『ハワイ語のはなし』(「‘O」について)

ハワイ語のはなし172(2018年4月配信)
 「お!」と言いたくなる感じ


 「私は」というか「私が」というかで、日本語の主語のニュアンスが微妙に違ってくるように、ハワイ語にも、主語に付くなどして、フレーズ全体の意味合いを左右することばがあります。主格マーカー(nominative marker)と呼ばれ、まずは主語の印として説明されることが多い「'o」です。ただし、ハワイ語の主語すべてに「'o」がつくわけではないので、「'o」の役割は主語を記すことであると言ってしまうのは、なにか違うような気もします。今回は、そのあたりを「'o」のさまざまな用例をみながら探ってみたいと思います。


●「'O」がつくのは「ia」とは限らない

 主語につく「'o」といえば、「ua 'ike 'o ia」(彼は見ました/彼は理解しています)といったフレーズで、「彼/彼女」を意味する「ia」とともに用いられるのが代表的なところ。同じ構文でも、「ia」以外の代名詞、たとえば「au」(私)が主語の場合だと「ua 'ike au」(私は見ました/私は理解しています)となり、なぜか「'o」はつきません。ただし、語順が変わると、「ia」以外のことばにも「'o」がつくことがあります。そのあたりを、単語の位置を入れ替えながら、実際に確認してみたいと思います。
 まず、主語(au)に「'o」がつかない文を挙げてみると……

1)Ke ha*'awi nei au i ke*ia ia* 'oe.
     与える      私  を  これ  ~に  あなた

 私は いま、これ を あなた に あげます。

 私(au)が行う動作をあらわすのが「ke ha'awi nei」の部分。この「ke+動詞+nei」について、まずは、いま現在行われている行為をあらわすフレーズであることを押さえておきましょう。これに主語の「au」(私)が続きますが、この基本的な語順では、「au」は主語であっても主格マーカー「'o」が付くことはありません。
次に、「'o」がつく位置に「au」を移動してみます。

2)'O wau ke ha*'awi nei i ke*ia ia* 'oe.
    私     与える     を これ  ~に  あなた

 私が これ を あなた に あげます。

 いきなりな感じで「wau」が登場しましたが、「wau」は1)の「au」と意味的には同じで、「'o」に続く場合に、発音上の都合で用いられるもの*。また、1)と2)とで文全体の意味はそれほど違わないのですが、「wau」が文頭にくる2)では、ほかの誰でもない「私」が与える行為者であることが強調されています。訳が「私は」ではなく「私が」になっているのはそのためで、まず伝えたいことが文頭に置かれるのも、ハワイ語の特徴だったりします。通常は1)のように動詞(ha*'awi)などの述語ではじまる文が多いのですが、それ以外のことばが強調されて文頭に移動するときに、「'o」が付くことがあるというわけです。
 続いて、2)と同じ要領で、1)の文中のほかのことばを強調してみます。

3)'O 'oe ka mea a'u e ha*'awi nei i ke*ia.
あなた    ひと  私の    与える      を これ

 あなたこそ、私が これ を あげる ひとです。
 
 ※「ke ha*'awi nei」が文頭ではなく文中で用いられるときに、「e ha*'awi nei」となります。一方、2)では、語順が変わっても 「ke ha*'awi nei」が用いられているのは、動詞(ke ha*'awi nei)と主語(au)の順番が変わっただけで、文の組み立て(構文)そのものは変わっていないため。

 ここでは、「私」と訳される「au」(wau)ではなく、「私の」(a'u)が用いられています。これは、同じことを言うにもハワイ語と日本語とでは構文(単語の並び方)が根本的に異なるためで、ハワイ語を文字通りたどると「あなたは、ひとです」とまず言ったあと、そのひとがどういうひとなのかを説明することばが「a'u」以下に続いていることがわかります。修飾することばなので「au」(私)ではなく「a'u」(私の)が用いられるわけですが、「ka mea a'u」の「a'u」の位置が変わって「ka+a'u+mea」になると、「ka'u mea」と短くなることも覚えておきましょう。
 「Ke*ia」(これ)を強調する場合も、ここまでと要領は同じです。

4)'O ke*ia ka'u e ha*'awi nei ia* 'oe.
これ   私の    与える      ~に  あなた  

 これこそ 私が あなた に あげる ものです。

 先に「ka mea a'u」が「ka'u mea」になることを確認しましたが、ここではさらに「ひと」「もの」の意味で用いられる「mea」が省略されて、「ka'u」(私の)となっています。「k-」のあるなしという違いはありますが、3)の「a'u」同様、ここでも1)の「au」(私)が所有形(~の)に変わっているわけですね。つい「私の」と訳しそうになりますが、意味的には「だれが」、つまり主語的な意味を担う部分なので、日本語に訳すときは「私が」とするほうがしっくりきます。
 長い例文が続きましたが、「'o」がことばを強調するときに用いられる感じをつかんでいただけたらと思います。


●「’O」に注目することでみえてくるものがある

 最後に、「'o」が用いられる基本的な例文を挙げてみたいと思います。

5)'O wai kou inoa?
    だれ  あなたの 名前

 あなたの 名前は なんですか?

6)'O pua ko'u inoa.
       私の  名前

 私の名前はPuaです。
 
 よく用いられる名前をたずねるときの言い方と、それに対する答えを挙げてみました。いずれも2)~4)で見てきた「’o」で始まる文と構文は同じで、「’o」のあとに核になることばが続いています。
 ただし、Puaのような固有名詞は、主語として用いられる場合は文中に置かれるときも「’o」が付きます。例文を挙げてみると……

7)He kumu 'o Pua.  Puaは先生です。
    先生

 そして、7)のPuaを「ia」(彼女)に変えると「he kumu 'o ia」となります。こういった文中の「’o+固有名詞」や「’o ia」には、文頭にあるときと違って強調の意味はありませんが、「’o」が付くことで、話題のポイントがそこにあることが示されているのではないかと考えられます。というのも、「彼/彼女」の意味で用いられる「ia」に、「’o」が付かない場合もあるからです。たとえば……

8)'O ke kumu no* ia.
    先生       彼

 彼は先生なんです。

 これは、たとえば「(ああ見えても)彼は生徒ではなくて先生なんですよ」と、先生であることを強調するときの言い方です。文法的に「'o ke kumu no* 'o ia」が間違いということもないようですが、彼(ia)の話であることはそれまでの文脈からわかるはずなので「ia」を強調する必要はなく、会話だと「ia」省略されることもあると思われます**。強調されない「ia」といえば、それまでの文脈や特定の事物を受けて「それが……」と続けるときに近い用法もありますね。その場合の「ia」も省略されることが多いのですが、このタイプの「ia」と、強調の「’o」を用いる例文で締めくくりたいと思います。

9)He mea poepoe ka honua nei.
    もの  丸い      大地  (いま、ここ)

 この大地は丸い。

10)'O ka honua nei, he mea poepoe no* ia.
       大地        もの  丸い    それ

 大地といえば、(それは)丸いもの(にほかならない)。

 9)と10)とで意味的に違いはないのですが、10)では「大地」(ka honua)が強調されていること、後半の「no*」に思いが込められているあたりを考慮して、少し感情を込めた訳にしてみました。こんなふうに、直接、訳語にあらわれてこない「’o」ですが、ときに文章の起伏みたいなものを感じ取る手がかりになることがあります。主語であれ、強調であれ、「’o」のところに話のテーマや核の部分があることを、心にとどめていただければと思います。


参考文献
1)Elbert SH, Pukui MK: Hawaiian grammer. Honolulu, University of Hawaii Press, 2001, pp131-133

*:「'O+au」のときの「au」が「wau」になるのは、口の形が丸くなる「o」や「u」に続く場合に、「w」と発音されることが多いため。
**:「’O」が付かない「ia」が「彼/彼女」の意味で用いられるケースが少ない印象があるのは、省略されることが多いためかもしれません。


※オキナ(声門閉鎖音)は「'」、カハコー(長音記号)は伸ばす音の後ろに「*」をつけています。ハワイ語は、とりあえずローマ字読みすることが可能です。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。