説明は後ろから、述語は前VIDEO ハワイ語の語順の基本を解説したミニ講座です。「ハワイ語のはなし200」と合わせて ぜひご覧ください。 ハワイ語のはなし200(2019年8月配信) ハワイ語にアプローチするときの手がかりとして、「大事なことは先に」といわれることがよくあります。これとあわせて覚えておきたいのが、「説明は後ろから」というもうひとつの語順ルール。この二つ、実は対になっていて、前に置かれたことばを説明として後ろにもってくる、なんてことができたりもします。今回は、そのあたりのことをたどりながら、ハワイ語の基本文型を確認してみたいと思います。
●説明は後ろから
日本語だと「きれいな花」と前から修飾するところを、ハワイ語では後ろから説明する……慣れないと違和感がありますが、たとえば「ka pua」(花)、「ke keiki」(子ども)にそれぞれ説明することばを添えると次のようになります*。
1)ka pua nani. 美しい花。
2)ke keiki akamai. 利口な子ども。
こんなふうにハワイ語では、名詞を修飾することばをその後ろに置くのが自然な語順。ですが、同じように修飾する働きがあっても、次のようなことばは名詞の前に置かれます。
3)ke*ia pua. この花。
4)ka*u keiki. あなたの子ども。
1)2)と比べると、3)4)ではいずれも定冠詞「ka」「ke」が「ke*ia」「ka*u」と置き換えられていることがわかります。そして、3)4)で定冠詞「ka」「ke」が必要ないのは、「ke*ia」「ka*u」の「k-」の部分に「定冠詞」(ka/ke)の意味合いがあるから。よく用いられるところでは、「ku'u」(私の大切な)あたりも同じ種類のことばで、一般的には定冠詞類と呼ばれます。
見方を変えると、積極的な意味合いはないものの前について名詞であることを印す定冠詞(類)は、「前から限定することば」であるともいえます。たとえば、3)は、話し手が近くにある花を「これ」と指し示したりするときの言い方で、「ka pua」(花)とだけいうよりも、特定の花が意識されていることがわかります。そう考えると、前から限定する定冠詞は、名詞にある種の輪郭を与える働きがあるとも言えそうです**。
●前後を入れ替える
次に、「前後を入れ替えるとどうなるか」をみてみたいのですが、まずは3)4)それぞれに、「nani」(美しい)、「akamai」(利口な)をプラスしてみます。いずれも説明することばなので、位置は後ろからですね。
5)ke*ia pua nani. この美しい花。
6)ka*u keiki akamai. あなたの利口な子ども。
そして、後ろに置いた「説明することば」を前に移動してみると……
7)Nani ke*ia pua. この花は美しいです。
8)Akamai ka*u keiki. あなたの子どもは利口です。
ここで思い出していただきたいのが、「大事なことは先」というハワイ語の語順ルール。7)は花が「美しい」(nani)ことを、8)は子どもが「お利口さん」(akamai)であることを伝えたい文なので、いずれも「nani」「akamai」が前に置かれています。主語(この花)、述語(美しいです)と並んでいる日本語訳とは語順が逆ですが、美しい花を前にして、思わず「きれいね~」と声を上げるときの感覚には近いように思われます。
もうひとつ注目していただきたいのが、位置が変わることで、「nani」「akamai」の訳しかたも変わっていること。たとえば、後ろから説明する6)では「利口な」と訳した「akamai」は、前に置かれた8)では「利口です」と述語になっています。こんなふうに、ものごとの状態をあらわす形容詞的なことばが、語順次第では動詞としても用いられることから、このタイプのことばを文法的に「状態動詞」と呼んだりもします。
●こんな説明も後ろから
状態動詞のように単独で説明することばではありませんが、日本語だと「~の」と訳される「o」ではじまる説明のフレーズも、置かれる位置はやっぱり後ろ。たとえば……
9)ka nani o ka ‘a*ina. 大地の美しさ。
※ka nani(美しさ)、o(~の)、ka ‘a*ina(大地)
「説明は後ろから」ということでとりあえず後ろに置いてみましたが、あることばを補うと、「o ka ‘a*ina」(大地の)を前にもってくることができたりします。そう、前から限定する定冠詞「k-」と合体させるんですね。
10)ko ka ‘a*ina nani. 大地の美しさ。
えっ!?って感じかもしれませんが、「ko」を「k-o」と理解するとわかりやすいでしょうか。後ろにしか置けない説明のフレーズ「o ka ‘a*ina」が、前から限定する「k-」に導かれて前に移動するというわけです。ちなみに、「nani」(美しい)を「美しさ」という名詞にするための定冠詞は、10)では先頭におかれた「ko」に含まれています***。なんだかパズルみたいですが、このあたりの前後感覚がわかってくると、ハワイ語を読み書きする力が格段にアップしそうですね。
●動詞を含む説明も後ろから
ここまで説明することばとして、状態動詞および「~の」と訳される所有形をみてきました。最後に、状態動詞とは違うタイプの動詞、たとえば「行為」(~する)をあらわすことばを用いた「説明するフレーズ」を挙げてみます。
11)ke kanaka i hi*meni. 歌ったひと。
12)ke kanaka e hi*meni. (これから/いつも)歌うひと。
※ke kanaka(ひと)、hi*meni(歌う)
それぞれの訳でなんとなくわかると思いますが、現在を基点に過去にさかのぼるときは「i」、未来に向かうときは「e」が用いられます。さらに、12)の動詞「hi*meni」に持続をあらわす「ana」をプラスすると、次のような意味になります。
13)ke kanaka e hi*meni ana. 歌っているひと/歌っていたひと
こんなふうに「e~ana」は、持続の意味で過去にも現在にも用いられることば。文脈によっては、まだ終わっていない「未完」の意味にもなり、「(これから)歌う」(未来)をあらわす場合もあります。
もうひとつ、「e」ではじまる動詞の説明フレーズに、「e~nei」というのもあります。
14)ke kanaka e hi*meni nei. (いま)歌っているひと
14)の訳に「いま」と入れたのは、「nei」に「いま、ここ」という意味が含まれるから。訳だけだと13)と14)の違いが微妙ですが、訳語を覚えるというよりも、「ana」は「持続」、「nei」は「いま、ここ」というところから、文脈ごとに意味を考えることをおすすめします。
*:定冠詞の使い分けには、「k-」「e-」「a-」「o-」で始まることばには「ke」、それ以外は「ka」というおおまかなルールがあります。
**:定冠詞「ka/ke」が限定することばであるのに対して、不定冠詞「he」には、「~の種類に属する」ことを示す働き、いわゆるカテゴライズの意味合いがあります。たとえば、「ke aloha」だと「愛、恋人、深い思い、共感、やさしさ」といった訳語があてられますが、「he aloha」には「愛というもの、愛すべきひと」といったニュアンスがあります。
***:名詞の前に置かれる定冠詞「ka/ke」は名詞の印でもあることから、「nani」(美しい)に定冠詞が付くと「ka nani」(美しさ)になります。
*お知らせ*
今後のバックナンバーについては、過去のものも含め『隙間のりりーのハワイアンソングブック』にアップしていく予定です。http://hiroesogo.blog.fc2.com/
※オキナ(声門閉鎖音)は「‘」、カハコー(長音記号)は伸ばす音の後ろに「*」をつけています。ハワイ語は、とりあえずローマ字読みすることが可能です。
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