(何者かというと)先生ですよ。

 「au」のあとにコンマ(,)を入れてみましたが、この場合、ひとつの文というよりは、「’o au」(私はね)と言い切って、「he kumu (au)」(私は先生です)と説明しているような感じがあります。ということは、このときの「he」、一見、文中にあるようで、実は文頭にあるともいえそうですね。そして、それが選ばれている限り、そこになんらしかの意味があると考えるほうが自然です。どちらかというと存在感のない不定冠詞「he」ですが、どうして定冠詞ではないのか?という視点から、小まめにニュアンスを探ってみることをおすすめします。


*:ka’u(私の)、「ko’u」(私の)といった所有形には、「k-」の部分に定冠詞の意味が含まれているため、不定冠詞「he」とともに用いることはできません。


※オキナ(声門閉鎖音)は「'」、カハコー(長音記号)は伸ばす音の後ろに「*」
をつけています。ハワイ語は、とりあえずローマ字読みすることが可能です。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。