『ハワイ語のはなし』(Alohaからはじめるハワイ(語))

ハワイ語のはなし199(2019年7月配信)
Alohaからはじめるハワイ(語)


 ついあれもこれもと盛りだくさんになってしまう『ハワイ語のはなし』ですが、今回は、「aloha」だけでハワイ語の基礎をざっくりまとめてみたいと思います。
「アロハ」といえば、あいさつのことばとしてあまりにも知られているハワイ語。なので、いまさらアロハ?!と思われるかたもおられるかもしれません。ですが、そんな基本的なことばだけに、実は「aloha」だけでハワイ語文法の基礎からハワイ文化の深いところまでを探る手がかりになるような、ちょっと特別なことばだったりします。
 大きく分けると、「aloha」には名詞と動詞がありますが、それらを区別する手がかりになるのが、名詞の前につく「冠詞」と呼ばれることば。おおむね、冠詞があるときは「名詞」、ないときは「動詞」ですが、まずは2種類ある冠詞の使い分けとともに、名詞の「aloha」についてみてみたいと思います。

●名詞の「aloha


 名詞の「aloha」について説明する前に、名詞の印である冠詞について整理しておきます。名詞の前につく冠詞には、「定冠詞」(ka、ke)と「不定冠詞」(he)があり、それら自身が積極的に訳されることはない一方で、両者には明確な使い分けがあります。
 具体的にそのあたりを「aloha」でみてみると……

1)定冠詞「ka/ke
を使う場合

ke aloha

愛、恋人、深い思い(慈悲、慈愛、共感、やさしさ)

 ※定冠詞の使い分け:k、e、a、oで始まる言葉には「ke

それ以外は「ka」を用いる。

2)不定冠詞「he
を使う場合

he aloha

愛というもの、愛すべきひと

 こんなふうに、両者の違いは微妙なニュアンスの差としかいえないものだったりします。ですが、定冠詞が用いられる「ke aloha」はより具体的な「愛すべきひと」や「愛にまつわる事象」をあらわし、「he aloha」のほうは、表現されている対象の輪郭がややぼんやりしている印象があり、そのあたりを意識して日本語訳をあてています。
 ざっくりいうと、定冠詞「ka/ke」の対象はある程度「輪郭がある」「限定される」、不定冠詞「he」の対象は「漠然としている」ともいえます。そのあたりの使い分けがわかりやすいのが、次のような昔話にでてくる文章です。

 昔々あるところに、「(ある)おばあさん」(he kupunahine)が住んでいました。 
(その)おばあさん(ke kupunahine)は、魔法使いで……

 これから物語が始まろうとする部分ですから、まずは「どんなひとが主人公なのかな?」という読み手の問いがあり、それに対する答えとして、「he kupunahine」(「おばあさん」に分類されるひと)と説明され、そのひとの輪郭がはっきりしてきたところで「ke kupunahine」(そのおばあさん)となるわけです。
 こんなふうに、「問い」と「答え」が対になっている表現に用いられるのが不定冠詞「he」でもあるのですが、すぐ使えそうな例を挙げてみると……

3)He aha ke*la*?  あれはなんですか?

4)He pua ke*la*.   あれは花(という種類のもの)です。

3)で用いられている「aha」は「なに?」「なぜ?」といった疑問文を作ることば。英語の疑問文のように、語順が変わったり助動詞(do、doseなど)を使ったりといったことがないのがうれしいですね。


●動詞の「aloha」

 動詞の「aloha」には、「冠詞が付いていない」のに加えて、「文頭に置かれることが多い」という特徴があります。例文を挙げてみると……

5)Aloha au i ka ‘a*ina .

私は大地を愛する。

※au(私)、ka ‘a*ina(大地)

 このときの「i」は、「~を」と訳され、「aloha」(愛する)という動詞の目的語をあらわしています。こんなふうに、目的語をとる動詞(他動詞)として用いられる「aloha」は「(~を)愛する」と訳されますが、次のように目的語をとらない場合は、ちょっと事情が違ってきます。

6)Aloha ka*kou.

みなさんこんにちは。

 この用例が、よく知られているあいさつの「aloha」で、「ka*kou」が「(3人以上の)私たち」をあらわすことから、大勢に向かって「こんにちは」というときに用いられたりします。この場合の「aloha」には、「愛されている(状態である)」という意味があり、「私たちはお互いに思いを交わし合う」というところから、あいさつのことばになったものと思われます。このあたり、「こんにちは」がなぜあいさつなのか?に通じる不思議を若干感じますが、文法的には、「愛されている(状態である)」という意味の「aloha」は「状態動詞」と呼ばれます。
 状態動詞といわれると構えてしまいますが、次のようなシンプルな文も、この状態動詞が用いられている用例です。

7)Nani ke*ia pua.

この花は美しいです。(This flower is beautiful.)

※nani(美しい)、ke*ia pua(この花)

 次に、この文の前後を入れ替えてみます。

8)Ke*ia pua nani.

この美しい花。(This beautiful flower.)

 前後を入れ替えただけですが、7)では「状態動詞」として「美しい(状態である)」という意味で用いられていた「nani」が、8)では「美しい」という形容詞の働きをしているあたりを訳し分けてみました。また、7)の「~です」の部分は、英語訳でいうと「is」(be動詞)にあたることから、7)のように文頭に置かれるハワイ語の「状態動詞」は、単独で英語のbe動詞の意味をあらわしているともいえます。


●あらためて「aloha」ってなんだろう?

 少し話がそれましたが、最後に「aloha」が意味するところについて考えてみたいと思います。
 日本語にするときは、さしあたって「愛」と訳されることが多い「aloha」。ですが、あいさつのことばが「愛してるよ」ではなんかしっくりきませんし、「aloha」については、ハワイ的価値観の頭文字をつなげたことばだと言われることもあったりします。そう、 ‘Akahai(慎み深さ)、Lo*kahi(連帯)、‘Olu‘olu(やさしさ)、Ha‘aha‘a(謙虚)、Ahonui(忍耐)ですね。「Aloha」が、そう簡単に理解できることばではないことだけは確かなようですが、その手がかりになりそうなエピソードをご紹介したいと思います。
まずはあいさつのことばとして理解されている「aloha」ですが、このことばが「Hello!」「Hi!」といったカジュアルなあいさつとして使われるようになったのは、実は欧米人との関わりがはじまった時代以降のこと。古くから使われていた一般的なあいさつのことばは、「‘ano‘ai
とか「welina
だったようで、「aloha」はあいさつである以上に、まずは相手に敬意を表する、特別なことばだったとされます。
このことを裏付けるのが、次にご紹介する「aloha
にまつわるLili‘uokalani女王のエピソード。1910年、メインランドへの長旅から帰ったきた女王が、港に集まった多くのひとびとに出迎えられたときの話です。「Alo-o-oha
と叫ぶように歓喜のことばを投げかけるひとびとを前に、女王は悲しみと怒りに震えながら、こんなふうに嘆いたといいます。「そんなあいさつはハワイアンのものではない。『alo-o-oha』」はhaole(外国人)のことば」と……。
 このときのLili‘uokalani女王の気持ちを推し量るには、少なくとも、James Cookがハワイにやってきたとされる18世紀末から、20世紀初頭までのハワイの激動の歴史を考え合わせる必要があります。政治的、経済的に欧米化・近代化が進む一方、一部のエリートを除き、多くのネイティブのひとびとが社会の周縁に追いやられてしまったという事実。そればかりか、外来の病原菌が猛威をふるい、100年あまりの間にネイティブ人口が激減してもいました。教育の場からハワイ語が排除されるにいたったという経緯もあり、Lili‘uokalani女王が嘆くほど、ハワイ語を正しく理解し用いるひとが少なくなってしまっていた……そんな状況だったものと考えられます。このLili‘uokalani女王の時代から、さらに100年あまりを経ているわけですから、私たちに「aloha
がピンとこないのも無理はない、といったところですが、「aloha」を「愛」と訳してしまう前に、ぜひ思い起こしたいエピソードではあります。

参考文献
1)Chun MN: No Na Mamo-Traditional and Contemporary Hawaiian Beliefs and Practices. Honolulu, University of Hawaii at Manoa, 2011, pp14-45

*お知らせ*
 今後のバックナンバーについては、過去のものも含め『隙間のりりーのハワイアンソングブック』にアップしていく予定です。http://hiroesogo.blog.fc2.com/
 
※オキナ(声門閉鎖音)は「‘」、カハコー(長音記号)は伸ばす音の後ろに「*」をつけています。ハワイ語は、とりあえずローマ字読みすることが可能です。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。