まず、メレのハワイ語の特徴として挙げておきたいのが、教科書的な文章に比べると、省略されている部分がかなりあるということ。メレのハワイ語が美しくリズミカルなのはそのためですが、語られているストーリーをしっかりとらえるためには、ある程度、省かれている部分を補いながら読む必要があります。たとえば、「Auhea wale ana ʻoe」(聞いてください)ではじまるメレは、この宣言でもって「あなた」(ʻoe)に呼びかけている私の存在が示されています。つまり、「私」という意味合いのない「Auhea」に続くフレーズが「私」を暗示しているので、あとに続く歌詞に、主語である「au」(私)が必要なかったりするわけですね。「E hoʻi mai」(こちらへいらっしゃい)といったフレーズでも、手招きするように誘う「au」(私)の存在が、話し手に向かう方向をあらわす「mai」で示されています。「(ここに)ある」と訳される「eia」あたりも、その場所にいる語り手を強く感じさせることば。なんだかよそよそしいフラにならないためにも、「mai」や「eia」に「au」(私)が含まれていることを感じながら踊ることは、案外大切ではないかと思われます。
●強調したいことを印す「ʻo」
こんなふうに、メレではあえて語られなかったりする「au」(私)ですが、逆に「au」が登場するときは、あらためて私を強調したい場合だということになります。このとき、「ʻo au」と強調の印「ʻo」が一緒に使われることが多いことも、ぜひ覚えておきましょう。この「ʻo」については「主格マーカー」(主語の印)と説明されることもありますが、主語かどうかを決めるのはあくまでも文中における位置なので、「ʻo」ときたらまずはそこにスポットがあたっていることを意識する必要があります。たとえば、「ʻo ʻoe, he pua i ako ʻia」(『He Uʻi』)なんかも、「あなたは積まれた花です」ではなく、「あなたといえば、そう、摘まれた花なんですよ」みたいに訳したほうが、ハワイ語そのもののニュアンスに近くなります。微妙な違いですが、フラの表現力を左右するという意味では、見過ごせないところかなと思います。
●冠詞の使い分けは、ストーリー展開を知るなによりの手がかり
ハワイ語の名詞には定冠詞「ka/ke」もしくは不定冠詞「he」が付く……ハワイ語学習者がまず記憶する文法事項ですが、メレを読むときにぜひ意識していただきたいのが両者の使い分け。このあたりがわかってくると、ストーリー展開や語り手の気持ちの起伏がたどれたりするので、ダンサーにとっては、なによりメレの世界に入り込む手がかりになります。 まず押さえておきたいのは、不定冠詞「he」が説明文を導くことばであること。たとえば、「he pua kēia」(これは花です)みたいな仕方で、あるものの属性をあらわすのが「he」。一方、「Makemake au i ka pua」(私は花がほしい)といったフレーズでは、「he」ではなく定冠詞「ka」が使われます。手に入れたい対象は具体的に存在するはずなので、その輪郭をはっきりさせてくれるのが定冠詞であるともいえます。なので、目の前にいる「花(のようなひと)」に呼びかけるときは「e ka pua」、「あなたは美しい花のようなひとだ」とたとえるときは「he pua nani ʻoe」となります。 冠詞に注目してみると、メレによって「he」と「ka/ke」がバランスよく配置されているものもあれば、どちらかが極端に多かったり少なかったりといった違いがあることがわかります。「He」が説明文を導くということは、そこにいわば聴き手と語り手の対話があるともいえますが、それがまったくないメレでは、場合によっては、語り手が勢いよくしゃべり続けているような雰囲気になったりもします。そう考えると、積極的に訳されることのない冠詞にも、メレを解釈する手がかりがあるといえそうですが、まずは「he」のところに、対象をあらためて説明しようとする語り手の意図を感じていただけたらと思います。
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