Ke A*nuenue

Ke A*nuenue





 虹(ke a*nuenue)は美しい
 La* 'ea, la* 'ea
 天高くかなたへとアーチを描く
 La* 'ea, la* 'ea

 虹が美しいのはわかるけど……それで?とつい口にしそうなくらい、あまりにもシンプルで、多くを語っていないように思える『Ke A*nuenue』。虹のかなたというと、まずは『Over the Rainbow』(映画「オズの魔法使い」の挿入歌)に歌われているような、こことは違うどこか別の世界へ誘われる印象がありますが、この歌に描かれているのは、あくまでも「この世界」だったりします。たとえば、こんな具合に……。


 雨が降る
 La* 'ea, la* 'ea
 そして、大地はうるおされる
 La* 'ea, la* 'ea

 そう、虹といえば、「ka ua」(雨)。ひとしきり降ったあと、水滴をいっぱい含んだ空中に、太陽(ka la*)の光がたっぷり降り注いで輝くの虹なんですね。また、「大地はうるおされる」と訳した「Ho'o*la e ka honua」の「ho'o*la」に、「生命を与える」という意味があるあたりには、雨(ka ua)がもたらす水(ka wai)が、この大地をすみかとするあらゆる命の源であることが歌われているようにも感じられます。アスファルトに覆われた日常のなかで、完璧に忘れられている感覚かもしれませんが、これってハワイでも日本でも、というか、地球上のいたるところにある自然の営みを描写しているのでは……そんなことを思いながら、少し気が遠くなってきました。

 (命を与えられて)あらゆる植物たちが芽吹く
 La* 'ea, la* 'ea
 そして大地は、ますます美しくいろどられる
 La* 'ea, la* 'ea

 太陽の光が降り注ぐ
 La* 'ea, la* 'ea
 そして、花々は咲きほこる……
 La* 'ea, la* 'ea
  
 ここまで読んでみて、最初に「虹は美しい」といわれて感じた「それで?」といいたくなった思いが、まったく別物に変化していることに気づきました。虹の現れがその一部分であるところの水の循環や、それを助けるかのように降り注ぐ太陽、雲をつれてくる気流、深く水をたたえる海の蒼さ……この歌には、そんな自然に対する賞賛にも近い思いが表現されているのではないか―そんなふうに思えてきたんですね。そう、歌詞の半分を占めている「la* 'ea, la* 'ea」*には、生かされてあることへの感謝と喜びが表現されている……。ハワイのひとびとにとっての虹は、美しいだけではない、人間を超えた大きな力の象徴でもあるような、そんな現れに違いないと……。
 そういえば、つい先日、このお正月の休みにハワイに行ってきた友人が、旅のあいだ中、いたるところで虹に出合った話をしてくれました。雨が多い時期だからといってしまえばそれまでですが、それだけではないなにかを感じさせるところがハワイの虹には確かにあります。そう、なんというか、いまここにいることが奇跡に思えてくるほど、ハワイの虹の美しさは格別なのです。と同時に、ひとに敬虔な思いを呼び覚ます、特別な空気に包まれてもいる……私自身の旅の記憶をたどりながら、そんなことをあらためて考えされてくれた、『Ke A*nuenue』なのでした。


*:ハワイアンソングにおいて、(たとえば「ラララ」「ルルル」みたいに)感情の高まりをことばではなく音で表現するときによく登場するのが、この「la」や「'ea」だったりします。

Composed by Mary Kawena Puku'i &Maddy Lam
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隙間のりりー

フラダンサー&ミュージシャンを応援するハワイ語講師。
メレの世界を深く知るためのハワイ語を、わかりやすく解説します。