『ハワイ語のはなし』(説明のフレーズ「i」「i~ai」「e~」「e~ana」)






ハワイ語のはなし209(2020年5月配信)
「述語は前」「説明はうしろから」のその先へ



 「述語は前」「説明はうしろから」というと、まず押さえておきたいハワイ語の基本中のキホン。今回はこの語順ルールについて、少しレベルアップしたところでの解説を試みたいと思います。


●「美しい」と「美しい(です)」の違い

 まず最初に、位置が変わることで同じことばでも働きが変わるあたりを、シンプルな例でみておきたいと思います。ハワイ語の「nani」(美しい)が、位置の違いによって別の役割を持つことに注目してください。

1)Nani ke*ia pua.  この花は美しい(です)。

2)Ke*ia pua nani.  この美しい花。

 文頭に置かれた1)の「nani」(美しい)は、役割としては「美しいです」と訳してもいい述語。一方、1)の前後を入れ替えただけですが、2)の「nani」はうしろから「ke*ia pua」を修飾している、つまり、どのような花であるかを説明することばとして用いられています。こんなふうに、ときに述語、ときに修飾語である「nani」が、文法用語では「状態動詞」と呼ばれることも覚えておきましょう。
 そして、前から後ろに移動すると説明に変わるこの語順ルールは、「状態動詞」以外の動詞にも共通するものだったりします。なので、少し長くて複雑そうにみえるフレーズも、このことを押さえておくことが、なにより訳語を探すときの手がかりになります。


●うしろから説明する自動詞

 次に、位置による役割の変化を、自動詞で確認してみたいと思います。自動詞といえば、「自ずと動く」というその名の通り、「走る」「飛ぶ」「鳴く」といった、なにか別の対象におよぶことなく完結する動作、つまり「目的語を持たない動詞を指します。
 そんな自動詞が、うしろから説明のことばとして用いられる例を挙げてみると……

3)ka 'i*lio i hae ほえた犬。

4)ka moku i holo  航海した船。

 3)ではうしろの「i hae」が「ほえた」、4)では「i holo」(航海した)の部分が、自動詞による説明のフレーズです。それぞれ「~した」と過去の出来事として訳しているのが「i」の部分。そして、この「i」ではじまる説明のフレーズを前に移動するとどうなるか……そう、やっぱり前だと、述語になるんですね。

5)Ua hae ka ‘i*lio 犬はほえた。

6)Ua holo  ka moku 船は航海した。

 あれっ?「i」が「ua」に変わってる……そう、文中で説明のフレーズを導いた「i」は、文頭では「ua」に変わります。変わるというより「化けた」といいたくなる変わりようですが、動詞の活用がいっさいなかったりするハワイ語ですから、どうかおおめに見てやってください。
 もう少し自動詞のはなしを続けますが、今度は「i」とは逆向きの未来に向かう「e」を用いたフレーズで、位置による説明と述語の使い分けをみてみたいと思います。

7)ka wahine e hula 

 踊る女性

8)ka wahine e hula ana  

 踊っている女性(持続)
 踊るであろう女性(未来・未完)

 ここではまず、「hula」が「フラ」ではなく「踊る」という動詞であること、そして、動詞の前に付く「e」に「これから感」があることを押さえていただきたいと思います。そのうえで7)と8)を比較してみると、7)は「これから」といっても、習慣的に「(いつも)踊るひと」くらいの意味で、いつの話かといえば「無時制」といったほうがいいニュアンス。一方、8)には、持続のニュアンスがある「ana」が一緒に用いられていることから、「(いま)踊りつつある」(持続)、あるいは「(これから)踊る」(未来・未完)という意味合いがあります。
 そして、「e~」の部分を前にもってくると、やはり説明は述語に変わります。たとえば、8)の前後を入れ替えると、次のような文になります。
 
9)E hula ana ka wahine.

 女性は踊っている。
 女性は踊るでしょう。

 いかがでしょう。個々の単語の意味だけでなく、文中での位置が重要であることがおわかりいただけたのではないかと思います。


●主語以外を後ろから説明する場合

 状態動詞、自動詞と続いた締めくくりとして、最後に他動詞を取り上げたいと思います。自動詞が目的語をとらないのに対して、「他に働きかける動詞」である他動詞は、目的語をとることができる動詞。たとえば……

10)Ua wili ma*kou i ka lei.

 私たちはレイを編みました。

 この文では、「i ka lei」(レイを)の部分が目的語ですね。次に前後を入れ替えて、「ua wili」(編みました)を説明のフレーズにしてみると……

11)ka lei i wili ai ma*kou.

 私たちが編んだレイ。

 先にみた自動詞の例とは異なり、ここでは「ua」を「i」に変えるだけでなく、「i wili ai」と「ai」を添える必要があります。このときの「ai」の役割はなにかというと、「i wili ai ma*kou」(私たちが編んだ)という連なりが前に関係している、この例では「wili」(編む)という他動詞の目的語が前にあることを印すことにあります。一方、「ai」をともなわない自動詞の例として挙げた3)4)をあらためてみてみると、「i hae」(ほえた)の前の「ka 'i*lio 」(犬)、「i holo」(航海した)の前の「ka moku」(船)が、それぞれ「i」に続く動詞の主語になっています。つまり、説明のフレーズが「i~ai」となるのは、主語以外の文要素をうしろから説明する場合、というわけです。
 そして、主語以外の文要素は目的語とは限らないことから、目的語をとらない自動詞でも、同じように「i~ai」が用いられる場合があります。

12)I laila i hula ai ka wahine……

 女性が踊ったその場所で……。

 こんなふう「i laila」を先に述べると、「その場所で」にスポットがあたっている印象になりますね。これを「踊りました 女性は その場所で」と並べると、ハワイ語の基本語順になります。

13)Ua hula ka wahine i laila.
 
 女性はその場所で踊った。

 語順が変わるとあらわれる「ai」についてもう少し補足すると、「ai」は、それが添えられている動詞を説明するフレーズが、動詞よりも前にあることを印しているともいえます。でも、あれ?って感じですよね。説明はうしろからのはずなのに……そう、うしろにあるはずのものが前にあることを示すのが、なにより「ai」の役割なんですね。それ自身を積極的に訳す必要がないためスルーしがちなことばだったりしますが、まずは「語順が変わっている印」くらいにとらえるところから、その先を目指していただきたいと思います。

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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
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