『ハワイ語のはなし』(方向詞のニュアンスをつかむ)




ハワイ語のはなし208(2020年4月配信)
方向詞のニュアンスをつかむ



 それ自身に意味があるというよりも、一緒に使うことばにあるニュアンスを付け加えるのがハワイ語の方向詞。そのため、訳語を覚えるのではなく使い方に慣れる必要があったりしますが、今回は、まず知っておきたい方向詞ごとのニュアンスを、ざっくりまとめてみたいと思います。


● 4つの方向詞の基本イメージ

 まず、ハワイ語の方向詞「mai」「aku」「iho」「a‘e」それぞれの、基本的なイメージをまとめてみます。

mai 話し手に向かう方向

aku 話し手から離れる方向

iho 下向き

a‘e 少し未来、つぎ(となり)、上(アップデート)

 説明からわかるように、「mai」と「aku」はいずれも話者が基準になっていて、ちょうど反対の方向をあらわします。わかりやすいところでは……

ku*‘ai mai  買う
ku*‘ai aku  売る

 つまり、「ku*‘ai」そのものは「(売買の)取引」の意味しかなく、商品がどちらに動くかは、方向詞のところであらわされるわけですね。
 これと同じ要領で、「移動する」ことを意味する「hele」は、方向詞を使い分けることで、4通りの動きをあらわすことができます。

1)hele mai  来る
2)hele aku  行く
3)hele iho  下る、降りる
4)hele a‘e  一歩踏み出す。

 1)~3)はともかく、4)の訳は「なんでそうなるの?」と思われたかもしれません。注意したいのは、「一歩踏み出す」といっても、「前」であると同時に「上向き」でもあり、いまを新たに更新するという意味では「アップデート」のニュアンスがある点。文脈によって訳し分ける必要がありますが、「a‘e」に含まれる、いまを基点とする「これから感」を手がかりにしていただければと思います。


●メレに出てくる方向詞

 次に、メレに出てくるフレーズで、方向詞の使い方をみてみたいと思います。

Pa* mai ana ka makani.
(そうして)風がふいてきて……。
『Kona』より

 風の動きをあらわすのが「pa*」で、「mai」がそえられることで、風を受けているだれかの思いが語られていることがわかります。こんなふうに、「mai」には「au」(私)の存在を指し示す働きもあります。

Kau mai ka hali‘a aloha.
愛の記憶が不意によみがえってくる。
『Poli‘ahu』より

 「kau」は、なにかが「ある」「存在する」ことをあらわす動詞。それに「mai」がそえられることで、ここでも、よみがえってきた思い出を受け止め、こころ動かされるだれかの存在が暗示されているわけですね。受け止めるという意味では同じですが、次のような用例では、語り手の目の前に広がっていたであろう、空間の広がりが感じられたりもします。

Kau maila i luna
(‘Akakaの滝は)はるか見上げる場所にあり、
Lele hunehune maila i na* pali
繊細なしぶきをまとい、山々へと流れていたのでした。
『‘Akaka Falls』より

 「maila」は「mai」に「-la*」が付いたもの。「la*」は「i laila」(そこで、そこへ)、「ke*la*」(あの)、「pe*la*」(そのように)にも含まれる、対象との距離を感じさせることばです。ここでは、‘Akakaの滝が高い位置から流れ落ちるその距離感と、それを間近にみて感動しているひとの驚きが、「maila」のところに込められているわけですね。こんなふうに、方向といっても物理的なものの動きとは限らないことから、語り手の意識やまなざしのありかたを表現するのが方向詞である、ともいえると思います。
 最後に、まなざしの表現の典型例を挙げてみます。

He u‘i no* ‘oe, ke ‘ike mai
あなたって素敵よね、いつみても。
『He U‘i』

‘Ike aku i ka nani
みてごらん、りっぱだね。
Ka home a‘o Laimana
Lymanの家だよ。
『Laimana』より

 同じ「‘ike」(みる)ですが、「‘ike mai」だと対象を身近に受け止めている感じがあるのに対して、「‘ike aku」では、離れたものにまなざしを投げかけているニュアンスがあります。フラダンサーには、ここ一番の「目ぢから」が求められるところかなと思いますが、ことばが理解できてこその表現があると思うんですよね。そう、フラの優雅な動きを支えているのは、豊かな精神性のはずですから……。なにはともあれ、フラは語りであるという原点だけは、決して忘れずにいたいものです。


*お知らせ*
・『隙間のりりーのメレで学ぶハワイ語ミニ講座』
をはじめました。ぜひ、チャンネル登録をお願い
します。
https://www.youtube.com/channel/UC9xXI7Xk1uXri-2VsdyFKZg

※オキナ(声門閉鎖音)は「‘」、カハコー(長音記号)は伸ばす音の後ろに「*」をつけています。ハワイ語は、とりあえずローマ字読みすることが可能です。

・まぐまぐのメールマガジン『フラダンサーひろえのハワイ語のはなし』のご登録は、以下のサイトからお願いします。
https://www.mag2.com/m/0001252276.html

スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。