『ハワイ語のはなし』(語彙を増やすコツ)

ハワイ語のはなし175(2018年5月配信)
語彙を増やそう!


 ことばは文脈しだいで意味が変わるものですが、よく知っているつもりの単語が思いがけない仕方で使われたりすると、まったくの見当違いでわけがわからなくなる……というのは、ハワイ語に限らず外国語にはままある話。「えっ!こんな意味があるの!?」とビックリすることもしばしばですが、今回はこの驚きでもって語彙を増やすべく、いくつかのハワイ語を取り上げてみたいと思います。


●「Ala」は「道」だけではない

 「Ala Moana boulevard」(アラモアナ通り)に含まれることからもわかるように、「ala」といえばまずは「道」で、「ke ala nui」というと、ちょっと太めの「通り」や「ハイウェイ」を意味します。フラの教室でリーダー格のひとが「アラカイ」(alaka'i)と呼ばれるのも、「仲間の道案内をする(ように導く)」ところからくるものと思われますが、「ala」にはどう考えても道とは関係のない、次のような動詞の意味があったりします。

 E ala e !  起きろ!(立ち上がれ!)

 この場合、文頭の「e」は動詞の前に付いて命令文を作る動詞マーカーで、「ala」が「起きる」という動詞として用いられていることがわかります。一方、先に挙げた「alaka'i」の「-ka'i」は、動詞を作る働きのあることば。つまり、「alaka'i」の「ala」は「道」(ke ala)として意識されていて、「-ka'i」によって「道筋をつける」という動詞が作られているわけですね。


●有名なだけが「kaulana」ではない

 「Kaulana」といえば、大切に思う土地のことが歌われるハワイアンソングによく登場することば。たとえば……

 Kaulana mai nei a’o Ulupalakua.

  Ulupalakuaといえば(思い起こされる)その名高さ。

 こんなふうに、「有名な」とか「名高い」と訳されることが多い「kaulana」ですが、「ものを置くところ」とか「休憩場所」なんて意味もあるので要注意。有名なカフェとかホテルでは休憩してみたいってことなのか!?……いえいえ、ものを置く意味での「kaulana」については、「kau-lana」とわけて考えるとその意味するところがみえてきます。

 kau  (ものを)置く、(なにかが)位置する

 -lana  名詞を作る語尾

 つまり、ある場所に「置く」「とどまる」という行為が名詞化されて、「置き場所」とか「休憩所」みたいな意味になるわけですね。名詞化する語尾といえば、「pili」(結びつく)を「ka pilina」(結びつき)にする「-na」というのもあります。「-na」と「-lana」……よく似ていますが、これらは同じ働きをもったことばなんですね。ぜひ、一緒に覚えておきましょう。
 「Kau」に関していえば、「pa*kaukau」(テーブル)なんてことばもあります。「Pa*」(平たいもの)にものを置く……だからテーブル。これもイメージしやすいことばですね。


●「島」とは限らない「moku」

 Hawai’i島が「moku o Keawe」(Keaweの島)と詩的に表現されることがあるように、「moku」といえば、まずは「島」がイメージされることばではないかと思います。ですが、辞書を引くと「地域」(district)や「森」(forest)なんて訳語が挙がっているうえに、書物の章や節をあらわす「セクション」の意味もあるようです。では、そもそも「moku」とはなんなのかというと……。そう、「moku」には、「切り取られている」(to be cut)*という意味があり、「島」の意味もそこからきているようです。つまり、島であれ地域であれ、さらには書物の世界のある区切られた領域についても、ほかと隔てられているという意味ではすべて「moku」なんですね。
 さらに不思議なのが、ハワイ語では船が「moku」であり、「飛ぶ船」と訳せそうな「mokulele」が「飛行機」のことだったりすること。なんでもその昔、ヨーロッパの帆船がハワイを訪れるようなったころ、沖から近づいてくる大型船が島のようにみえたことからそう呼ばれるようになったんだとか。大洋に囲まれたハワイならではの発想、あるいは世界観みたいなものが感じられることばだと思います。


●方向詞ばかりではない「mai」

 方向詞として出合うことが多い「mai」ですが、実はまったく別の使い方をする「mai」もあります。例文を挙げてみると……

 1)E hele mai ‘oe.  こちらへ来てください。

 2)Mai hele mai ‘oe.  こちらへ来ないでください。

 1)2)とも、動詞「hele」の後ろの「mai」は、「話し手のほうに向かう」意味を持つ方向詞。一方、2)の文頭に置かれている「mai」は「~してはいけない」、英語でいうところの「don't」にあたり、否定の命令文を作ることばです。そして、これと似たことばの並びでも、「mai Hilo mai」は「Hiloのまちからこちらへ」と訳せるフレーズで、先頭の「mai」は「~から」(from)という意味で用いられています。
 もうひとつ、使われる頻度は低いようですが、次のような「mai」もあります。

3)Mai pilikia mai nei la*kou.

     トラブルに巻き込まれる       彼ら

  彼らはほとんどトラブルに巻き込まれそうだった。

 1)2)と同様に、ここでも動詞とともに用いられている「pilikia mai」(トラブルに巻き込まれる)の「mai」は、彼らにトラブルが向かうという意味の方向詞。そして、訳に含まれる「ほとんど~になりそうだった(がならなかった)」という微妙なニュアンスを表現しているのが、文頭の「mai」です。「Mai~mai~」と連なると混乱しそうですが、そういうときには文脈が助けになるはず。また、「~だった」と過去の出来事として訳したのは「mai nei」と続くからですが、この「方向詞+nei」であらわされる過去の表現については、『ハワイ語のはなし174』をご参照ください。


●悩ましいだけが「kaona」ではない

 「Kaona」といえば、何重にもことばに意味を持たせたりするハワイ語の修辞法。ネイティブにしかわからない微妙な表現も多く、辞書を引けばわかるものではないところが悩みの種だったりしますが、案外知られていないと思うのが、「kaona」のもうひとつの意味、「まち」(town)です。

 He kaona nui 'o Honolu*lu*.

   まち 大きい  ホノルル

  ホノルルは大きなまちだ。

 ハワイ語では、「penikala」(鉛筆)や「pepa」(紙)といった、ハワイになかったものについて英語由来のことば(英語をハワイ語風に読んだもの)が用いられていることが結構ありますが、この「まち」(town)という意味の「kaona」もこれにあたります。それにしても、どう読んだら「town」が「kaona」になるの!?って感じですが、おそらく「t」が「k」になり、そのあとに「a」を補って「w」が落ち、最後に「a」で締めくくった……ということではないかと思われます。このやや強引(?)な印象の変換でもって、ハワイ語に新しく追加された「kaona」なのですが……よくよく考えたら不思議ですよね。ハワイ語には「まち」(town)にあたることばがなかったことになりますから……。そして、「なかった」というのはある意味正しくて、欧米の近代的な価値観とともに、古代のハワイにはなかった土地の区画が導入されたことを示すのが「kaona」だったりします**。一方、ハワイ古来の地域区分といえば、海沿いの平地を中心にするのではない、海沿いから山側に至る細長い印象の「ahupua'a」が一般的。土地に根ざした、いまでいうところの地産地消の生活が営まれていたハワイでは、ある地域に暮らすひとびとが、等しく海にも山にもアクセスできたことを示すのが、この「ahupua'a」でもあります。それが「kaona」にとってかわられたということは、ひとびとの生活や共同体(コミュニティ)が根本的に変容したことのあらわれであり、それにともなってひとの動きが制限されるようになったという事実は、まちがいなく政治的な問題をはらんでいたはず。そんな、ハワイの近代史そのものといえそうな「kaona」ということばが、ハワイ古来の価値観そのものである(修辞法としての)「kaona」でもあるとはなんとも皮肉なはなしですが、いずれの「kaona」も、ハワイを知るための重要なキーワードであることだけは確かなようです。


*:この意味での「moku」は「切られた状態である」という状態動詞。
**:「Great Ma*hele」が1848年に発布されるなど、19世紀なかばに始まった土地の個人所有を推進しようとする政策によって、それまでは地域ごとに集団で管理されていた土地は、伝統と切り離されたところで細かく分断されました。その際、さまざまな事情から新しい制度から取り残された多くのネイティブのひとびとが存在し、それまでの生活の場を失ったとされています。


※オキナ(声門閉鎖音)は「'」、カハコー(長音記号)は伸ばす音の後ろに「*」
をつけています。ハワイ語は、とりあえずローマ字読みすることが可能です。


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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。