いきなり夜の子ども(kamali'i o ka po*)ってなんだ?って感じの『Kamali'i O Ka Po*』。ですが、これに続く「Wa*kea」と「Papa」がなんなのかがわかってくると、奇妙に思われることばの連なりの意味が見えきます。そう、この歌に描かれているのは、ハワイの創世神話、『Kumulipo』に登場する「この世界」の誕生と、それに続く「はじまりの人間」をめぐる物語なんですね。父なる天「Wa*kea」が降らせる雨によって、母なる大地「Papa」がうるをされ、そこに、人類の起源ともいえる生命が誕生する……それにしてもの「夜の子ども」(kamali'i o ka po*)と「昼の子ども」(kamali'i o ke ao)なのですが、これについては、通常「子ども」を意味する「kamali'i」を、その後成長していくなにものかの「はじまり」と考えてみたいと思います。それは、深い深い闇としかいいようのないものしか存在しなかった(というか、存在と非存在の区別もなかった)ころに現れた、「夜(po*)」と「昼(ao)」の境目(あるいは秩序)のはじまりで、それに続いて現れたのが天と地の輪郭だった―そうやって、(物理的な)上も下もなかった世界に、まるで子ども(kamali'i)が生まれるような未来をともなって、この世界は生まれたのでありました……。
おそらく、なにかがたとえられているだろうことは察しがつきますが、それがなんなのかは、この部分だけを読んでも謎だったりします。なので、ここでは試みとして、この歌が収録されているCDの歌詞カードにある、歌詞には直接含まれていない部分の英語訳、「すべてが正しい場所にあるということ、これこそが責任(kuleana)」が意味するところをあわせて考えてみたいと思います。 ハワイ語の「kuleana(責任)」には、「portion(分け持たれた部分)」という意味があって、語源的には、自分がそのケアを引き受けるべく分け持つ土地に対する責任というところからきているようです。だとすると、あなたにとっての「その場所」、魚の間にあるその「部分」とは、あなたと呼ばれているだれかにとってのkuleanaだということになると思われます。そして、その頭としっぽがどこかわからないというのは、おそらく、はじまりもおわりもなくはてしなく続く連なりの中にあって、その間(いまここ)で責任を担うのがあなたであるということだと思うんですね。そして、もうひとつ重要なのは、このあなたは、1番で「私はここにいます」と宣言しながら、世界の誕生に立ち会っている私のことでもあるはずだということ……『Kamali'i O Ka Po*』は、人間が存在するからこそあるといえる「この世界」に対するわれわれの責任を、強靭かつしなやかな精神によって徹底的に考え抜こうとする、そんな、世界への態度表明ともいえるような歌なのでした。
参考文献 Beckwith M: Hawaiian Mythology. Honolulu, University of Hawaii Press, 1970 Pukui MK: O*lelo No'eau, Hawaiian Proverbs and Poetical Sayings. Honolulu, Bishop Museum Press, 2008
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