『ハワイ語のはなし』(「Moku」からアプローチするハワイ)


島であり、船でもある「moku」






ときに島、ときに船をあらわすハワイ語の「moku」を、「切る」「切り分ける」という動詞の意味から解説したミニ講座です。
「ハワイ語の話130」と合わせて、ぜひご覧ください。




ハワイ語のはなし130(2016年6月配信)


 「フラダンサーの~」なんて看板に、ほとんど意味がないくらいフラのステージに縁がない私ですが、先日、1年ぶりにステージに立つ機会をいただきました。しかも、会場は日本で一番ハワイに近い場所……といっても関西空港ですが(笑)、ここから世界につながってるんだなぁと思うだけでハレの気分にさせられる、あの空港独特の非日常感だけは存分に楽しめたかなと思います。ちなみに、「空港」にあたるハワイ語は「kahua mokulele」。「Mokulele」(飛行機)のための「kahua」(グラウンド)という、比較的近年になってからの造語のようですが、今回はこの「mokulele」を手がかりに、いくつかのハワイ語をたどってみたいと思います。
 Mokuleleの「lele」は、「ノミ」(’uku)が「跳ぶ」(lele)が語源とされる「’ukulele」(ウクレレ)に含まれるものと同じ。飛行機が「飛ぶ」のも、ノミが「跳ぶ」のも音的に同じなのは日本語と似てますね。一方、「moku」はもともと「船」をあらわすハワイ語。「飛ぶ船」といえば「飛行船」なんてのもありますが、大勢のひとやモノを運ぶ乗り物という意味で、同じことばが用いられたのではないかと思われます。
 ところで「moku」には、「船」の語源だといわれているもうひとつの意味があります。そう、ハワイ島が「moku o Keawe」(Keawe王で名高い島)なんて呼ばれるときの「島」が「moku」なんですね。なんで船が島なのか!?って感じですが、その昔、ハワイのひとびとが、船を島のように眺めたことに由来するようです。水平線にポツンと見えはじめた点が、少しずつ大きくなっていく不思議な光景……それは、ハワイのひとたちがはじめてみた、ヨーロッパの大きな帆船でした*。移動する島という発想が素晴らしすぎますが、そこには初体験ならではの感動と驚きがあったものと思われます。18世紀末にハワイを訪れたキャプテン・クックが、ハワイの四大神のひとつ、Lonoと間違われたというエピソードも、船を島だと思って眺める素朴さなしにはありえなかったかもしれません。しかも、そんな「不思議の島」のイメージの原型ともいえる、ハワイに古くから伝わる神話があったりするんですね。先のLonoと同じく四大神として挙げられる、Ka*neとKanaloaが暮らしていた場所、その名も「Kane-huna-moku」(Kaneの隠された島)にまつわる物語です**。
 Kane-huna-mokuは、「ただよう雲の上」、あるいは「遠い彼方にある神聖なところ」に、永遠に続く自然の恵みとともにあると語られる謎の島。そんな、なんとなく「どこにもない場所」を思わせるKane-huna-mokuですが、神々によって隠されているだけで、確かにあるとされるのがまた不思議なところ。しかも、その存在がそれと示されるシチュエーションが、神話のなかでは具体的にイメージされているようなんですね。たとえば、夜明けや日没のトワイライトに包まれる時間帯に、遠い水平線のあたりで赤々と燃える光とともにあらわれるのが、Kane-huna-mokuであるといった具合に……。そう、あの誰もが息をのむひととき、真っ赤な太陽が、海と空とが出合う際にとどまる一瞬の光景ですね。そのあまりの美しさに、古代のハワイのひとびとは神的な存在を強く感じ、そこに神々の意志があらわれていると確信したのかもしれません。そんなふうにたどると、ますます神秘的な印象のKane-huna-mokuなのですが、Ka*neと直接つながりのある存在、たとえば「Kane of the thunder(雷のKane)」や「Kane of the water of life(命の水のKane)」(雨?)、「Kane who shakes the earth(大地を揺らすKane)」(地震?)といった自然現象を思わせる精霊たちもそこには暮らしているとされ、「隠された」「秘密の」(huna)島といいながら、実は結構身近なところで感じられていたのではないかと思ったりもします。だとすると、つまり「Ka*ne」とはあらゆる自然現象そのものであり、人間にとっては命の源であると同時にときに災いでもあるような、途方もなく大きな力を指し示すことばだったりするのかも……。ハワイを訪れると、日々、雨や風の訪れを感じつつ流れる時間がそこにあるのを感じるのですが、少なくとも古代のハワイのひとびとは、わたしたちには想像できないほど強烈に、自然のあらわれとともに生きる感覚を持ちながら暮らしていたのではないかと想像されます。
 空と海とのはざまにあって、苦しみも死もなく神々が無限の喜びを享受しているとも語られるKane-huna-moku。一方、「moku」を含むだけでそれ以上の共通点はなさそうなkahua mokulele(空港)……というわけで、はからずも無理やり感満載の展開になってしまいましたが、ここではない世界への入り口、そしてKane-huna-mokuがあるまさにその境目を飛び立つ場所という意味で、空港は現代のKane-huna-mokuかもしれない(?)というあたりで締めくくっておきたいと思います。

1)Beckwith M: Hawaiian Mythology. Honolulu, University of Hawai’i Press, p60, pp67-69, 1970

*:太平洋のほぼ中央に位置するという地理的条件から、大航海時代がはじまるまで、ハワイと外部との接触はほぼなかったものと考えられます。
**:Kanaloaは、ハワイの神話のなかでKa*neの対になる存在として登場することが多い神ですが、具体的に語られることは少なく、位置づけとしてはKa*neに敵対することもある、いわばキリスト教文化における「devil」のような属性を持つようです。

※オキナ(声門閉鎖音)は「'」、カハコー(長音記号)は伸ばす音の後ろに「*」
をつけています。ハワイ語は、とりあえずローマ字読みすることが可能です。

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コメント

Aki

Youtubeの
Youtubeのハワイ語ミニ講座no.4でハワイ島の絵でmokuを説明してますがHiloであってHiroではなくハワイ島は6つの地区から構成されているのに8区分に描いてあって誤解を招きます。

隙間のりりー

Akiさま

ご指摘ありがとうございます。
書き間違えてますね。Hiloが正解です。

Hiloをサウスヒロとノースヒロに分けて描こうとしたのだと思います。でもそれなら、コハラも二つに分けて、全体として9に分けるべきなので、訂正を入れたいと思います。

Aki

追記
おっしゃる通りNorth Hilo, South Hilo, North Kohala, South Kohalaと言います。でもNorth Kona, South Konaも言うのであなたの言い分だと9区分に分けるのですか?そんな分け方聞いたことないです。
それとMokuは動詞ではありません。切るの動詞はʻoki, ʻako, kaha等です。

隙間のりりー

Akiさま

重ねてコメントいただきありがとうございます。

伝統的な地域区分とは違いますが,統計をとったりする場合には9つに分ける場合もあるようです。


https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AF%E3%82%A4%E5%B3%B6


「moku」の品詞ですが,「to be cut」の意味で「stative verb」(状態動詞)と呼ばれます。






Aki

面白いですね
紛いなりにも言語を教えるなら伝統的なことを教えた方がいいですよ。統計学的なハワイ文化は誰も習いたくないですよ。ハワイ語に興味ある人は言語学者やそれを習う人を除いては状態動詞なんて言葉知らないですよ。動画ではそこまで説明せず突っ込まれるとそれに該当しそうな言葉を引っ張ってくる。状態動詞と日本語で言うのもしれないですがあなたがどうしてもMokuを動詞と言うならハワイ語では絶対にMoku au.. 私が...を切るとは絶対に言いません。私を論破する事よりあなたのサイトや動画を見てハワイ語を勉強しようとする人に誠実に教える立場Kumu (Source)であることの方が大事です。

隙間のりりー

Akiさま

いろいろご意見ありがとうございます。よかったら、どちらのかたなのか、非公開メッセージでも結構ですので、名のっていただけませんでしょうか。

せっかくご助言いただきましたので、ぜひよろしくお願いいたします。
非公開コメント

隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。