ハワイ語のはなし194(2019年3月配信)
大事なことからはじめる
大事なことはまずは先に……なんて書くと、よくある仕事術か人生訓みたいですが、これはハワイ語について語られるときにもよく耳にすることば。「何をするか」(動作、行為)や「何であるか」(名前、種類)、あるいは「どのようであるか」(状態)といった、いわゆる述語が先にきて、あとに「誰が」「何が」にあたる主語が続く……という、ハワイ語の語順の基本的なルールの話です。たとえば……
1)Ua hele au. 私は行きました。
※ua(過去に何かが起こったことを印すことば)、hele(行く)、au(私)
2)He hale ’aina ke*ia (mea). この(建物)はレストランです。
※he(不定冠詞)、ka hale ’aina(レストラン)、ke*ia(これ、この)、mea(漠然と「ひと」「ものごと」を表すことばで、省略されることが多い)
ハワイ語にあわせて日本語を並べると、それぞれ1)「行った 私」、2)「レストラン これ」みたいな妙な文になりますが、ともかくまずはこの語順になじむのが、ハワイ語を理解する第一歩みたいなところがあるように思います。
もっとも、なにが大事であるかは話し手の興味のありかによって変わりますし、気分やその場の状況みたいなものにも左右されます。つまり、「何をするか」や「何であるか」以外のことばが強調されて、文頭に置かれることだってあるわけです。今回は、そのあたりのルールを確認しながら、語順によってメッセージのニュアンスが微妙に変化する仕方を探ってみたいと思います。
● 強調の印「’o」
「述語+主語」の語順がキホンであるハワイ語は、もともと述語が強調される傾向にあることばであるといえます。そして、後から続くことが多い主語が前に置かれる場合に用いられるのが、強調の印「’o」です。
たとえば、1)の「au」(私)を強調すると、次のような文になります。
3)’O au i hele. 行ったのは私です。
このとき、1)の文頭にあった「ua」が、3)の文中では「i」に変わり、前に移動した「’o au」の後ろに「i hele」と続いていることに注目してください。そして、次のように「i」が複数用いられる場合には、それぞれの意味の違いにも注意しましょう。
4)’O au i hele i ke kai i ka la* wela.
暑い日に海へ行ったのは私です。
※ke kai(海)、ka la*(太陽、日)、wela(暑い)、i(ここでは名詞が続いて「場所」「時間」をあらわす)
文の後半にある「i ke kai」(海へ)と「i ka la* wela」(暑い日に)は、それぞれひと連なりで意味を持つフレーズ*。強調のために語順を変える際にも、このタイプの連なりはそのまま文頭に移動します。
5)I ka la* wela, ’o au i hele i ke kai.
それは暑い日のこと。私が海に行ったのは。
語順が変わったのに合わせて訳してみましたが、なんとなくストーリー展開を感じさせるところがありますね。こんなふうに、ことばを自由に配置することで伝えたいことを際立たせたり、ことばのリズムを整えたりといったことが、会話文だけでなく物語や歌でも多用されている印象があります。
●「’o」ではじまる文の前後が入れ替わる場合
次に、2)の文の「ke*ia」(これ)を強調してみます**。
6)’O ke*ia (mea) ka hale ’aina.
レストランといえばこの(建物)です。
さらに、6)をもとに「ka hale ’aina」を強調してみると……
7)’O ka hale ’aina ke*ia (mea).
この(建物)はレストランです。
6)と7)に意味的な違いはそれほどありませんが、「’o」で導かれていることばが述語で、あとに主語があることを意識して訳し分けています。こんなふうに、前後を入れ替えてもそれほど意味が変わらないのは、「AはBである」ことをあらわす文の特徴だったりするのですが、次のようなペアーについては少し注意が必要かもしれません。
8)’O Lani ‘oe. あなたはLaniさんです。
9)’O ‘oe 'o Lani. Laniさんといえばあなたのことです。
8)9)はいずれも強調の「’o」ではじまっていますが、9)の後半には「'o Lani」ともうひとつ「’o」が続いています。これは、固有名詞が主語になるときに用いられるもので、主格マーカーと呼ばれることもあることば。ただし、9)に二つ「’o」が用いられていることからもわかるように、「’o」がついているからといって主語とは限らないあたりには注意が必要です。
●「n-所有形」を用いた強調
ハワイ語の所有形というと「ko’u hale」(私の家)なんていうときの「k-所有形」をまず思い浮かべるかたが多いかもしれませんが、ここで取り上げる「n-所有形」は、「k-所有形」の「k-」の部分を「n-」に変えたもの。同じ所有形でも「k-」か「n-」かで意味が変わってくるのですが、まずはざっくりそれぞれの違いをまとめておくと……
・k-所有形
「k-」の部分に定冠詞の意味を含み、「~のものである」ことを指し示す。
・n-所有形
「~によって」「~のおかげで」「~のための」「~について」といった、ある物事に対する誰かの関わり方をあらわす。
「n-所有形」の意味がやたら多くてややこしい印象がありますが、とりあえずここでは、誰かによる具体的な関わりを示す「n-所有形」は、「~の」という所有の意味を強調したいときに用いられることがあると理解してください。
次に、「k-所有形」と比較する仕方で、「n-所有形」による強調と語順の変化を確認してみます。
10)He ka’a hou ko’u (mea).
私は新しい車を持っています(私の持っているものは新しい車です)。
※ke ka’a(車)、hou(新しい)、ko’u(私の)
この文は、たとえば「He aha kou (mea)?」(あなたはなにを持っていますか?/あなたの持っているものはなんですか?)と問われたときの答えです***。誰が持っているか(ここでは「あなた」)についてはすでに了解されており、「なにを持っているか」に焦点があてられることから、「he ka’a hou」(新しい車)が強調されて文頭に置かれるわけです。
一方、「no wai~?」(誰のものですか?)に対する答えだとしたら、大事なことは「誰のもの」になり、少し答え方が変わってきます****。
11)No’u ke ka’a hou.
新しい車を持っているのは私です(新しい車は私のものです)。
※no’u(私のもの)
10)と11)は、私が新しい車を持っているという事実を述べている点では同じですが、10)では所有されているのが「新しい車である」こと、11)では所有者が「私である」ことが、文頭に置くという語順で示されているといえます。また、11)では「no’u」が強調の意味で文頭にありますが、「n-所有形」そのものは文中でも用いられます。
●長い文でもルールは同じ
最後に、主語と述語以外の要素を含む少し長めの文で、語順によって強調する仕方をみてみたいと思います。
12)Ke ho’ouna nei kona makuaka*ne i ke*ia manawa.
※ho’ouna(送る)、kona(彼の)、ka makuaka*ne (父)、i(時間をあらわす「~に」)、ke*ia manawa(いま)、ke+動詞+nei(進行形)
彼の父はいま送っているところです。
この文の「i ke*ia manawa」(いま)の部分を強調すると、次のようになります。
13)I ke*ia manawa e ho’ouna nei kona makuaka*ne.
いままさに彼の父は送っているところです。
文頭にあった「ke」が文中では「e」になっていますが、「i ke*ia manawa」(いま)が強調のために文頭に置かれる以外、あとの語順は12)と同じになっています。
次に、「kona makuaka*ne」(父)を強調してみます。
14)’O kona makuaka*ne ka mea e ho’ouna nei i ke*ia manawa.
いま送っているのは彼の父なんです。
強調される「kona makuaka*ne」(父)が「’o」とともに文頭に置かれるのは、1)で主語の「au」(私)を強調したときと同じ。そして、「ka mea」(ここでは漠然と「ひと」を意味する)が挿入されることで、6)7)のように「’o~」とそれに続く名詞がイコールの関係にある文になっています。もう少し説明すると……
’O kona makuaka*ne ka mea~. ~するひとは彼の父です。
つまり、「彼の父は~なひとなんですよ」と父を強調し、父についての説明が「e ho’ouna nei i ke*ia manawa」(いま送っている)と続いているわけです。
ざっくりまとめると、語順が変わってあることばが文頭に置かれたりするのは、意味を変えるというよりも、ここに注目してほしいという話し手の意識のあらわれで、このことを伝えたいという感動や驚きがそこにあると考えることができます。このあたりは英語にも似たところがありますが、決定的に違うのは、語順が変わることで疑問文を作る英語とは異なり、ハワイ語では前後の入れ替えによって疑問の意味は生じないこと。ではなにかを尋ねたいときはどうするかというと、「~ですか?」という気分でイントネーションを変えるだけ。このあたり、音声をともなわないメルマガでは伝えきれないところですが、声のトーン以上に、相手とのアイコンタクトが重要だったりするのではないか……なんてことを想像しています。
*:いずれも「i」のあとに定冠詞「ka」「ke」があって、名詞が続いていることがわかります。こんなふうに、場所や方向、時間をあらわす「i」は、「ua」が変化した「i」とは異なり後に名詞がくることも記憶しておきましょう。ただし、あとに続く場所が固有名詞である場合は、「i Waiki*ki*」(ワイキキに、ワイキキで)といった具合に冠詞は付きません。
**:この場合、2)の語順を変えるだけで「’o ke*ia he hale ’aina」としても間違いではないのですが、「レストランはこれですか?あれですか?」という問いに対する答えの場合は、「レストラン(という種類のもの)」というニュアンスのある「he hale ’aina」よりも、レストランが話題になっていることを前提とする「ka hale ’aina」とするほうが自然であると考えました。
***:「He aha kou (mea)?」は、直訳すると「あなたのものはなんですか?」。「He aha~?」は「なに?」とたずねるときのフレーズ、「kou」は「あなたの」。
****:「No wai~?」(誰のものですか?)は、「no」(~のための)と「wai」(誰?)を組み合わせたフレーズ。
※オキナ(声門閉鎖音)は「'」、カハコー(長音記号)は伸ばす音の後ろに「*」
をつけています。ハワイ語は、とりあえずローマ字読みすることが可能です。
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