『ハワイ語のはなし』(未来に向かう「e」)


「e」の「これから感」






「これから感」というところから、いろんな「e」の使い方を解説したミニ講座です。
『ハワイ語のはなし124』とあわせてご覧ください。




ハワイ語のはなし124(2016年4月配信)


 まず動詞がきてから主語がきて……みたいな説明がつい多くなってしまう、この『ハワイ語のはなし』。いつかハワイ語で思いが伝えられるほどになれたらいいなぁ~なんてことを夢みたりしますが、いまでもこれならやれるかも!?と思ったりするのが、ハワイ語での呼びかけ。たとえば、「先生」(ke kumu)や「田中さん」にハワイ語で呼びかけると、それぞれこんなふうになります。

 E ke kumu!  先生!
 
 E Tanaka!  田中さん!

 えっ、これだけ!?って感じですが、名前や呼称に「e」をつけるだけで、いきなりハワイ語になっちゃうんですね。ハワイ語では重要なことが冒頭にくることが多いことを考えると、この「e」が欠かせないところに、まさにハワイ語的な感覚が含まれているのかもしれません。日本語の呼びかけだと「田中さぁ~ん!」みたいな感じで語尾に勢いがあったりしますが、これと同じように、相手というか前にことばを投げかける感じが、ハワイ語の場合は「e」に含まれているようです。
 そして、このなんとなく前に向かっていく「e」の性質は、呼びかけではない「e」にもみられたりします。たとえば、時間的な「これから」をあらわす未来の表現に、「e」が用いられるんですね。

 例文1)Hele   au  i   ke kauka.
     行く 私は  へ  医者
  私は医者へ行きます。

 例文2)E hele au  i   ke kauka.
      行く 私  へ  医者
  私は(これから)医者へ行きます。

 両者の違いは文頭の「e」があるかないかだけ。ですが、例文1)では時間的な内容があいまいなのに比べて、「e」ではじまる例文2)には、「これから」(未来)のことが語られている感じが「e」で表現されているわけです。ニュアンスとしては、遠い未来の話ではなく「近々行きたいと思っている」という含みがあるので、「未来」というよりは「意志」の表明に近い場合もあります。そして、ここで重要なのは、「意志」の表現になるのは、主語が「私」(au)である場合に限られること。逆にいうと、主語を変えることで、同じように「e」ではじまる文章であっても、ずいぶん意味が違ってきます。いくつか例を挙げてみると……

 例文3)E hele ka*ua   i ke kauka.
          私たち二人

  私たち二人で医者に行きましょう。

 例文3)で「私たち二人」と訳した「ka*ua」は、誰かに呼びかけながら用いられることば。なので、英語だと「let's go!」になりそうな、誘いかけの表現になります。

 例文4)E hele 'oe i ke kauka.
          あなた 

  (あなたは)医者へ行きなさい!

 直訳すると「あなたはこれから医者に行く」になりそうですが、これは一般的に、「命令文」と呼ばれる文章です。つまり、「あなたはこれから行くわよね」といいながら、「行かなきゃだめよ!」ということを伝えたいわけです。
 次に、「e」ではじまる未来の表現が、持続をあらわす「ana」(~している)と一緒に用いられる場合をみてみたいと思います。

 例文5)E hele ana au i ke kauka.
  
  訳1:私は(いま)医者に行くところです。(be going to)
  訳2:私は(これから)医者に行くところです。(will)

 この文章は、例文2)に持続の「ana」が追加されたものです。日本語の訳語では、微妙なニュアンスの違いがわかりにくいのですが、例文5)では「ana」に含まれる「持続」の意味が加わって、「いま行こうとしている」(進行中、訳1)であることが語られています。文脈によっては、「進行中でまだ終わってない」(未完、訳2)という意味での「未来」が表現される場合もあります。

 ここまで、未来を表現する「e」をみてきましたが、文脈によっては、「未来」というよりも、これからに向かおうとする前のめりな感じ、つまり「いまの気分」にスポットがあたる場合もあると思われます。そして、そんな思いの部分を表現しようとするときの「e」は、考えたり感じたりする動詞とともに用いられることになります。

 例文6)Makemake  au  e hele i ke kauka.
     ~したい(want)
  私は医者へ行きたい。

 シンプルな文章ですが、「makemake au e~」の「e」のあとを別のことばに入れかえると、とりあえず、いろんなやりたいことを表現することはできそうです*。直球過ぎる気もしますが、いちおう気持ちを伝えるハワイ語ではあるかもしれませんね。コミュニケーションができるレベルにはほど遠いですが……これからも、一歩(半歩?)ずつ、地道にがんばっていきたいと思います。

*:このときの「e 動詞」は、英語で「I want to go ~」と表現される場合の「to不定詞」にあたります。

参考文献
1)Hawkins EA: Pedagogical grammar of Hawaiian-recurrent problems.
Honolulu, University of Hawaii Press, 1982, pp38-44

※オキナ(声門閉鎖音)は「'」、カハコー(長音記号)は伸ばす音の後ろに「*」をつけています。ハワイ語は、とりあえずローマ字読みすることが可能です。
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。